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留守番電話と尊敬語で考えた話(ランダム単語) 第四話


noteオリジナル小説を書きたいと思い投稿してみます。

ランダムに単語を出現させるサイトで偶然出た(留守番電話)(尊敬語)を組み合わせて考えた小説です。読んでいただけると幸いです。なるべく短い話数で終わる予定です。よろしくお願いいたします。下記よりスタートします。※若干加筆しました。

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丁度さっきのチャイムが昼休み開始のチャイムだったので、一応はこうやって堂々と廊下を歩けているわけだけど、もう少し自重して歩けないのかなと、前をスタスタと歩く咲の背中を見つめながら僕は思った。

これまではあまり意識はしてなかったけど、さっき文太に絡まれて、咲に敬語のせいでと指摘され、有留先生に目を付けられてしまったことで、僕は妙に神経質になってしまったようだ。

でも、僕はこの敬語が身に染みついている。郷に入っては郷に従えとは言うけど、僕はこんな郷には入りたくはない。そもそも望んでやって来た郷ではないのだから・・・。

咲は今度は二階へとやってきた。二階は当然二年生のクラスなのだが、他には音楽室や視聴覚室などの特別教室もあるフロアだった。

咲は相変わらず物怖じせず歩いていたが、段々とその歩幅が狭くなっていくのに気が付いた。突然どうしたというのだろう。プール横の更衣室からここに来るまで、背中と丈の長いスカートが揺れるのしか見ていないから、咲の表情を伺い知ることは出来なかったし・・・。

そしてとうとう咲の足は止まってしまった。でも、きちんと教室の前で止まっている。僕は扉の上についているパネルを見た。そこには理科室と書いてあった。

何故に理科室なんだろうか?ここにこの学校がおかしくなった謎があるというのだろうか。

「・・・あ、あの、どうしました?」

僕は恐る恐る聞いてみた。何で同級生に恐る恐るしないといけないのかなとも思うけど、咲にはそういうオーラが出ているから仕方がない。

「・・・おい、あんたから入りなよ」

咲は唐突にそんなことを言った。その声はなぜか少し震えていて小声だ。

「え?どうして僕が?」

当然僕はそう返すわけだけど、その途端に咲はキッと鋭い目を僕に向けてきた。

「いいから、言われた通りにしな!」

その凄みの凄いこと。僕は「はい!」と震えるどころか裏返った声でそう返した。


理科室の中は、別段いつもの理科室だった。黒い机が平行に並べられ、背もたれのない真四角の椅子が置かれている。間々に水道管とガス管が繫がれていて、教室をぐるりと囲むように並べられた木のガラス棚の中には、ビーカーやらフラスコやら顕微鏡やらのおよそここでしかお目にかかれないものが並べ置かれていた。鼻に微妙に香ってくるこの独特の薬品の臭いもいつも通りである。

今は昼休みなので当然教室には誰もいなかった。しかも分厚い遮光カーテンで窓を全面覆っているので、あの初夏のお天道様を拝むことは出来ずに、部屋は薄暗かった。

なんか普段は授業以外では入らない教室で、しかもこんなうす暗い環境で女の子と二人っきりというのは、僕の頭の中に様々な妄想を駆け巡らせるにふさわしい環境だったけど、当の女の子である咲は、全くそんなことを考えている素振りは見せず、教室の中をグルグルと何だかイライラした様子で見渡していた。

「あれ?昼休みなんですかね・・・」

僕は教室前方にある、これまたここでしかお目にかかれない、上下にスライドする黒板に書かれている文字に気が付いた。薄がりでよく見えなかったが(ただいま昼ご飯を買いに行ってます)とチョークで書かれていた。

「・・・なんだ、そうだったんだ」

咲は僕の言葉を聞くと、妙にホッとした様子だった。一体さっきからどうしたというのだろう。理由を聞きたいけど、たぶん聞いたら最後、この窓から投げ落とされそうな殺気をさっき感じたので止めることにした。

あの黒板の字を書いた人物はおそらくこの学校の理科の先生で間違いないだろう。まあ、理科室に書いてあるんだからそうなのは間違いないし、あの特徴的な書き方にも覚えがあった。

「・・・あの、先生に用事があるんですか?」

僕はさすがにこれくらいは聞いていいだろうという質問を咲にぶつけてみた。すると咲は「まあね」と簡単に返すだけにとどまった。もう少し具体的に聞きたいところだったが、それを阻む殺気が咲から放たれていたので、僕は大人しく状況が変わるのを待つことにした。

五分経った。明確に五分と分かるのは、例の黒板の上に掛けてある、大判の丸時計の針をずっと見つめていたからだ。そうでもしてないと、このヒリヒリとした沈黙を乗り切る術がないのであった。

咲は黒い机にもたれ掛かって腕組みをしている。その表情はこの暗さで伺い知ることは出来なかったが、多分目を瞑っているのは確認できた。

それからさらに五分程針が進んだなと思った矢先、ガラリと教室の扉が開いた。これほどの静寂にもかかわらず、時計にばかり集中していた僕は、突然開け放たれた扉の音に思わず飛び上がってしまった。

「う~ん?こんな所で逢引きかい?どうせなら保健室に行くといい、今日はあそこは空っぽの筈だ」

気怠そうにそう言ってビニール袋片手に入ってきたのは、この学校の理科の担任である松戸細園(まつど さいえん)先生だった。長身でシュッとしていて長い髪を束ねた中々の美形な先生である。

