留守番電話と尊敬語で考えた話(ランダム単語) 第一話
noteオリジナル小説を書きたいと思い投稿してみます。
ランダムに単語を出現させるサイトで偶然出た(留守番電話)(尊敬語)を組み合わせて考えた小説です。読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。下記よりスタートします。
追記 マガジンにてまとめさせていただきました。
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「この学校は狂っています・・・」
僕は中学までは順風満帆で将来有望の優等生だった。
「君は我が校の模範生だよ。それは成績が優秀なだけじゃない。言葉さ。君の言葉使いは本当に美しい。敬語がとても自然に美しく出てくる。君と話していると、本当に相手を敬っているんだなと伝わるよ」
校長先生から直々にそう言われた日が懐かしい。
実際、僕の家は厳格な家柄で、両親共々教師をしていた関係で、子供の頃から躾にとても厳しかった。
中でも躾られたのが言葉使い。目上の人はおろか、両親にでさえ敬語を使うことを義務付けられた。少しでも乱れた言葉を使おうものなら、それが外なら見世物の様に公然と叱られ、家の中なら同じように叱られた後に、晩飯が抜きというペナルティがあった。
そんな家庭事情を学校で話したりすると、みんな一様に驚き途端に僕に同情してくれた。気持ちは嬉しいが、僕にとっては生まれた時からのしきたりなので別段辛いと思ったことはなかった。偶にお腹は空いていたけどね。
そんな僕だから、今日も相変わらず教室を飛び交うこの汚らしい言葉遣いに、すっかり参ってしまっていた。そして思わず出てしまった一言、それが・・・
「この学校は狂っています・・・」
だった・・・。
「おいお前、さっきから何俺たちを見てんだよ?」
しまったな。目を合わせないように気を付けていたのに勘付かれていたか。
「べ、別に見ていません」
「いいや見てた!てめぇ、舐めてんのかよ!名を名乗りな」
「ク、クラスメイトの名前も知らないのですか貴方は」
「んだと?舐めた口ききやがって」
男は今にも僕の胸ぐらを掴みそうな勢いだった。
この野蛮な男の名前は嵐望文太(らんぼう もんた)
名前の通り乱暴者でこのクラスを仕切っている番長みたいな男である。大柄で太っていて、まさしく番長柄といった風貌だ。
今も数人の手下を囲って、教卓に両足を乗せて騒いでいたところだ。
そんな彼をチラチラと見ていたことに勘付かれてしまったらしい。文太は教卓を蹴飛ばして血相を変えて僕の席へとやってきたのだった。
「今は自習の時間の筈ですよ。それなのに席に着かずに騒いでいらっしゃる貴方達が悪いと思います」
「ああ?別にいいじゃねぇか、俺たちが何をしようと勝手じゃねえか」
「貴方達がすることは勝手かもしれません。ですが、それを行うことによって迷惑を被るものがいることを忘れないでほしいのです」
「かぁーー!うるせぇなぁ!勝手なら勝手にやらせろってんだ。第一、てめぇのその喋り方、いい加減ウザいんだよ、気持ち悪いんだ女みたいな喋り方しやがって」
「こ、これは敬語を使っているんです。男とか女とかは関係ありません」
「うるせぇ!これ以上喋ると、ぶん殴るぞ!!」
文太の凄みに僕は思わずのけ反った。そして思わず、席から転げ落ちそうになる瞬間、僕に救いの手を差し伸べる人が現れた。
「そこまでにしときなよ文太、またやられたいのかい?」
「ぐっ、透場か、べ、別に俺は何もしてねぇんだ。こいつが俺にガン飛ばすからよ」
僕を助けてくれたのは、このクラスの紅一点である透場咲(すけば さき)だった。
「そりゃガンも飛ばしたくなるよ、あんなバカ騒ぎしてたらさ、猿とおんなじだね。いいから大人しくしてな、これ以上騒ぐとこのガンを飛ばしてやるから」
そう言って咲は丈の長いセーラー服のスカートの中から銃を取り出した。当然エアガンだということは知っている。
「ぐ・・・わ、分かったよ・・・」
さっきの凄みは何処へやらといった感じで、文太は踵を返して自席へと戻っていった。
文太がエアガンを怖がって踵を返したんじゃないことは知っている。まあエアガンも撃たれれば痛いけど、それ以上に痛いのが、この咲を敵に回した時だ。
咲は何とか連合とかいう、女性ばかりの暴走族を一年生という身ながら率いているらしい。その凄さを僕が直接知ることはないけど、この高校だけでなく、方々に噂になっているというのは知っている。このクラスの番長である文太でさえ、すごすごと自席に帰るのだから大したものだ。
それに咲の凄さはそれだけじゃない。その見た目の美しさも方々に知れ渡っているのだ。大人びた黒髪のストレートを束ねる姿が美しく、目もキリッとして実に決まっている。今は丈の長いスカートに腕まくりのセーラー服という、ちょっとアレな格好だけど、髪を解いて白いワンピースにでも身を包もうものなら、たちまち清楚なお嬢様の誕生といったところである。
「・・・あんた、ちょっと顔を貸しなよ」
咲は文太が席に戻るのを見届けた後、急に僕にそんなことを言ってきた。戸惑う僕、顔を貸すっていうのはどういう意味だろう?まさか僕の顔がアンパンだとでも思っているのだろうか?
