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#「街の上で」~つかめそうな幸福~

 大阪に緊急事態宣言が始まる前の水曜日、「街の上で」を観ました。今泉監督の恋愛映画は、ありそうな設定で、心情が細やかで好きです。くまもと復興映画祭で観た友人から、「今泉監督の最高傑作でないか。今年の邦画で一番良かった」と聞いたので、楽しみに観にいきました。

 画像はホームページから借りました。

 下北沢を舞台に一人の男と四人の女性の、恋愛や友情の物語です。

1、登場人物 

☆荒川青(若葉竜也)

 主人公は荒川青(若葉竜也)は、下北沢で古着屋の店番をしています。さほど多くない客相手なので、暇な時間には、古本屋で買った本を読んでいます。彼女にふられ、未練もちながらも、騒ぐことなく、店番をします。一人でライブに行き、馴染みのスナックでマスター相手に飲み、下北沢での毎日です。

☆川瀬雪(穂志もえか)

 青の元彼女。好きな俳優さん(成田凌)と交際できることになり、青をふります。

☆田辺冬子(古川琴音)

 古本屋さんの店員。不倫関係にあった店長が亡くなってから、店番をつづけています。

☆高橋町子(萩原みのり)

 美大生で、自主映画の監督。卒業製作の作品に、古着屋で目にした青に出てもらろおうと交渉します。

☆城定イハ(中田青渚)

 美大生で、高橋監督の映画に衣装係として参加。そこで、青に会います。

2、ありそうな設定、つかめそうな幸福

 この物語が人々の共感をよぶのは、スーパーヒーロー、ヒロインが出てこずに、現実にいそうな人びとの下北沢での日々がつづられているからだと思います。実際でも手の届きそうな幸福。多分、それを夢みられるからだと思います。

 青は、さして特徴のある青年ではなく、古着屋の店番という仕事で、口数も少なく、要求も少ない青年です。出歩く店も決まっており、馴染みのスナックや古本屋さんなど、こじんまりした生活圏です。

 逆に、出てくる4人の女性は、わたしにはどの女性も魅力的でした。どこにでもいそうな感じなのですが、美人な雪は、最後には心温まる選択をしますし、冬子も彼女なりに青を心配しています。(個人的にNHK「エール」以来、古川琴音さんは気になる女優さんです)町子は、今風のできる映画監督です。情に流されることなく、良い映画を撮ろうとします。そして、イハ。終盤の青とふたりでの恋バナ(お互いが自分の恋愛経験を言い合う)は物語の圧巻で、誰もが彼女の魅力ある表情と話に魅入ってしまいます。

3、下北沢という街

 何より、映画を成功させているのは、下北沢という街のチカラだと思いました。この映画の成り立ちは、監督のインタビュー記事によると、「〈下北沢映画祭〉という映画祭がありまして、そのスタッフの方から“下北沢を舞台に映画を撮ってほしい”という依頼があって、それで撮ったという経緯になります」とのこと。

だから、いやおうなしに、下北沢の魅力が満載です。何気ない主人公たちの会話も、どちらかというと王道でなく、サブカルチャーの町、下北沢だから映えると思いました。「花束みたいな恋をした」ほどの固有名詞は出てこないのですが、ところどころにサブカルチャーが顔をだします。壁に貼ってあるポスターが「愛がなんだ」(今泉監督作品)や「嵐電」(鈴木卓司監督)であったり。そもそも古着屋さん、古本屋さんがある街って、素敵です。

 下北沢には、昔(10年以上前)、他の用事で上京したおりに、友人と1度だけ行きました。正確には、本谷有紀子さんの舞台を観に、本多劇場に行っただけで、滞在時間も半日足らずです。けれど、小さなお店がごちゃごちゃとある、面白そうな街だなあという印象。映画でも駅が再開発されたとあったので、今は、変わってしまっているかもしれないですが、あのごちゃごちゃした熱気のような、猥雑な雰囲気は、画面から伝わってきました。この街が好き!です。

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 写真は、映画COMさんより借りました。右から、高橋町子、田辺冬子、川瀬雪、城定イハ。どの女性も、どこにでもいそうな親近感もあり、魅力的でした。なにげない登場人物の会話が面白くて、優しくて、温かく、観終わったあと、幸福感、癒された作品でした。下北沢を訪れたくなる、青春というには少し歳をとってしまったけれど、何者でもない市井の人びとの日常を丁寧にすくいとった穏やかな恋愛映画でした。

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