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古代日本の風景に思いを馳せる古都・奈良“山の辺の道”トレッキング ♣歴史に連なる山登り♣(0010)

日本最古の道のひとつともいわれる“山の辺の道”。奈良に残る日本の原風景を感じる里山のなかに点在する古の寺社や史跡を巡る歴史探訪の道です。

<趣意>
山林が国土の約7割を占める日本では、山も歴史との関係が深いものがあると思われます。そんな日本の歴史とも由縁のある山を、連なった歴史とともに辿っていきたいと思います。
(本記事/ 文字数:約6000字  読了:約12分)

<こんな方にオススメ>

(1)古道に興味がある
(2)歴史や由緒のある神社仏閣が好き
(3)里山などの比較的なだらかな道をトレッキングしたい


<端緒>

奈良県の天理・桜井のあたりは古代ヤマト王権が成立した土地です。そのため記紀神話に登場する場所や人物に係わる名所・旧跡が数多くいまも残っています。この地に南北へ通された古道が“山の辺の道”でした。日本最古の道のひとつともされています。日本の草創期にヤマトタケルなどの古代の英雄たちが闊歩したであろう古代の光景を思い描きながら歩いてみます。


<トレッキングコース>

今回は「天理」駅を起点にして南北に延びるコースを南へ三輪の大神神社までをたどるルートです。
“山の辺の道”は整備され道標もしっかりとあり要所で説明案内図なども設置されています。至れり尽くせりで安心して古代日本の歴史と景観を身近に感じ取ることができる古代ロマンの歴史旅といえると思います。

近鉄「天理」駅
天理駅から東へ伸びる商店街のアーケード
石上神宮

「天理」駅(JR桜井線または近鉄奈良線)からスタートです。駅東側のロータリーに出て東へ歩き出します。アーケードとなっている天理本通りを抜けると左手に天理協会本部があります。その先の信号交差点にさしかかると「石上神宮」を指示する看板がありますのでこれに従い進みます。ゆるやかな坂を上がっていくと左手に石上神宮(いそのかみじんぐう)が現れます。


石上神宮境内には鶏が闊歩しています
石上神宮の楼門

境内には多くの鶏が放し飼いにされて歩き回っています。鶏は神聖な神の使いとして保護されているとのことです。石上神宮は古代豪族・物部氏が祭祀を行いヤマト王権の武器庫としての役割も果たしていたようです(物部氏は王権きっての軍事豪族だった)。有名な七支刀(国宝)をいまに伝える神社でもあります。同じく国宝の拝殿とその前に建つ楼門(重要文化財)もなかなか見事です。


石上神宮から本格的に”山の辺の道”が始まる
ルート上には”山の辺の道”や東海自然歩道の道標が丁寧に設置されています

石上神宮境内から南側へ道は続いています。”山の辺の道”と東海自然歩道の道標がルート上の要所に立っていますのでこの先はそれに従い進みます。“山の辺の道”はのんびりとした里山ウォーキングといった風情でしょうか。登山の要素はほぼありませんので、舗装道路歩きに疲れない歩きやすく動きやすい格好で十分だと思います。
住宅街と畑地が交互に続くような環境です。この先は東側の丘陵地帯に近接したおだやかな郊外のなかを神社仏閣・名所旧跡をたずね歩くトレッキングとなります。


内山永久寺の絵図
内山永久寺跡からの見晴

道を進み、芭蕉句碑の立つため池を過ぎて内山永久寺跡へ向かいます。内山永久寺はかつて一帯に大伽藍を構えた奈良有数の大寺院だったそうですが明示の廃仏毀釈運動で廃寺になってしまったそうです。高台がありそこから周囲を見渡せますが、いまは大寺院の面影や名残を全く感じ取れません。いったいどれだけの仏像やお堂など美術工芸品が失われたことでしょうか…。


里山と田園の間に集落が点在する
干されている大根は切り干し大根になるのでしょうか
田園地帯から見える大和三山か(左)

