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逆噴射小説大賞2021「極私的」ピックアップ1/2

これの応募作でおれが好きなやつを上げる。



弾倉マガジンの装填数は403発。そこから25発前後の弾丸タマを抜き出した。今回はそのうち13発を紹介する。

一発ごとの寸評が長い。よって、必要なことだけ言ったら即始めさせてもらう。


○おれは新参者で素人だが、あえて不遜な口調でこの記事を書いている。粗相の無いように心がけてはいるが、それでも不快に思われたらそのときは申し訳ない。
あと、応募作は全部読んでいる。たぶん読み逃しはない。

○選考基準は「続きを読みたいか」そしてそれ以上に「繰り返し読みたいか」。
後者の比重が重いため、この大賞のレギュレーションには不向きと思われる作品でもピックアップしている。「極私的」なんて大仰なタイトルをつけた理由もこれ。

○おれはあたまが悪い。具体的に言うと、練り込まれた世界観の読解力に欠けている。要するにハイファンタジーに向いてない。
「エッ、あの作品めっちゃ良い(既に高い評価を受けている)のに入っていないのナンデ!?」とか「練りに練り上げた俺の作品がねえぞタコ助ェ!!」という感想を抱いたら、だいたいはここに原因がある。重ねて申し訳ない。

○言うまでもないことだが、このピックアップにスキ返し的な意味は含まれていない。おれは人情に流されまくるタチだが、だからこそそういうマネはしない。仮にも人様の作品を選ばせてもらう以上、情を排することは最低限の礼儀だと思っている。

○最後に、寸評の分量と作品の好き具合に関係はない。どれも好きだから上げている。

以上だ。
始める。


1.那由多に至れ

スペースオペラ+レースもの。
何と言っても冒頭の悪党揃い踏みのシーン、これが良い。「星摘みグラムチカ」とか良い意味でハッタリが効いていて最高だ。
刃牙の”全選手入場”とかでもそうだが、こういう参加者紹介シーンはいかに読み手をワクワクさせるかが肝だ。その点、この出だしは読み手のハートをフックするワクワク感に満ちている。
あと主人公の愛機「星虹アウローラ」のネーミングも実に格好良い。造語センスが一々秀逸だ。こういうセンスを持つ人におれは憧れる。

壮大な舞台設定。初っ端から波乱に満ちた幕開け。一癖も二癖もあるレース参加者と運営サイド。
これは面白くならないはずがない。是非続きを読んでみたい。


2.レディオ・タンデム・モーター・スペクター

バカなおっさんとバカなベイブが単車で2ケツ。単車を追うのはゾンビの群れ。うーんアッタマ悪い!大好物!!

800字制限の中、冒頭のけっこうな分量を金髪ベイブの描写(特におっぱい)に費やしたのは大真面目に言ってアリだと思う。カラッとしたおバカな世界観の説明としてはかなり効いている。おかげでグイィッと作者のMEXICO作品世界に引き込まれてしまった。おれも自作品のベイブをもっと扇情的に書くべきだったと後悔したくらいだ。
欲を言えば、ノリや世界観の描写で終わってしまった感が拭えない。ハイボルテージのテンションをそのままぶつける勢いで、ゾンビのニ、三体は景気よく肉片にしてもらいたかった。分量を割いたがゆえの魅力的なノリだということは承知しているから難しいが。

余談だが、作品タイトルの元ネタはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの6thアルバム「ロデオ・タンデム・ビート・スペクター」だと思われる。
だが、このアルバムはダークでソリッドな曲を集めたものだ。翻って「レディオ・タンデム・モーター・スペクター」の方を見ると、元ネタのイメージからは思いもよらない陽性のVIBESに満ちている。ミッシェル信者のおれとしては、このアルバムからこのVIBESが生み出されたことを非常に興味深く思う。


3.ライブ絵師JIN

無名のネット絵師のお絵描きライブ配信中、絵師の描いたキャラクターが突然喋りだした。武器をよこせと言い出すそいつの横には黒い影。放っておいたらデータが消される。絵師は必死で苦手分野の武器を描き始めるが――。

これは面白い!主人公の絵師、絵師の描いた意思持つキャラクター、ライブ配信の視聴者、すべてが活き活きと描かれている。地の文含めた登場人物の全セリフが必然に満ちている。テンポも良い。物語をドライヴさせるべく余分な事を書かないように腐心した事が伺える。

