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18歳の時、私大入試の翌日に髪を切りに行ったら頭を濡らされるたびにどうも寒気がする。家に帰る間も変にゾクゾクするから、熱を測ったら38度あった。 それで布団を敷いて寝たのだけれど、何を食っても何を飲んでも即座に腹を下す。これはどうやら尋常でないようだから医者にかかったら、インフルエンザだと云われた。 「今流行ってるのとは違う型のやつだね」とも言われた。「流行に流されない俺」と思って、ちょっと嬉しかった。 それから丸一週間寝て過ごした。食事はずっと重湯で、全然美味くない
大学2年の夏休み前、正門前に新しくできたカレー屋について友人が語り始めた。その店の “たい焼きカレー” というのが絶品なのだそうだ。 初めは餡の代わりにカレーが入ったたい焼きかと思って聞いていたが、どうも違うらしい。 「君、それは逆さ。たい焼きが入ったカレーだよ。白米の上にたい焼きを置いて、その上からルーをかけるんだぜ? 凄いだろう?」 全体それの何が凄いのか甚だ判然としない上に、まるで美味そうな気がしない。しかし友人は、たい焼きの餡が辛口カレーと絶妙に合うのだと目
小4の時、学級農園で作ったじゃがいもを使ってカレーを作る授業があった。自分はそれを随分楽しみにしていたのだけれど、当日うっかり米を持って行くのを忘れた。 忘れましたと云うのが何だか恥ずかしくて、先生には「カレーが好きじゃないから持ってこなかった」と言っておいた。 先生はそれに取り合わず、同じ班のメンバーに「百君にちょっとずつ分けてあげて」と言って、米をちょっとずつ集めてくれた。 自分はその米でカレーを食った後、ルーだけでおかわりした。いくらなんでも嘘丸出しだったと思い
社会人1年目の夏、勤め先(パスタ屋)から充てがわれた部屋にはエアコンがなく、扇風機も持っていなかったので暑さに対してまるで無防備だった。 いつも夕方から閉店までのシフトで、明け方に寝て3時頃起きる生活だったのだけれど、ある時あまりの暑さで昼前に目が覚めた。 再び寝ようにも、どうにも暑くていけない。さすがに限界を感じたから近くの西友へ行って5千円の扇風機を買って来た。出勤前に一仕事終えたような充実感があったのを覚えている。 出勤してから、昼間に扇風機を買ってきたのだ
19の頃に詩を書いたノートが、中を見ると恥ずかしさで死にたくなる猛毒文書に変容していた。それでも思い入れがあってずっと捨てられずにきたけれど、最近ようやく意を決して処分した。 数ページしか使っていなかったから、使ったページと、タイトル――『心の叫び』――が書かれた表紙だけを破り取って、念入りに切り刻んでおいた。 刻んでいる間は果たしてそれなりに感慨深く、「俺、こんな詩を書いたんだよ」と友人らに得意げに語ったことなどを思い出していよいよ死にたくなった。やっぱり猛毒だと得
時々、仕事の帰りにちょっと遠回りをして散歩する。 散歩場所は昭和の匂いが漂う街を選ぶことが多い。そうして古い家を見つけると、どんな人たちがどんな生活をしていた(している)んだろうと考えるのが存外楽しい。 ただ、あんまりじろじろ見ていて通報されてはかなわないから、立ち止まらないで極力自然に通り過ぎるよう心がけている。 ※ 今朝、古い家が解体されているところへ出くわした。廃墟や古い家が好きなものだから、解体中の家にはつい目を引かれる。出勤途中でなかったら立ち止まって眺
幼い頃、母方の祖父宅へ行くといつも祖父が小遣いをくれた。それを持って近くの山根玩具店へ行き、なんやかやとおもちゃを買ってくるのが常だった。それで祖父が外で店主に出くわした時、「お宅のお孫さんはうちの上得意だよ」と云われたのだそうだ。 ※ 幼稚園に通っていた頃、50円の小さなロボットのプラモデルを買った。他に4種類あって、5つ全部を組み合わせると大きなロボットになると説明書きにあるのを見て、祖父が他の4つも買って来いと云ってさらにお金をくれた。なぜだか3回に分けて買いに
台風の雨と風の音で、夜中に一度目が覚めた。 ※ 小学校1年生の時、台風が来ている日にテレビでウルトラマンを見た。ミイラ人間の話だった。 外の風が随分激しくなったのが気になり、ベランダのドアを開けたら強風で持って行かれてドアのガラスが割れた。 自分も驚いたが妹も驚き、「熱が出るから寝る」と言って寝室へ逃げた。ちょうど風邪が治りかけているところだったのだ。 母が飛んできて、割れた部分にビニールのテーブルクロスをガムテープで貼り付けた。翌日ガラス屋を呼んで直してもらっ
大学生の時分、働くということに全く興味が持てなくて、就職活動を随分適当にやっていた。行動量としては恐らく周りの友人らの半分以下だったろう。当然、どこにも決まらない。 ある時とうとう親から、いい加減にしろと怒られた。それで渋々合同セミナーへ行った。 ※ 行ってみると、貿易会社とか旅行代理店が人気らしく、随分人が並んでいる。自分もそこへ並びかけたが、受かるかどうかもわからないのに長蛇の列に並ぶのはどうも面倒くさい。それよりも極力並ばずに話を聞けて、かつ名前を知っている会
10年ばかり前、人間ドック受診の際に病院の待合室で雑誌を読んでいたら、つけっぱなしのテレビでハズキルーペか何かの紹介をし始めた。 老眼というのがどういうものかよくわからないからピンとこないいまま、ただ「歳をとると面倒だねぇ」と思ったのだけれど、その直後、雑誌を持つ手が随分遠くなっているのに気が付いた。 あ、と思って近寄せたら何だか見づらい。なるほど、これが老眼かと得心した。そうして、「俺、老いてるじゃんww」と思ったら何だかじわじわ笑えてきた。 それ以降、時の流れと