内山永久寺跡の先の畑のなかを抜けて夜都伎神社を経由して竹ノ内環濠集落に向かいます。集落の環濠は村落の周囲に堀を巡らした自衛のための設備でした。戦乱が激しくなった室町時代後期に発達したもののようです。環濠集落を過ぎて長岳寺に向かいますと、畑の間の道からときおり西側に大和三山と思われる遠望もありました。


マンホールも古都・奈良を感じさせます

ルート上にはコンビニエンスストアなどのお店はほぼありません。なにかドリンクやスナック類などを買いたいと思ってもすこし不便です。でも、そこが田舎道歩きという風情でもあり都市化されていないゆったりとした空気感であるこの道の良さでもあるかと思います。いざとなればルートを外れてすこし西へ歩くとJRに行き当たり駅も近場にあるのであまり大きな心配はいらないかと思われます。


西側の山並みは生駒山、葛城山や金剛山に連なるのでしょうか
ところどころある石畳の道は雰囲気があります
天理市トレイルセンター

内山永久寺跡からさらに先へ進むとしだいに古墳がいくつも出てくるようになります。大和神社の先の石畳の坂道を下りしばらくすると長岳寺に着きます。長岳寺は弘法大師空海が開いたとされる古刹でありなかなかの規模をほこります。長岳寺のすぐそばに天理市トレイルセンターがあります。レストランと売店も併設されています。今回のルートのほぼ中間地点にもなりますので休憩にぴったりです。


崇神天皇陵
崇神天皇陵(解説)

トレイルセンターの近くには崇神天皇陵があります。全長約242mの巨大な前方後円墳であり、ぐるりと回って歩いてみるだけでもちょっと時間がかかります。崇神天皇は系譜上第10代天皇ですが、ヤマト王権の実質的な創始者とも考えられている人物です。さらに南へ進むと今度はヤマトタケルの父である景行天皇陵が出てきます。このあたりは西側に畑が大きく広がっているので視界がよくきき、遠くに二上山と思われる山影を見ることもできました。


大和古墳群の説明案内

崇神天皇や景行天皇など教科書や小説・マンガなどに出てくる日本史の古代英雄たちがこのあたりを実際に行き交いまたは生活していたのだろうなーと想像して、その場の空気を吸って彼らと同じ土を踏んでいると思うとなかなか感慨深いものがあります。また、ルート上からはすこし外れますが、邪馬台国の候補地ともされる纏向遺跡や卑弥呼の墓かとも推測される箸墓古墳も近くにあります。時間的余裕があればちょっと立ち寄ってみても面白いのではないでしょうか。


三輪山でしょうか
桧原神社へ向かいます
桧原神社の鳥居は古態を残しているそうです

景行天皇陵を過ぎて道を東へZ字状に折り返すように上がります。桧原神社の方へ進むとなだらかな丘のような山が見えてきます。三輪山でしょうか。折り曲がった道を道標に従い進みます。細い林道のような道を歩いて行くと桧原神社に到着です。桧原神社はすでに大神神社(おおみわじんじゃ)の境内の一角になります。桧原神社の鳥居は左右の柱に注連縄を渡した様式であり、これは鳥居の古態だそうです。また境内から鳥居越しに西を向くと二上山を見ることができる絶好のスポットとなっています。


桧原神社から大神神社へ
苔むした石仏や石塔には趣があります
大神神社・拝殿
大神神社

桧原神社の前の石畳の道を進みます。やがて森のなかの土の道を歩きます。ふたたび石畳の道となります。陽も差し込まない濃い緑と沢そして苔むした石仏が連なり、静謐な趣のある道です。しばらく歩くと大神神社の標識が出てきます。さらに進むと大神神社に入ります。大神神社は大和国の一宮であり主祭神は大物主大神であり境内の奥(後背)にある三輪山がご神体です。この一帯の出雲国出身の古い豪族たちの崇敬を受けてきた神社になります。
今回はここがゴールです。