「お、お疲れ様です・・・」

僕はそう言って深々と頭を下げた。

「君は確か一年生だったね」

「は、はい。申し訳ございません、先生の留守中に無断に教室に入りまして」

僕は礼儀として至極まっとうに謝罪をした。

「う~ん、別に構わないよ。ただ逢引するなら保健室の方が都合がいいと思って言っただけ、ベッドもあるんだし」

先生は何の恥ずかしげもなくさらりとそんなことを言った。僕は思わずこの暗がりでも分かる程に顔が紅潮しているのを感じていた。

「・・・あのさ、松戸先生、先生に話があって来たんだよ」

やっとここで咲が口を開いた。しかし松戸先生か。いつもは有留先生を始め、教師は全員先公呼ばわりなのに。

「ああ、君は知ってる、一年の透場君だね」

僕はその瞬間気が付いた。咲の唇が少し動いたことを。しかも上の方にだ。僕なんか名前すら覚えてもらえていないのに。

「・・・あのさ、先生に話があって来たんだよ。時間ある?」

「う~ん、食べながらでもいいかい?腹が減ってね」

先生はそう言って、手に持っていたビニール袋をヒョイと僕らの目線まで上げた。そういえば、僕らもお昼まだだった。まあ今は謎の事でお腹が一杯だけども。

「勿論です。勝手に喋りますから・・・」

なんかさっきから咲の様子がおかしい。妙にしおらしいというかなんというか・・・。

「頼むよ。じゃあ頂きます・・・」

先生は近場の椅子に腰を下ろすと、袋からソーセージパンと缶コーヒーを取り出した。どちらもここの購買部ではお馴染みのラインナップだった。

「・・・先生はこの学校がおかしいことを知ってますよね?」

咲はいきなり本題を切り出した。そういうところは謎にしおらしくても変わらないらしい。

「まあね、今年の春からかな。あれじゃみんな暴走族だよ」

先生の暴走族という言葉に、一瞬咲の眉が動いたように見えた。って、さっきから僕は何をジロジロと咲の顔ばかり見てるんだろう。

「暴走族っていっても、学内を自転車で乗り回すだけの暴走族ですからうちら」

咲は少し不機嫌そうに言った。知らなかった。咲が黒薔薇連合を率いているのは知っていたけど、バイクじゃなくて自転車だったのか。でも、仕方がないのかもしれない。この学校は全寮制で、外に出ることはまず出来ない。だから学内だけで暴走族をやるって事なら、咲みたいなやり方しかできないだろう。

「・・・で?僕に聞きに来たっていう理由を知りたいな。」

確かにそうだ。なぜ咲は松戸先生の所にやって来たのだろう。

「・・・先生ならまともに話ができると思ったんです」

「・・・それだけ?」

本当だ。本当にそれだけなの咲?

「・・・先生は、他の先公とは違う。先生は冷静で暴力的なところは一切ない。頭もいいしね」

「ありがとう、褒めてくれて。君のような聡明な人に言われると純粋に嬉しいな」

「そ、そうめい・・・」

その瞬間、咲の顔がさっきの僕の紅潮並みに染まっていくのに僕は気が付いた。そしてその瞬間、僕は悟った。咲がこの松戸先生の元を訪れた理由を。

「でも、残念ながら僕から君たちに知恵を授けることは出来そうもない。この学校に赴任してきて三年が経つけど、こんな異常事態は初めてだよ」

「そ、そうですか・・・」

う~ん、やっぱりそう簡単にはこの謎は解けないらしい。確かにこの学校には珍しく、松戸先生は冷静で物静かな先生だ。こんな狂った学校の中でも唯一話が分かる人だろうと僕も思うけど。

「まあ一つ、参考にするかは君らの自由だけど、この学校がおかしくなった時期を考えてみる事じゃない?変わる前と変わった後の境目に何か変わったことがなかったかを調べてみるとか」

なるほど、確かにこの謎を解き明かす取っ掛かりとしては最善の方法かもしれない。

「わかりました。そうしてみます・・・」

「健闘を祈るよ。また何かあったら頼ってくれてもいい、おっと・・・」

先生はそう言うと、ポケットの中をごそごそとやった。するとイヤホンを取り出し、それを耳にはめた。休み時間でもやっているのか。先生の癖らしいが、一時間に一回はポケットに忍ばしたスマホからイヤホンを通してクラシックを聴かなくちゃ落ち着かないらしい。いつも授業が終わる直前に耳にはめて聞き出すのを、これまで何度も目にしている。

「こんな殺伐とした学校ではこれが唯一のオアシスなんでね・・・」

先生はそう言って静かに目を閉じた。食べかけのパンとコーヒーを手に持ったまま。そしてその瞬間、校内スピーカーから聞こえるチャイムの音。昼休み終了五分前を知らせるチャイムだ。しかし、この学校のチャイム、別に意識しなければ普通のチャイムなんだけど、よく聞くと微妙に音ズレしてる。地味に不快だ。

僕らは先生の邪魔をしないようにと、そっと教室を後にした。

そして僕は謎に悶々としていた。また新たな謎か。疲れるな全く▪▪▪。





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