おにぎり女子
今年の夏、がっくりと食欲が落ちて、「サクレレモン」以外美味しいと思うものがなかった……みたいな記事を書いたが、もとよりシャーベットだけでは生きられない。
ご飯よりパン……と公言してきた身の、サンドイッチ系でとも考えたのだが、思いの他に高くついてしまい、やむを得ず白米メインの食事をため息交じりに食べていたのだが……実は、真夏の後半あたりから、俄然「美味い!」というものを見つけたのだ。
何のコトは無い、おにぎりである。
とはいえ、面倒くさがり家とあって、自らニギニギしたわけでもなく、コンビニやスーパーで売っている出来合いの奴ではあるが、あれ? ……こんなに美味かったっけ……という印象であった。
それまで、昼食はやはり「ランチパック」のようなパンが主力だったのだが……いかんせんあの「あったり前」すぎる平均的味にも辟易、つい手を伸ばしたのが「おにぎり」であった。
もとより、普段食べ慣れている人にとってはかかる既存の「おにぎり」こそ、「あったり前」なのかも知れないが……それまで、どこか敬遠してきたとあって、今さらながらに白米の美味さに目覚めたしだいなのだ。
思えば、「おにぎり」などはお袋の味の定番だろうが……今、思い返してみても、お袋の握った「おにぎり」をあまり食べた記憶がない。
苦手だったのだろうか? たまに握っても、見慣れた三角ではなく、丸い形の、……までは覚えているが、具に何が入っていたかとなると不分明なのだ。
たぶん、当時から洋食好みとあって、僕自身そっぽを向いていたのだろう。
いっそ成人してから、冷や飯を自ら握って、醤油を付けて焼いたのを夜食としていたこともあったが……特別美味いと感じた記憶もない。いっそ、カップ麺の方が好みだったと思う。
そんな僕ではあったが……今では昼飯はパンではなく、もっぱら「おにぎり」にシフトしてしまったのだ。
ツナマヨ、シャケ、おかか……といった所だが、……少なくとも一般のおかずで食べる夕食よりも……格段に美味く、その時だけは、不思議と食欲が溢れてくるのだ。
ただし、こんな時の飲み物といえば「日本茶」なのだろうが……僕は案外変則で、パインジュースだったり、豆乳とかコーヒーの時もある。まあ、たまたま家にある飲み物というわけで、そのうち日本茶に落ち着くとは思うが……
いずれにしても、それまでの僕の人生に於て、「おにぎり」という存在は全くカゲに隠れていて表舞台への登場は皆無だったのだが……今、つらつら考えてみるに、ちょっとノスタルジックな思い出に繋がっていそうなのだ。
そう。僕が浪人中、代々木の予備校に通っていた時のことだ。
一人、気になる女の子がいて……気立ての良さそうな、いかにも平和な家庭のお嬢さんという雰囲気であった。確か、共に属していたのが「東大L科」といっただろうか……恐らく、僕よりも成績は良かったふしがある。
とにかく、普段は楚々としているのだが……昼飯時……そう、これが大抵「おにぎり」、しかも、見るからにデカイ「おにぎり」だったのだ!
そして、その食べっぷりに僕は唖然としたのだ。
大きなおにぎりを両手に持ち、文字道理「パクパク」「ムシャムシャ」……見掛け、いかにも健康的な体つきの女子ではあったが……その、微笑ましいまでの豪快な食べっぷりに度肝抜かされたものである。
ちなみに、僕は昼飯としては、なんとも味気ない「マドレーヌ」のような焼き菓子をモソモソと食べていたと思う。
確か、当の女子とはノートを見せてもらうのに、一度くらい口をきいた記憶(見掛けそのままに親切、優しい)もあるが、別に恋愛感情を抱いたわけでもない。
ただし、あの時の彼女の「おにぎり」の子供っぽい食べっぷりが、僕の記憶の片隅に眠っていたのだろう。
知らず……僕は現在、「おにぎり」を、当時の彼女が乗り移ったみたいに「パクパク」食べているのだ!
……あの健康そうで、いかにも頭の良さそうな「おにぎり女子」に肖るぺく……これからも、「おにぎり」をエネルギーの基本としてゆきたいと思う。
てっきり、彼女は僕にとっての、全ての基本である食欲の「アイコン」なのだろう……
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。