ココアくんと君と
※お立ち寄り時間…3分
いつも閉店間際だった。
ギリギリになって買いに来る。10代と20代の間ぐらいの男の子が、とびきり甘いココアをひとつ。
素顔は、何一つ知らない。名前も、職業も、もちろん嫌いな食べ物も。きっと好きな飲み物は、「ココア」なんだろうけど。
定休日以外は、毎日、閉店までのおおよそ30分の間に必ず息を切らしてやってくる。まるで、小さなレトリバーみたいにやってくるから、「ココア」くんと名前を付けている。
なんだか、いつの間にか会えることがほんの少しの楽しみになっていた。
ある日、君は人目もはばからずワンワン泣いていた。誰かを抱きしめられるほど、偉くなった訳でもない。誰かのためにラブソングを書いたこともない。
ただ、君を、君を苦しめる何かから守ってあげたくなった。君にとってのたった一つの温もり。君がココアを飲みたいと言ったから。
「今日は、ホイップはサービスだよ。」
鼻先をココアの甘さが悪戯っ子のようにつつく。君の涙の訳は聞かないけれど、君の笑い声は大いに聞きたいものである。
くぐもった君の返事は、また後日。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?