「あ、あの・・・」
「ああ、まどろっこしい!早くついてきな!」
咲は僕の腕を強引に掴むと、僕を席から引き離し、そのまま教室を出た。自習だからいいものの、俺は一体どこへ連れていかれるんだ?まさか例の何とか連合のたまり場とかじゃないだろうか?そんな展開になったら恐ろしすぎる。
咲は僕の腕を引いてグイグイ廊下を進んでいった。そして、階段を二つ上がる。二つ上がるということは、僕ら一年にとっては近寄りがたい聖域的な場所である、三階の三年生のフロアへと出る。
思わず腕だけでなく心臓まで掴まれる思いがしたが、咲はその三階をスルーした。そして再び階段を上がる。三階の次は何処へ行くんだって、それは四階に決まっているけど、四階には何があるんだっけ?
四階にはフロアはなかった。小さい踊り場の先にこれまた小さいドアが一つあるだけだった。
僕は何となくそれで察した。咲は僕の掴んでいた腕を離すと、その手を今度は目の前のドアノブへと伸ばした。錆びているのか、二、三度ガチャガチャしてたが、やがてノブは回り、ドアは静かに開いた。
「ほら、出な」
咲は相変わらずな言葉遣いで僕をドアの向こうに誘おうとする。当然抵抗することもできない僕は、黙って言うとおりにした。
ドアを出る。すると広がっていたのは察しの通り、そこにはこの学校の屋上が広がっていた。
「う~ん、やっぱりお天道様はいいねぇ」
咲は柵の所まで行くと思い切り伸びをしていた。その瞬間ちらりと見えたセーラーとスカートの間の彼女の白い肌に目が行く。僕は誤魔化そうと思わず咳払いをして、咲に僕をここに連れてきた理由を問うた。
「・・・あんたのその言葉使いさ。あんたがそんな喋り方をしている限り、あんたはこのクラス、いや、この学校でずっと浮いた存在になるだろうと思ってね」
「・・・それは十分理解しています。この学校は狂っています。生徒だけならまだしも、教師や校長まで、みんな不良みたいな言葉遣いです。こんな異常事態はないと思っています」
「ふん、あたしはそれを知った上でこの学校を選んだんだ。あたしみたいな馬鹿にはお似合いの学校だからね。でもあんたは違う。あんたみたいな優等生のお坊ちゃんが何でこんな学校に来たのさ」
「・・・それを知ってどうするんです?」
「あたいは黒い薔薇連合のトップとしてこの学校の治安を守っていかなきゃならないんだよ。だからお坊ちゃんまで守ってやる暇はないんだ」
「・・・それってつまり」
「早く消えな。お前には向いてないんだよこの学校は」
咲の言葉が僕の胸に刺さる。ショックだった。でもそのショックは消えなという言葉に対してではない。改めて僕のこの不幸な境遇を思い出してしまったことに対するショックだった。
「・・・僕だって、来たくて来たんじゃないんですよこの学校に」
そう話す僕の声は震えていた。
「はぁ?だったら何で来たんだい?無鉄砲に何も考えずに来た馬鹿じゃないのかい?」
僕はその言葉でカチンときた。
「き、君に!君に何がわかるんです!僕の苦労も知らないで!!!」
思わず飛び出した僕の大声は、初夏の入道雲になり切れていない出来損ないな雲を容易に突き破っていきそうだった・・・。
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