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未来の写真

 幼稚園に通っていた頃、よく吉川君と遊んだ。
 吉川君の家は向かいに空き地があって、そこへ行くことが多かったように思う。
 空地は結構広かった。奥には二メートルばかり高くなった所があって、そこにはお墓がいくつかあった。随分立派なお墓もあったのを覚えている。
 この空地で何をして遊んでいたのかはあんまり覚えてない。自分はボール遊びが好きでなかったから、きっと自転車で走り回ったり、周辺の草むらで探検ごっこでもしていたのだろう。

 ある時、吉川君が空き地の真ん中で不思議な建物の写真を拾った。
「これ、なんじゃろ?」
 何だか尖った塔に球体が刺さったような形で、テレビで観ていたロボットアニメにでも出てきそうな按配だった。
「未来の建物みたいじゃ」
「ほんとじゃねぇ」
 あんまり見てはいけないもののような気がしたから、写真はその場に戻しておいた。

 その晩、家で母にその話をした。
「未来の建物の写真があったんよ」
「何かの見間違いでしょう。そんなのがあるなんておかしいもの」
結局、自分の中でもあの写真は何かの勘違いとして片付けたのだけれど、建物の形はずっと頭に残っていた。

 大人になってからバブル景気が終わり、中国が日本に追いつくとか、いずれ追い越すとか云われるようになった。
 テレビでも、随分発展した中国の様子が流れ始めた。それまでみんなが人民服を着て自転車に乗っているイメージしかなかったものだから、おおいに驚いた。
 そういう映像の中で、あの写真の建物に再会した。
 上海タワーというのだそうだ。
「やっぱりあったじゃないか」と思っただけで、別段驚かなかったのを覚えている。

 ただ、空き地で遊んでいたのは70年代で、まだ上海タワーはできる前だから、やっぱり何かの見間違いだったのかも知れない。吉川君や母に云ったって覚えていないだろうから、ずっと訊かずにいる。

 上海タワーへはその後実際に行ったけれど、別段おかしなことはないようだった。

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