見出し画像

火花

76.321.16、76.321.16、76.321.16、76.321.16。


窓硝子に映った老人を見て、
「ああ、あの人はもうじき亡くなってしまうのかもな」と思った。
窓硝子に映ったその姿が、
晴れた青空の下の草木に溶けて、
なんだかそれが、天に向かって歩いているように思えた。






「ああ随分変わってしまった」なんて、
何を確かな根拠にそんなこと言えるのだろう。
ふと頭に浮かぶ場所が増えたから、
ふと思い出すいつかが尖ってないから?
「私は強くなれた」だなんて、
どうしてそんな風に思えるだろう。
隣に誰か居なくても大丈夫だから?
視線にただ溺れることが随分減ったから?

欠如した想像力のまま、
いつでも誰かとは向き合っていなければならなくて、
欠如した創造力のまま、
それでも何かを産み出していないと途絶えてしまうって。
気が抜けた頃、
行き着く先を思い浮かべては、
あの日窓硝子に映っていた、
老人の背を思い出してみる。
ただ思い出しているだけ。

「今年は一緒に見られないの」
そう告げた後の、誰かの、
一瞬のその間をなんだか忘れられない。
「今年は」なんて間違いで、
「今年も」だったと今さら気付いた。

「来年は」「次は」「今度は」
先延ばしになるばかりの話、
ふわふわするばかりの理想、
くらくらするばかりの頭で、
思い出すのはいつでも同じようなある日のこと。

「もう随分変わってしまった」なんて、
どの面下げてそんなことほざけるのだろう。
またこんな気持ちで此処に来てしまったよ。
泣かないでいるだけマシと褒めてよ。
「少しは清潔になれた」なんて、
どんな騙し文句で納得させようか。
伸ばしっぱなしの黒いだけの髪、
薄いレース地の白いワンピース。

欠如したままのこんな能力、
それでも辛うじてできること探していないと。
欠如したままのこんな気持ち、
今でも忘れないで傷つけないで守って。
晴れた青い空の日に、
こんな場所で一休みしては、
音もなく同じ道を歩き続ける、
老人の眼差しをじっと見ていた。
ただそうして見ているだけ。


あの日は一人で見ていた。
散っていくばかりの光の花だ。
じっと待ちながら見ていた。
誰かの帰りを待ちながら見ていた。
あの人もきっと見上げていた、
音ばかり派手な花の行く末。
ずっと焦がれながら見ている、
だけどもう「かなわない」って。

もしかしたら、あの人は。
あの日。

核心には触れないでいないと、
根っこに触れれば滲みて仕方ないもの。
内緒の話は内緒のままにしないと、
秘密など守れなくなれば仕舞いよ。
核心こそ大事に抱えていないと、
根腐れなんて百も承知の上で、
秘密なんていつか暴かれるもの、
大昔から有り触れた話じゃないの。

欠けていく、駆けていく。
散っていく、そうして終わってしまうの。
じりじり差し迫る感覚を、
私達いつでも気付かないフリしてるだけよ。
欠けている、駆けている。
いってしまう、そうして続きを焦がれているの。
背中に伸びる白い手に、
気付いていながら歩む速さを。


もしかしたら、あの人は。
あ の 日 。
もしかしたら、あの人は。
あ の 目 。
もしかしたら、あの時。

わたし は ひとり で みていた。


あの人は振り返らずに いった 。



「今年は一緒に見られないの」
「随分変われてしまったから仕方ないの」
「いつかのあの日あの場所で」
「少しは綺麗になって帰れるように」
「今年も一緒に見られないの」
「来年は」「次は」「今度は」
「今年は一緒にいられないの」


『いつなら いいと わたしは いうの?』


一緒に見られないの
一緒に居られないの
一瞬でしかいられない
あの日 あの場所 で 何を考えていたの?



あなたにはわたしがどんな風にみえてる



欠如したままのこんな能力、
それでも辛うじてできること探していないと。

欠如したままのこんな気持ち、
今でも忘れないで傷つけないで守って。

晴れた青い空の日に、
こんな場所で一休みしては、
音もなく同じ道を歩き続ける、
老人の眼差しをじっと見ていた。


眼差しの行く末に頭を働かせて。


欠如した創造力のまま、
いつでも現実とは向き合っていなければならなくて、
欠如した想像力のまま、
それでも何かを吐き出していないと気が狂れてしまうって。

気が抜けた頃、
行き着く先を思い浮かべては、
あの日窓硝子に映っていた、
老人の背を思い出してみる。


ただ思い出すばかりなの。






窓硝子に映った誰かを見て、
「ああ、あの人はもう時期かえるのだろうな」と思った。
窓硝子に映ったその姿が、
窓硝子に映ったその姿は。
窓硝子から意識をかえして。
手元に目を落としながらいくつかの日を思い出してみた。

なんだかまるで、天に向かって歩いているように思えたの。

無事に空にとけられますように。
無事に空にとけられますように。




76.321.16、

   7 6 . 3 2 1 . 1 6 、


 76 . 321 . 16 、



     76 . 321 . 16 、



       7 6 . 3 2 1 . 1 6。


(2016.7.12.01:31)

#テキスト #散文 #アート #智乃
#智乃_essay #智乃_photo #心象
#自由詩 #口語自由詩 #詩 #poem #poetry #essay

いいなと思ったら応援しよう!

智乃-chino-
綴られた言葉が気に入った貴方様、思い当たる気持ちがあった貴方様。もしよろしければ、サポートして頂けますと今後の励みになります。いただいたサポートは、引き続きアーティストとしての活動費に使わせていただきます。