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花束みたいな恋をした

 土井裕泰監督の「花束みたない恋をした」が好調だそうです。1月29日に公開され、2月末で観客動員130万人、20億円を突破する勢いだそうです。(映画ログプラス調べ)坂元裕二氏の脚本は、2015年から2020年、出会ってから別れるまでの男女を描いており、等身大で共感という声も聞こえますが、かなり好きなカルチャーが偏っているような・・・。読書、映画、漫画、音楽といったカルチャーの趣味が合う人を好きになり、一緒に過ごしたいと願うのは、自然の流れで同感でしたが、結婚となると、月日が経つにつれ、自分にとって大切なことは何なのだろう、と変わっていくふたりの関係。ほろ苦いラストは、現代の若者の結婚事情、結婚観をも活写していました。

 画像は映画.comさんから借りました。

1.あらすじ

 大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)は、明大前駅で終電を乗りすごしたことから、出会い、たまたま居酒屋さんで押井守監督を見つけ、彼を認識できたことからふたりの趣味が似通っていることを知り、仲良くなります。卒業しても就職せずに、麦は実家から仕送りを受け、イラストの仕事とアルバイトをこなす。絹もアルバイトで、二人は多摩川沿いのマンションで慎ましくも好きなものに囲まれて、フリーランスの同棲生活をします。

 イラストの仕事だけでは生活できず、仕送りがなくなることもあって、麦は就活し、営業マンとして働きます。絹も医院の事務職に就職しますが、やりたいことをしたいと、フリーランスのイベント会社に転職します。いつしかすれ違いが増え、多忙な麦はイラストを描くこともなくなり、ふたりの共通の趣味であるサブカルチャーを楽しむひまさえなくなり・・。

2.固有名詞で読み解く

 この映画では、読書、映画、音楽など、2015年から2020年、実際に出版されたり、上映されたりした作品がでてきます。その中でもふたりが好きな作家は、穂村弘、今村夏子、いしいしんじ、滝口悠生・・・と王道から偏っているような。特に、今村夏子さんは「ピクニック」を読んで感動しないヤツとはつきあいたくない、と麦のセリフにあり激賞されます。確かに、今村夏子さんは才能ある人だと思うし、わたしもスキな作家さんですが、万人が好む人ではないような。滝口悠生氏の「茄子の輝き」も、何度も絶賛します。

 ふたりが観ている映画はカウリスマキ監督の「希望のかなた」だし、2017年にふたりが見損なった映画というのは、「牯嶺街少年殺人事件」とミニシアター系の選択です。「牯嶺街少年殺人事件」は、「映画芸術459号」で特集が組まれた作品であり、両作品とも、一般的に大学生が観る作品でなく、観る人を選ぶ作品だと思いました。

 友人たちとのカラオケでも、ふたりの選曲が少し違っており、音楽の好みも王道から少しずれています。みんなが歌う「キセキ」ではなく、きのこ帝国の曲を歌ったりします。サブカルチャーの趣味が一緒なふたりですが、菅田将暉くんと有村架純さんが演じると、美男美女のせいか、マイナーな選択もきらきらしてる感じがするので不思議です。

 知人が、映画の感想として、「この映画、前野朋哉さんと岸井ゆきのさんが麦と絹を演じれば、本当のオタクになって身につまされるよ。かなりオタク度高い内容じゃん」と言ってましたが、クラスの人気者的なふたりの俳優の選択が、内容との、キャラクターとのギャップもあって、成功していると思いました。

3.自分にとって大切なこと

 終盤、就職した麦は多忙になり、絹とすれ違い。絹は、楽しいことが続けばそれでいいと思っていました。給料が下がっても正社員の医療事務から、イベント会社へと転職したのもそのためです。自分にとって大切なことは、楽しいこと。仕事も含めて人生を楽しもうとする絹。一方の麦は、絹と暮らしていくためにお金が必要になり就活して働きはじめたのに、いつしか、会社第一に考えるようになり、サブカルチャーを楽しむ心の余裕すらなくなります。本を読むことも、舞台を観ることもなくなり、パズドラ(ゲームアプリ「パズル&ドラゴンズ」)くらいしかやる気になれない状況に陥ります。

 この違いは、麦が地方(新潟出身)であり、絹が東京出身の裕福な家庭出身であるから、との観方もできますが、性差との観方もできるし、相手との暮らしの捉え方とも考えられます。

 どちらか一方が浮気をするでもなく、難病になるでもなく、ただ、出会って別れるまでの5年間を丁寧に描いた作品でありながら、これだけ人びとを感動さすのは、「自分にとって大切なこと」をふたりが、そのとき、その瞬間を一生懸命に生き、考えているからではないでしょうか。

 タイトルは、恋愛が美しい瞬間を切り取った「花束」なのだという意味が込められていると思います。けれど、「花束」は枯れます。その時は色とりどりに輝いていても、枯れていくものでもあるというメタファーなのだと思いました。

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