作者の方自身も絵師ゆえに、書き手のR.E.A.Lが存分に活かされたのだと思う。紹介文は短いが、これは抜群にオススメだ。読み手を選ぶことなく、誰が読んでも面白いであろうことも高評価につながっている。


4.『口が災いの門』

パワフル系ヒロインがどえらい事態を引き起こす話。
もうめっちゃパワフル。そして傍若無人。何なら涼宮ハルヒの上位互換と言っていい位のフルスロットル。
己の持てる力のすべてを嫌がらせに全力投球する外道。あと描写されてないけどたぶん美少女。おいおい最高かよ。最高だな。

すごいのはキャラだけじゃない。後半ぐわぁっと物語がうねり出す。
うねりを作り出しているのは最後のセリフ回しだが、そのテンポが秀逸だ。単純に面白いし、それ以上に出来の良さに唸らされる。おれは詳しくないので迂闊な事は言えないが、なんとなく演劇的な匂いを感じた。

800字の字数制限の中で、”強烈なキャラ立ち”と”物語のドライヴ”をいっぺんにブチ込んでくるのは尋常の業じゃない。その二要素の両立という点では、全応募作中この作品が一番だと思った。「腕力だけでMEXICO過酷な賞レースを戦い抜く」と豪語するにふさわしい、高出力のペン捌きだ。


5.【闇夜の銃撃者】

喋るリボルバー銃と一般人が怪異に立ち向かう相棒バディもの。
設定としては王道だが、それ故に目を引くような物珍しさはない。だが、この二人の掛け合いには大いに惹かれるものがある。

リボルバー銃の人を食った軽妙さも良いが、主人公のセリフはそれに輪を掛けて良い。恐怖を素直に認めつつも敵を撃ち倒さんとする、等身大のタフさに満ちた言葉だ。最後のセリフがバシッと決まっているのも、作者自身のタフさとかR.E.A.Lさが滲み出たものだと感じる。
こういうセリフ回しはいかにもありそうで、その実中々見かけない。一見なんて事はない二言三言の会話だが、物語全体をもドライヴさせるR.E.A.Lな言霊だと思った。折に触れて読み返したくなる作品だ。


6.俳優アントニオ・マルティネスについての記憶

表は売れないスタントマン、裏では売れてる荒事屋。裏の顔ばかりが知れ渡ることに不満を抱く男に、表裏おもうら合わせて三つの依頼が舞い込んだ。それぞれの依頼の内容は――。

800字の制限下で何を書けばクリティカルヒット足りうるのかは、この大賞の参加者なら誰もが意識するところだ。いかに作品の世界観やイメージを上手く伝えるか、或いはいかに強烈なフックや引きをぶち込めるか、等々。

だが、その意識を一文一文のすべてに・・・・張り巡らせた作品となると、おそらくこの作品を含めて数本しか存在しないのではないか。選び抜かれた言葉と明確な意味を持たせたパラグラフによって、800字とは思えない情報量が読み手の頭脳になめらかに進入していく。そうして読み進めた先の最後の一文、そこで読み手の呼吸は止まる。
派手なドンパチもクリーチャーも出すことなく、始終淡々とした筆致でここまで読み手の心を掴むことができるのは、こうした造り込みの賜物だろう。「神は細部に宿る」とはこういう事を指すのかと思い知らされる。

すでに各所で高い評価を得ている作品だが、おれも全くの同感だ。一読して息を呑み、二読三読して造り込みの精緻さに圧倒された。紛れもなく優勝候補の一角だろう。


7.サイトーくんは透明になりたかった。

青春小説。冴えない男子高校生がちょっと不良なニオイのする先輩女子と出会う話。

いや~甘酸っぱい。キュン死にしそうなくらい甘酸っぱい。仮にこの作品をジャムにして出されたら、アプリコットとかもう食えなくなると思う。

甘酸っぱさの本当の肝は、ヒロインのマミヤではなく主人公サイトーの描写だ。最初にサイトーの陰鬱さを描いたからこそ、ちょい悪ヒロインのマミヤがビビッドに映えている。また、冒頭3つのパラグラフで過不足なくサイトーを描写し、後はじっくりマミヤとの会話を描いているのも達者だ。バランス配分の巧みさを感じさせる。
書き出しの上手さといい期待を抱かせる最後の一文といい、物語を書き慣れている人なんだろうという印象を受けた。そういう安心感を与えてくれるのは読み手にとって嬉しい事だ(当然、それだけが唯一絶対の価値というわけではないが)。

