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回転灯の怪

 たまにいつものルートを外れて、狭い小路を通って出勤する。
 小路をしばらく行くと、腰高の支柱に黄色い回転灯が付いたのが五メートルぐらいの間隔で両サイドに並んだ区域がある。
 一度回転灯を数えてみたら片側に二十個あった。だからその区域は百メートルぐらいある計算になる。
 一体あの回転灯は何だろうかと思いながら過ごしていたけれど、たまたま同じ職場の八田君がその辺りに住んでいると知って、ある時その話を振ってみた。

「ああ、あの道ですか。回転灯がいっぱいあるでしょ?」
「そうだね。全体、あれは何なのだい?」
「あれはね、僕もまだ見たことはないんですけどね……」
「うん」
「……あれが光ってる時は外に出ちゃいけないんですよ」
「は? 何で?」
「知りません。でもそういうことになってるんです」
「出ちゃいけないって、それじゃぁ困るだろう?」
「そうですね。場合によっては困ることもあると思います」
「平日の朝とかね」
「そうですよね」
「そんな時はどうするんだい?」
「出ちゃいけないんです」
「君も出ないのか?」
「僕はまだ光ってるのを見たことはないんで」
「全体、いつ光るんだい?」
「それはわかりません。親から聞いた話だと……最後に光ったのは平成十年とか言ってたかな」
「それはまた、昔なのか最近なのか、随分中途半端なタイミングじゃないか」
「平成十年は、昔でしょう」
 そう言って、八田君は何だか苦い笑いを浮かべた。自分には、そんなに昔のこととは思われなかった。

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