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第39回・特に意味の無い話

同じ行為でも個人差があって、それぞれ行動は違う。
例えば、私のパートナーは、顔を上に向けて洗髪をするが、私は逆だ。
顔を下に向けて行う。

何度か「なぜ顔を上に向けて洗うのか」と聞いたが、その度に「前屈みになると、腰が痛くなる」とか「下を向くと、目にシャンプーが入りそう」とか「溺れそう」とか、それらしい理由が返ってはきたが、たぶんそれらはなんとなくであって、本当はただの習慣。
体に染み付いたクセなのだと思う。

実際、私は顔を下にしてシャンプーをしていても、目に入ることは滅多に無いし、溺れたことも無い。
何がキッカケかは分からないが、その動作の方が楽だったり、心地良かったりするから、自然とそれを選んだのだろう。

顔を上に向けて洗っている方が、よっぽど腰が痛くなりそうだし、目にシャンプーが入りそうなのだが、とやかく言う必要は無い。
どの方向を向いて、何を見ていようが、そんなことは重要では無く、洗髪している時に重要なのは、汚れをしっかり落とし、洗えているかだ。
それが『洗髪をする』ということだ。

この間、下を向いて洗髪をしている時、私は自分の左スネの傷痕を見ていた。
もう4年ほど前に付いたものだ。

職場の駐輪場で、後輩が自転車を引き出そうとした時に、その右ペダルが、私の左スネに当たった。
別に勢いもなく、軽く当たった程度だったし、「ごめんなさい!ごめんなさい!」と謝罪の方が勢いが良く、後輩もわざとではなかったので、「全然大丈夫〜」と終わらせたが、帰ってから確認してみると、思っていたよりは、しっかりと傷が付いていた。
止血しながら、傷が消えるのは1ヶ月程度かな?なんて考えていたが、4年経った今も痣のように変色した状態で確認出来る。

自分の身体を侮っていた。
歳には抗えないのだ。

月の表面には、隕石が衝突して出来たクレーターが、数万個もあるのだと云う。
そして、その一つ一つに、研究者さん達が『なぜ出来たのか?』『いつ、どれくらいの隕石が、どんな風に』と真面目に向き合っているので、とても失礼な言い方にはなるが、そんなことは、私にとっては関係無い。

意味無く流れてきて、意味無く衝突して、意味無く傷痕が出来た。
それで充分だ。

月のクレーターの様に、私の身体には、スネ以外にも傷痕が沢山ある。
見える傷。見えない傷。
誰にだってあるかもしれない。

ただ、それに意味を求めても、本当は意味なんて無いものなのかもしれない。
意味なんて無くていい。
考えるから楽じゃなくなるし、心地が悪くなったりする。

シャンプーの体勢も、興味も関心も、どんなでも良いし、どうでも良い。
このまま洗い流してしまえばいい、余計な考えは。
スネの傷痕を見ながら、私はそんなことを考えていた。

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