今回、“山の辺の道”を歩いてみて日本の原風景が広がる土地だなーとしみじみ感じます。田と畑が広がりそこに集落が点在し後背には里山と森が控える。そして静かな神社仏閣がたたずむ。誤解を恐れずにいわせてもらいますと、いい意味で「辺鄙」という言葉がしっくりと似合う気がします。旅行者の勝手で一方的な思いで恐縮ですが、いつまでもこの“里”の風情を残し続けて欲しいなーと思いました。

[行程表]

※標準的タイムによる目安(休憩含まず)
「天理」駅→ 石上神宮(30分)→ 内山永久寺跡(15分)→ 竹ノ内環濠集落(40分)→ 長岳寺・天理市トレイルセンター(45分)→ 崇神天皇陵(10分)→ 景行天皇陵(10分)→ 桧原神社(45分)→ 大神神社(30分)→ 「三輪」駅(10分)
コースタイム/ 4時間程度
歩行距離/ 14km程度

[トレッキングコースの補足]

要所に道標(山の辺の道・東海自然歩道)が設置されているので迷うことはあまりないと思います。
ほぼ舗装道路です(未舗装の田舎道や農道等も一部ある)。登山靴などは必要ありませんが、歩きやすい靴と服装は必要です。
コース上はほぼ携帯電話の電波圏内ですのでスマホなどの地図アプリはおおむね利用できます。一部のルートは地図上に表示されない場合もあります。
ルートはおおよそ東海自然歩道と重複します。
●水場やトイレなど
天然の水場はルート上にはありませんが、自動販売機が各所にあります。
トイレは要所にあります。

[難易度・危険箇所など]

とくに大きな難所や危険箇所はほとんどありません。
歩道や路側帯などがない車道を歩くことも多いので通行車両にご注意ください。
”山の辺の道”の西側に並行するように国道169号線とJR桜井線が走っていますので徒歩でアクセスすることが可能です。おおむね1~2kmほど離れています。

”山の辺の道”と東海自然歩道

[概要]

山の辺の道 (やまのべのみち)
所在地: 奈良県天理市・桜井市
奈良県天理市から桜井市までを南北に結ぶ古道。奈良盆地の東縁に沿っている。
天理市観光協会では、東海自然歩道とおおよそ重複する天理駅から桜井駅までのルート(全長/約16km)を「山の辺の道(南)ルート」として整備している。
『古事記』においても崇神天皇陵や景行天皇陵の言及とともに”山辺の道”として記載されている。

[アクセス]

●往路
JR桜井線、近鉄奈良線「天理」駅から徒歩。
●帰路
JR桜井線「三輪」駅まで徒歩。

[国土地理院地図]

天理駅

[Googleマップ]

天理駅

[コースマップ]

山の辺の道(天理~桜井) (歩く・なら/奈良県)
[奈良-9]山の辺の道コース (てくてくまっぷ/近畿日本鉄道)


田園の中の”山の辺の道”

<”山の辺の道”の魅力>

(1)郷愁的な日本の原風景を思い起こさせる里道
奈良盆地の周縁であり里と丘が相半ばするようなゾーンも多くあり、日本の里山というのがぴったりな雰囲気を感じられます。都市住宅地からほんのすこし歩いて奥に入っただけで田園風景の広がる鄙の情景に心和みます。
(2)『古事記』や『日本書紀』に描かれる日本古代史の舞台となった遺跡や神社仏閣等の数々
有名無名の寺社がいたるところに散在し、また日本史の教科書を彩る歴史上の人物に係わる遺跡も数多くあります。とくに日本の古代史に興味がある方や好きな方には格好の散歩道と言えると思います。


<補足情報>

[売店等]

駅前などを除きルート上に売店やコンビニエンスストアなどはほぼありません。
天理市トレイルセンター内に売店があります。

[お食事処]