これ、続き読みてえなあ~。
グッドかバッドかビターかトゥルーか、どのエンドルートに入っても読み手が悶死するのは目に見えてるんだけど。


8.銀の網

独居老人の連続失踪にまつわるサスペンス。

一読して「手練」という単語が頭に浮かんだ。
断っておくと、他の書き手を貶めて相対的に持ち上げる気は更々無い。そもそも応募者であるパルプスリンガー達は、いずれ劣らぬ猛者揃いだ。手練と呼ぶにふさわしい書き手はいくらでもいる。
だが、この呼称が脳内に浮かんだのはこの作品だけだった。何故か。

上手く言えないのがもどかしいが、文章の安定感が違うとしか言いようがない。はしゃぎや無駄を排した文章が、物語を紡ぐという一点に向けておごそかに配置されている。これはほとばしる才能ではなく、ただただ地道な鍛錬によって培われた小説力の為せる業だ。

おれは作者さんの事をよく知らない。せいぜいキレッキレのババアの冒険活劇を書いてる人くらいにしか認識していなかったし、今もその程度の認識しか持ち合わせていない。だから、この感想は十中八九おれの妄想だ。
だが、「この人は才能や勢いでなく、鍛錬を経たからこの小説を書けたのだろうな」という確信を否応なく抱かされたのも事実だ。少なくとも、読み手にそう思わせるだけの力をこの作品が有している事、それだけは間違いない。

作品自体にロクに触れていないので一つだけ付言すると、宮部みゆきの「レベル7」を彷彿とさせた。大昔に読んだきりだから筋は覚えていないが、あのいやな不穏さだけは記憶の底にこびりついている。「銀の網」に流れる空気は、それとよく似ている気がした。


9.レイダウン・ユアハンド -Lay Down Your Hand-

大変勝手で申し訳ないが、まず作者さん自身のコメントを引用させていただく。


カジノ、ギャンブル、銃、サイバーパンク、そしておっぱいの大きなベイブ――。
 俺の好きな要素でしか構成されていない。

おれも大好きだ。握手してください。

特に気に入っているのは「カジノ・ギャンブル」そして「サイバーパンク」要素。
主人公とカジノオーナーのやり取りや主人公のブラフには外連味けれんみがたっぷり効いている。このジャンルの醍醐味である、その外連味を味わいたくてやって来た客(読み手)の期待に正面から応えてくれている。

ミステリアスで腕の立つベイブも良い。だがそれ以上に気に入ったのは、最後の最後に出てきたサイバーパンク要素「電子ドラッグ〈AX-Cellaアクセラ〉」。
ちょっと待ってカッコ良すぎやせんかね。それ絶対身体機能とか演算速度とかブーストするヤツでしょ名前的に。というかどっからそのスペル出てきたの。色々センス良い。惚れる。

総じて、男のロマンをギチギチに詰め込んだ快作。
こういうのってだいたいは詰め込みすぎてパンクする。でもこの作品はパンクしてない。それどころか全部の良いトコ活かして満艦飾のエンターテイメントに仕上げてる。
すごい。すごいしふしぎ。たぶん魔法とか使ってる。


10.月竜を喰む

SF+ファンタジー。核兵器が竜にすげ替わった世界観。

宇宙(月面)開発競争の理由を「竜の飼育に適しているため」としたところがすごいし上手い。核がファンタジー生物の竜に変わったことで、米ソ両国が宇宙開発に躍起になる理由が違和感なく飲み込める。というか現実以上に直感的に理解しやすい。あと竜が意外とかわいい。月の牧場で放牧されてるくだりはなんか和む。

そんな感じでゆるーく読んでたら、唐突に物語が揺れ動く。「あああああもう駄目だよくわからんけどとにかく地球は終わりだ死のう」と絶望に叩き落とされる。読んだおれにも何が起こったのか未だにわからないが、とにかく地球はもうダメだということだけはビンビンに伝わった。

これはひとえに文字強調のおかげだろう。主催側はこの表現を応募作で濫用するなと言っているし、おれも実際使いこなせないと思ったから自重した。
それでも敢えて文字強調を用いて、かつ効果的に使いこなせているこの作品はすごい。基礎を押さえた上級者だからこそ手を出せる代物だろう。金田のバイクと同じだ。つくづく、おれのような素人が手を出さなくて良かったと思う。

