柑橘類嫌い

　

　柑橘類は、普通の「ミカン」以外……あまり好まない。

　子供時代、野菜嫌いだったこともあって……その代わりというのか、「夏みかん」を頻繁に食わされたものであった。そのままでは酸っぱいので、剥いたあとグラニュー糖をたっぷり掛けて食べる。とはいえ。あの苦味が苦手で顔を顰めていたらしいが、おかんからはかなりドヤサレて我慢していたようだ。

　成人してからも、進んで柑橘系は食べることはない。グレープフルーツなんかも、出てくれば食べるが美味しいとは思わない。オレンジもジュースなら飲むが、そのままは御免である。

　そんな僕なのだが……なぜかバイト先などで、柑橘類をもらうことが多い。まあ、甘夏とかデコポンみたいな奴だろう。せっかくの好意だし、有り難く頂戴はするのだが……とたんに憂鬱になる。捨てるわけにもゆかず、食べることにはしているのだが……なにせ、厚い皮を剥くだけでイライラ……何日かかかって完食した時は、つい溜め息、……義務を全うしたという気分なのだ。

　とはいえ、初めにも書いたように「ミカン」だけは好物で、夏場などはキンキンに冷やした缶詰めを常備しているくらいである。

　確かに、ガキの頃など正月になると一人でパクパク食っていたものだ。顔が黄色くなるぞ、と威されてもパクパク……少なくとも、爪が黄色く染まった覚えはある。
　とはいえ、やはり根が貧乏性なのか、同じミカンでもデカイ奴は好まない。小振りで、皮がユルっと簡単に剥けて、薄皮の柔らかいのがいい。
　ほっとけば、今でもいくつ食うか知れたものでは無い。

　そしてミカンと言って思い出すのが、幼少期に「藥」として食べた「ミカンの黒焼」である。確か風邪藥という見立てだったと思う。とにかくミカンを火鉢にくべて黒焼にする。これを潰してお湯を掛け、砂糖を加える。喉にもいいとも聞いたが、そんなことはどうでもよく……とにかく美味かった記憶がある。

　もとより、我が家から火鉢が消えてからは、全く口にしなくなったが……今でも時々思い出す。
　ネットで調べてみると、昨今はガスコンロで焼くという。ハッキリ言って、真っ平ではあるが……

　いずれにしても……僕が柑橘系を好まないのは、やはり、必ず含まれている「苦味」のせいだろう。一説によると、有効なポリフェノールらしいが、……

　柑橘系の甘さと酸っぱさは……そう、まさしく「恋」の味わいだろう。しかし、その底には、失恋の苦しみである「苦味」が隠れているのだ。砂糖やシロップで誤魔化そうとしても……「苦味」は薄笑いを浮かべる。

　たぶん、僕にとっての「ミカンの黒焼」は、荼毘に付された過去の「恋」の味なのだろう。