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人生の伏線、カルボナーラ

 大学生の時分、働くということに全く興味が持てなくて、就職活動を随分適当にやっていた。行動量としては恐らく周りの友人らの半分以下だったろう。当然、どこにも決まらない。
 ある時とうとう親から、いい加減にしろと怒られた。それで渋々合同セミナーへ行った。

 行ってみると、貿易会社とか旅行代理店が人気らしく、随分人が並んでいる。自分もそこへ並びかけたが、受かるかどうかもわからないのに長蛇の列に並ぶのはどうも面倒くさい。それよりも極力並ばずに話を聞けて、かつ名前を知っている会社はないかと探したら、あるファミレス会社に行き当たった。自分の他には2人いたきりだったから、ものの5分で順番が回ってきた。

 話を聞きにくる者がないから競争率は低い。これまで落とされ続けてきたのが嘘だったように、とんとん拍子に話が進んで翌月には内定をもらった。
 入社前に、普通のファミレスとパスタ専門店のどちらかを選ぶよう云われたから、覚えるメニューが少なそうなパスタ屋を選んだ。

 店舗配属初日、順番待ちのお客を案内すると、他から「おい、俺の方が先だ!」と怒られた。謝ったら「もういいよ!」と云って出て行った。「だったら言うな」と小声で言ったら、どうもそれが聞こえたらしく、戻ってきてますます怒られた。
 なるほど、これでは合同セミナーでみんな寄り付かないだろうと得心した——今振り返ると、そういう問題でもなかったように思える——。

 この仕事が最初は嫌でしようがなかったが、料理を作るのは存外楽しくて、じきにハマった。料理本を買って勉強を始め、休みの日にはもっと本格的な店で食事をした。
 自分の勤め先ではカルボナーラにクリームソースを使っていたが、実際はそういうものではないと知って、極力クリームソースを抑えめで作るようにしたら、随分感じが変わった。

 今は全然違う仕事をしているけれど、家で時々パスタやピザを作る。娘はカルボナーラが気に入ったようで、明日また作ると云ったら、今日からわくわくしてるらしい。


よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。