ところで、タイトルは「月竜がちりゅうむ」と勝手に読んでるけど、これで合ってるんだろうか。地味に気になっている。


11.実際に異世界転生したらクッソめんどくさい件

タイトル通り異世界転生もの。には違いないけど、思ってたのとぜんぜん違う。

多かれ少なかれ、異世界転生ものはご都合主義の塊だ。うだつの上がらない現実に辟易したやつらをスカッとさせるための読み物だから当然だが、個人的にはあまり好きなジャンルではない。
そこに来て、この作品はそのご都合主義を徹底的に排している。最強チートやハーレムどころか、剣も魔法もモンスターも出てこない。正確には出てこないわけではないが、主人公がそのステージにたどり着けていない。そもそも現地の言葉がわからず、手探りで覚えるところからスタートしている。

アイデア自体は、少し考えれば誰もが思いつくものだと思う。だが、それはせいぜい「実際異世界に転生しても言葉わかんなくて詰むだろwww」程度の茶化しで終わるものだ。そのアイデアを真正面から丹念に描くことで、この作品は読み手の好奇心をくすぐることに成功している。

剣も魔法もモンスターも出てこないが、これはこれで一つの冒険譚だ。読んでいて知らずしらずのうちに引き込まれる。TV番組「世界ウルルン滞在記」を観ているような趣があった。


12.スマイル・アニマル・マテリアル

ファンタジー生物で溢れかえった現実世界の話。

冒頭のいきものの描写がかわいい。「すねこすり」を知らなかったので検索してみたが、想像よりさらにかわいくて和んだ。ウェンディゴと雪女の密会も微笑ましくてGOOD。
なるほどそういうユルカワ系的なアレなのねと思いながら読んでいったら、いきなり砲弾をブチ込まれるハードな世界観に転調してビビった。アニメ「夏目友人帳」を観ていたら「アーマードコア」のプレイ動画に切り替わったような感覚だ。
混乱したまま読み進めていくと、最後のくだりで急速にボルテージがブチ上がった。これは格好良い。滅茶滅茶ワクワクする。

日常パートとバトルパートを800字で堪能させてもらえる贅沢な作品だ。タイトルも韻を踏んでいて実にオシャレ。このままアニメ化してくれ。


13.『ミュージックが聞こえる街』

OLのねーちゃんがへんな動物どもに絡まれる話。モチーフは「ブレーメンの音楽隊」。

これ、好きだなぁ~!何遍読み返しても良い。
動物→かわいい→ウケが良い?そんな単純な話じゃない。かわいさを引き立てる書き手の技量があってこそ、この作品は良作たり得ている。
これも勝手で申し訳ないが、本文を一部引用させていただく。


用が済んだらちゃんと送りますから、と薄汚い路地から出てきたロバがいなないた。
いやいや、君の足は遅いだろう。さすがに夜が明けてしまう。
夜明けは遅らせますから、と飲み屋の看板の上でオンドリが胸を張って鳴いた。

かわいい。そして上手い。

なんじゃこのテンポの良さ。OLのツッコミに即応するオンドリの描写とか完璧すぎやせんか。ロバとオンドリが自信満々にズレたアピールをしているところもかわいいし笑える。
たった三行でこれを描写できるのはヤバい。情報の使い方が上手すぎる。

童話チックな世界観の動物達に対し、OLのねーちゃんが最後の最後までちょっとスれてるのもいい対比になっている。こういう醒めた姿勢だからこそ動物たちのかわいさも映える。良いベネ

ガタガタ理屈を捏ねたが、この作品を楽しむのにそんな理屈はいらない。誰でもスルッと読めて、しかも面白い。パルプ界隈とか知らない人にもオススメできる良作だ。



長くなったので、一旦ここで切らせてもらう。
残りは別の記事で紹介する。

作者さん方に置かれましては、苦情とかあったらお知らせください。できるだけ速やかに対応します。

楽しく読ませていただきました。ありがとうございます。



※これ書いたやつの応募作はこちら

一作目。SFポエム。

二作目。ガラの悪い行政書士がはたらく。

三作目。ギャング。雷。ベイブ。雷。ドライヴ。

自作品紹介。全部ここにさらけ出してる。


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