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百卑呂シ随筆

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2023年7月の記事一覧

夏の記憶、緑の光

 10年ぐらい前、市の施設で蛍の放流があり、義父母の案内で娘を連れて行った。  娘はまだ幼稚園に上がるかどうかぐらいで、じいちゃんばあちゃんと出かけるのが嬉しくて、蛍が何かもわからずはしゃいでいた。そうして実際に放されると、今度は緑の光にますますはしゃいだ。それから義母が2匹ばかり捕まえて小さな虫かごに入れてくれたのを、随分大事そうに抱えて帰宅した。  家で灯りを消して蛍の光をみんなで眺めていたら、ふとこんなことを思い出した。 ※  自分がまだ幼稚園に上がる前のことだ。

夏の記憶、異国の女

 2日間、車で遠方の店を回った。高速道路のパーキングエリアで休憩しながらこんなことを思い出した。 ※  十数年前の夏、車で帰省した。  途中、缶コーヒーを買うつもりでサービスエリアのコンビニに入ったら、先にノースリーブの若い女が飲み物を選んでいた。  後ろで順番を待っていると、棚の商品を取ったり戻したりする女の腋からちらちらと毛が見えた。どうも腋毛が普通に生えているらしい。  あんまりじろじろ見て、変な誤解を受けても面白くないから目を逸らしておいた。どうやら異国の人だった

トラ柵、古靴と犬の踊り 2

 これもまだ独りでアパート住まいをしていた頃の話。 ※  外出先から車で戻ると、自分の駐車スペースに大量のトラ柵が置かれていたから、「またあの老人の悪い癖が始まったよ」とうんざりした。  駐車場に車が停まっていないときには大家の老人がこうしてトラ柵を置く。それは恐らく他の車が勝手に駐車しないようにする意図なのだろうが、こちらとしてはスッと車を入れて降車できるはずのところをわざわざ一度車からおりてどけなければならないので面倒くさい。  2年前、その気持ちの控えめな表現として

消しゴム、集団暴力

 仕事の際、A5サイズの薄いルーズリーフバインダーをノートとして使っている。プラスチックの安いやつだ。使い勝手が良くて気に入っていたが、2カ月ほどで表紙が反った。先日外出したついでに、イオンで新しいのを買った。  2カ月はさすがに早いように思うが、どうやら印刷インクの影響らしい。そう云われると心当たりがなくもない。向後はその辺りを気にしながら使うことにした。  文具愛好癖を表明するのに、いつもちょっと抵抗がある。学生時代は、勉強ができない者ほど文具にこだわっていたように思う。

深みとリアリティと黒歴史(2023/07/12)

 昼休憩中に、昔の日記の転記作業をした。 ※  3年前からGoogleドキュメントで日記を書いている。月日をタイトルにしたドキュメントを366個作って同じ日付に毎年記入するスタイルだから、去年の今日はどうしていたかが自然にわかる。成長するため云々みたいな説教くさいことでなく、単に面白いからやっている。  面白いの延長で、随分昔に手書きしていた日記も随時こちらへ転記し始めた。  社会に出たばかりの頃のは読み返して面白かった。なるほど、これがああなってこうなるのかと、人の変

記憶と万年筆 〜縁と消息〜

 十数年前、万年筆の面白さに目覚めた。それからハマっていく過程で、今度のボーナスで値段が5桁のペンを買ってみようかどうしようかと迷っている、と誰にともなくツイートしたら、「買えばいいじゃない」と背中を押してくれる人があった。  それでその気になって、名古屋の丸善で買った。その頃の丸善は広小路通沿いにあって、昭和の匂いが残る古い店舗だった。ここで万年筆を買うということが、何だか古めかしい儀式のように感ぜられたのを覚えている。 ※  国内大手メーカー――パイロット、プラチナ、

使いさしのノート

 過日、黒歴史抹消のため、書き溜めてきたノートの断捨離をやっていたら使いさしのモレスキンが出てきた。2013年に使い始めたもので、半分以上が白紙のままだ。書いてある内容は単なる行動ログがほとんどで、どうやら黒歴史化の恐れはなさそうだったから、続けて使うことにした。  note記事のネタに困ったら、このノートにその日の出来事を思いつく端から書き出して、適当なものを膨らませて記事にしている。 ※  モレスキンはポケットサイズでも2,000円を超える。ノートとしては随分高額だ。

死後の自転車

 先日、来宅した妻の友人ケイトさんからこんな話を聞いた。 ※  どういうきっかけだか知らないが、先年亡くなった旦那さんのことで霊能者に見てもらったら、「旦那さん、面白いこと云うわねぇ。いい人がいたら再婚してもいいよ、まぁ俺よりいい人なんかいないと思うけどね。ですってw」と云われたんだそうだ。  自分は一体、霊能者も占い師も信じないものだから、何だか随分ありきたりなことを云うものだと白けたのだけれど、妻とケイトさんは「旦那さん、絶対それ言うわ!」「でしょ?」「霊能者にそう

古靴、犬の踊り

 まだ独りでアパートに住んでいた頃のこと。 ※  ある日車で帰宅すると駐車場の入口に軽トラが停まっていた。その位置が絶妙に邪魔で、こちらは入るに入れない。  そこへ大家夫人が現れた。夫人は何だか顔の前で手をひらひらさせ、故障してこの位置で動かなくなった、JAFを呼んであるが到着後に作業の邪魔になってはいけないからここに駐めるなと云う。  云いたいことはわかったが、代わりにどこへ駐めろと云うでもない。きちんと賃借料を払って借りているのを、駐めるなの一言で済まされては面白くな