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それでも前を向く~サッカー本大賞受賞作品~

 一週間前に読んだ「オシムの遺産」(サッカー本大賞特別賞受賞作品)がとても良かったので、今年の大賞受賞作品も読んでみました。
 こちらの作品は、宮市氏のサッカー人生の変遷を描いており、自伝的要素が強い作品で、別の意味で感動ものでした。宮市氏は18歳でサッカーの本場「アーセナルFC」と契約を結び、将来を嘱望されます。が、5度の大怪我や精神面での苦労から引退を考えます。しかし、同僚やサポーターの励ましもあり、復活。特に、後半の引退から復活への道のりは、涙なしでは読めなかったです。読後、題名の「それでも前を向く」の意味が心に広がって、横断幕シーンに涙が溢れ、温かい気持ちになった作品でした。

それでも前を向く   宮市亮著 朝日新聞出版 1800円+税


 前半は、父親が野球、母親が陸上競技をされていたスポーツ一家の恵まれた家庭に生まれて、高校サッカーでは名門高校のキャプテン、18歳でプロ契約を結ぶという、漫画の主人公のような人生。
 交友関係も豪華で、お父さんは古田敦也選手と大学・社会人野球部の先輩後輩であり、香川真司氏、吉田麻也氏といった日本代表で欧州在住の方々との交流など。
 ただ、スター選手揃いの「アーセナルFC」では、控えになり、試合出場経験がなく、焦ります。「隣の芝生は青く見える」彼自身も書いているように、「うまくなりたい」という気持ちが空回りして生じた焦りに苛まれます。結果、自主トレをするのですが、「オシムの遺産」でも書かれてましたが、練習メニュー以上のことをすると、のちのちに身体に疲弊が出て、怪我の元になるそうです。

 あの頃、僕はずっと張り詰めた空気の中にいた。そして、次第に、自分で自分の立ち位置がわからなくなっていった。
どうしても「隣の芝生は青く見える」ような感覚に陥り、勝手につくりあげた劣等感に少しづつ支配されていった。

第2章 競争  72ページより

 後半は、レンタル移籍など含めて、イギリス、ドイツ、オランダなど欧州でプレーしたあと、怪我もあり、日本に帰ります。横浜Fマリノスに入団してからの日々です。
 日本への移籍の動機では、日本の医療とトレーナーなどのメディカルスタッフの素晴らしさについても、言及されています。リハビリ設備の充実など、日本が諸外国に誇ることで、読んでいて、嬉しくなりました。同時に「オシムの遺産」でも書かれていましたが、医療スタッフの献身には頭さがります。
 そんな中、また怪我は起こり、とうとう引退を考えます。ここからが、ドラマのような映像的なシーンが続きます。同僚やサポーターの心温まる横断幕シーン。読んでいて、涙、涙でした。

 エピローグで書かれている、復活後の決意。

 僕のキャリアは苦しいこと、悔しいことが95%だった。それでも、残りの5%が最高だったから、それをまた味わいたくてサッカーを続けている。
 ここから、僕はどんな景色を見ることができるのだろう。きっと「自分史上最高のもの」が待っている。そう信じている。それでも前を向く。前を向いて進んでいく。

エピローグ  エゴイストであるか否か  267ページ

 2022年7月には10年ぶりに日本代表に召集されました。

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