天理市トレイルセンター内に食堂があります。
天理市トレイルセンターのそばに飲食店があります。
「天理」駅周辺には多数の飲食店があります。
「三輪」駅周辺には複数の飲食店があります。素麺が有名です。

[名産品]

柿の葉寿司
奈良漬け
葛餅
素麺

[付近の山など]

東海自然歩道
柳生街道
葛城古道
大和三山
吉野山

[お天気情報]

天理市 (tenki.jp)

[そのほかの補足]

(1)天理駅前広場にインフォメーションがあります。
天理市 ※公式サイト
(2)天理市トレイルセンターには観光パンフレットが備置されています。
天理市トレイルセンター (天理市)
(3)三輪山
三輪山は当日申込で登拝できますが、様々な制約等の条件があります。詳細は事前に大神神社のWebサイトをご確認ください。


景行天皇陵

<なぜ奈良盆地にヤマト王権が誕生したのだろうか?>

子供の頃の修学旅行で奈良を訪れたとき、正直「なんでこんな辺鄙なところにヤマト王権が立ち上がったのだろう?」と思ってしまいました(子どもの無分別な単なる感想です…)。

当時のいわば首都であり政治・経済の中心地であったはずです。現代的な感覚でいえば交易に便利な湾岸地域に建設してもよかったように思えます。奈良の近場なら大阪でしょうか。ただし古代日本の当時の産業・経済といえば稲作であったと思います。第一の富の源泉は米であり、米を産み出す稲作が最大の産業ではなかったでしょうか。

しかも奈良盆地ははるか昔は湖であったようであり、東側の山地から西へ向かって水が流れ集まってくる土地であったので豊富な水を必要とする稲作にとっては最適の土地だったのかもしれません。古代の頃は大規模な灌漑や土地の造成などは難しかったでしょうから天然の地勢や環境が非常に重要であったと思われます。

奈良盆地という大きな平坦地で大規模な稲作が発展したのかもしれません。その結果、一大産業地なった奈良盆地に強力な勢力が誕生した一因として理屈に合うのかなーと思えます。よくよく考えると古代中国の都である長安や洛陽も内地、ヨーロッパでいえばローマ、パリやベルリンも内地のいずれも平野部です。古い時代においては内陸の平地はけして不自然なロケーションではなかったのかもしれません。


<備考>

山の辺の道 (Wikipedia)
石上神宮 ※公式サイト
竹ノ内環濠集落 (天理市観光協会)
長岳寺 (Wikipedia)
崇神天皇陵 (天理市観光協会)
景行天皇陵 (天理市観光協会)
大神神社 ※公式サイト

<参考リンク>

天理観光ガイド (天理市観光協会)
桜井市観光協会 ※公式サイト
東海自然歩道 (奈良県)
天理警察署 ※公式サイト
桜井警察署 ※公式サイト


<関連記事>

”山の辺の道”周辺についての関連記事です。一部、外部サイトで配信している記事もあります。


<バックナンバー>
バックナンバーはnote内マガジン「歴史に連なる山登り」にまとめております。

0001  顔振峠と義経伝説
0002  柳生街道
0003  京都・愛宕山と明智越え
0004  石垣山一夜城と小田原城総構
0005  金剛山:楠木正成と千早城跡
0006  箱根・旧東海道と石畳の道
0007  三増峠:北条VS武田 激突の地
0008  いにしえの風を感じるハイキング 大和三山と藤原京跡を巡る


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(6) 不定期更新です。 隔月一回を目安に更新を予定しております。
(7) カバー写真と、今回ご紹介した山とは、関係はありません。
(8) 情報は掲載日時点の内容です。
(9) 登山道等の状況については、適宜、現地の観光協会、ビジターセンターや山小屋などの各関係機関にあらかじめご確認くださいますようお願いいたします。
(10) 今般の新型感染症の影響で各種施設等の利用については制限などが行われている可能性があります。ご利用の際には詳細について事前に各種施設等へご確認などをお願いいたします。

(2024/03/01 上町嵩広)

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