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わたしの肩書きは。ドイツ生活のぼやき - 3

本業は学生、のはず。

わたしはドイツの大学院に籍を置いているので、学生です。履修すべき講義やゼミにはすべて出席したので、残っているのはインターンシップでの報告書、コロキウムでの論文中間発表、そして修士論文執筆のみ……。

学期によっては興味のある授業を聴講しに行くこともありますが、そういうのはほとんど趣味です。イタリア語や中国語、ヨーロッパの貴族が踊ったルネサンス・バロックダンス、あとはドイツ語の手書きの文字を解読するための実践的なゼミなど、自分の研究に役立ちそうな授業に顔を出すという具合です。

ただし、こういった授業は修了に必要というわけではないので、レポートも書かないし、試験を受けたとしても修了時の成績に反映されません。それでプレッシャーがあまり無いので、「大学院生をしている」という感覚がありません。

さらに、そういう趣味の場は、自分の科で主催されていないことがほとんどなので、自分の科の校舎に入ったのはいつのことだったろう……と思い出せないほどです。

わたしの仕事は。

そんなわたしですが、他科の建物には頻繁に足を運びます。というのも、大学で2つのアルバイトをしているからです。ひとつはティーチングアシスタントのようなもの、もうひとつはリサーチングアシスタントといったところです。

ティーチングアシスタントの方は、言語の授業の手伝いをしています。これがとにかく楽しくて、こちらを本業にしてしまいたいくらいやりがいがあり、学生さんたちがどんどん上達していくのを見ると、嬉しくなります。

リサーチングアシスタントはというと、とある研究プロジェクトの一員として、文字通り「アシスタント」的な作業をしているのですが、専門分野と少し離れていることもあって、新しく学ぶことが多いので、やや苦労しています。

詳しい仕事内容はさておき、わたしの仕事と言えるのは主にこの2つです。でも、どちらも「アルバイト」なのです。フルタイム勤務ではないし、ティーチングアシスタントのアルバイトに関しては、学期ごとに契約が更新されるので、まさに不安定。収入だって、日本の似たようなアルバイトに比べたらずいぶん良いとはいえ、物価高のドイツなので裕福というわけでもありません。

本業が学生であり、収入源も不安定なアルバイトなので、日本の家族や友人からは「社会人」として見られていないなあと感じることが多いです。社会人であるには主として仕事をする人でなくてはいけないのだろうと思います。社会人、すなわち仕事人。

新たな肩書き、主婦。

まだ書き終えていない修士論文と不安定な職しか持っていないわたしは、数年間交際していたパートナーと今年の春に結婚しました。

いわゆる国際結婚です。コロナ禍で経験した、何がどうなるか分からない社会の中で、お互いの好きという気持ちだけで共に生きることへの不安が大きかったというのがきっかけだったと思います。結婚自体は以前から意識していて、渡独とともに始めた同棲にも問題はなく、最終的には結婚しない理由が特になかったので、ポジティブな気持ちで、小さいながらも良い式を挙げることができました。

それからおよそ半年経った頃、親が感慨深そうに放ったひとことに、わたしは衝撃を受けます。

「あなたももう主婦になったのね」

えっ、わたしは主婦なの?と聞き返しました。その話については、別の記事で触れたことがありますが、本当にそんな自覚がなかったので、戸惑いました。わたしは何者なのだろうと改めて考えるきっかけとなったひとことだったのです。

一方で「もう主婦」といった親の声は、電話越しにも分かるほど、清々したような、安心したような、嬉しそうなものでした。

そのことについて今日まで考えていたのですが、おそらく親にとっては、娘が「(親の言うところの)社会人」になろうと、パートナーと支え合いながら生きる「(親の言うところの)主婦」になろうと、あまり変わらないのではないかと思います。

何かになって欲しかったというのではなく、いつか必ず訪れてしまう親との別れが、たとえ明日来たとしても、もうこの子は大丈夫だろうと思える状態になることが、親にとっては大切だったのではないか、そう思うのです。

そういう意味では、学生+アルバイトという肩書きしかなかった頃も、給付型の奨学金を頂くなどして、自分で何とか食い繋いでいたところはあるし、逆にいえば、結婚したからと言って経済状況や生活の仕方が大きく変わったわけでもないので、わたしとしては「同じじゃないか」という気がしなくもないのですが、きっと親にとっては違うものなのでしょう。親の心、子知らず。理由や経緯はどうであれ、今までわたしを気にかけて応援してくれていた親が、少しでも安心して生活してくれているなら、わたしは嬉しいです。


本業、学生。ふらふらアルバイトをしてユーロを稼ぎつつ、妻業だか主婦業だかをする。ん?本業が妻なのでしょうか?学業はもはや趣味?
この地球にはこんなにたくさんの人間が暮らしているのだから、なんて呼んだらいいか分からない人がいたってどうってことないですよね。

#私の仕事

写真は、2018年3月、ウィーンへの一人旅で撮ったクリムトの「接吻」。クリムトの作品が大好きです。


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