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書籍解説No.6「ファスト&スロー」

こんにちは。

前回の投稿はこちらからお願いいたします。

今回の書籍解説は「ファスト&スロー 上 (ダニエル・カーネマン)」です。

タイトルの「ファスト(速い)」と「スロー(遅い)」は何を示しているのか。
それは、端的にいうと「思考の速さ」です。

・容姿の優れた人は性格もいい?
・高身長の人は仕事ができそう?
・SNSのフォロワー数=人望の高さ?

このように、ある一つの際立った性質につられて印象形成してしまう思考は、私たちの備える直感的な性質です。
はたして、その直感は正しいのでしょうか。よくいわれるステレオタイプは悪なのでしょうか。

キーワード:システム1(速い思考)、システム2(遅い思考)、直感、ヒューリスティック、ハロー効果、確証バイアス】

【システム1とシステム2】

システム1(速い思考):直感的、衝動的
システム2(遅い思考):熟慮熟考、論理思考能力

冒頭で「思考の速さ」といいましたが、聞いてもピンと来ないかもしれません。
ここでいう「速さ」とは、反射的に直感で考えて行動するか、あるいは自分を監視しながら熟慮の上で行動するか、といったものです。著者は、対照的な2つの思考をそれぞれシステム1、システム2と名付けました。この2つのシステムは、本書を読み進めていくうえでの一つの軸となります。

例① システム1(速い思考)の例
・彼が几帳面でまじめな性格だからという理由で、A型だと予想する。
・友人からの誘いに二つ返事で回答する。

例② システム2(遅い思考)の例

・複雑な文章を読解する。
・選択肢の中から、熟慮の上で一つを選ぶ。

例③ システム1、システム2の例

友人から「今夜遊びに行こう」と誘われた。
私は行きたいと思った(システム1)が、もし誘いに乗ってしまうと明日提出の課題を終わらせることができないと判断し(システム2)、断った。

思考や判断が必要とされないような場面ではシステム1が自動運転しており、複雑な思考が必要となったときにはシステム2が働くというわけです。
また、例③のように直感的に思い立ったシステム1を制御する役割もシステム2は担っています。

【直感はあてになるか】

元来、システム1は人間に備わっている重要な思考です。
現代ではあまり考えにくいかもしれませんが、あなたが深い森の中を歩いているとしましょう。向こうの藪でガザガザと物音がしたとき、システム1が「今すぐ逃げなければ」と直感の信号を出してくれることで、危険から身を護ることができます。もし、ここでシステム2が作動してあれこれ思案していると、藪から獰猛な動物が現れて襲われていたかもしれません。

しかし、システム1は直感的・反射的な思考であるがゆえに、あまり疑り深くないという性質があります。あらゆる解釈が可能であっても、それを無視してできるだけつじつまの合う筋書きを作ってしまいます。ゆえに、すぐに嘘だとわかるような情報が出ない限り、それが真実として受け入れてしまいます。
一方でシステム2は、曖昧な状況に直面した時、自動運転しているシステム1を制御しながら論理的に考えて判断を下すことができます。しかし、システム1を制御することは一定の努力を要することから、簡単なことではありません。
これが「疑うより信じたい」というバイアス(錯覚)を生むことになります。

また、人が衝動的な判断を引き起こす条件もあります。

困難な認知的作業・誘惑に直面した人は、誘惑に負ける可能性が高いといいます。認知的に忙しい状況下では利己的な選択をしやすく、思慮を必要としない表面的な判断をしやすいことが確認されています。

ちなみに、酒に酔うと本性が出るといいますが、これは理にかなっているといえます。
私たちは、認知的に余裕がない場面ではとりわけ衝動的な判断に陥りやすいのです。例えば、睡眠不足や飲酒状態ではシステム2が作動しないことからシステム1の独壇場となり、直感的・衝動的な言動をしてしまうわけです。

【「疑うより信じたい」という欲求】

●利用可能性ヒューリスティック

私たちは、記憶から容易に呼び出しやすく、思い出しやすいものを、相対的に重要だと評価する傾向があります。これを利用可能性ヒューリスティックといいます。ヒューリスティックとは、何らかの意思決定を行う際に、無意識に用いている法則のことです。

メディアを例に挙げます。
利用可能性ヒューリスティックにより、頻繁に報道される事柄はとりわけ私たちの記憶に残ります。そして、記憶からの呼び出しやすさは、メディアによっていかに頻繁に、過剰に取り上げられるかで決まってしまうのです。
つまり、重要な出来事(異常気象、株価の下落)が起きたとしても、市民にとってあまり注目されない内容だろうと判断されてしまえば取り上げられないでしょう。一方で、より注意を引くような事柄(政治家や芸能人のスキャンダル)を報道した方が、ウケはよく視聴率も稼げます。このような報道を続けると、本来懸念すべき深刻な問題がそれほど重要ではないように感じ、どうでもいいような個人のスキャンダルに注意を向けさせることになります。

つまるところ、スキャンダルなどの不毛な話題によって国民の関心を向けさせることで、政府や企業の重大な不手際から目を背けさせることも可能というわけです。日本のメディアが政治利用されているか否かは判断しかねますが、メディアによって大衆の意思は操作することができるといえます。
メディアは大衆の関心を形成すると同時に、大衆の関心によって方向づけられているのです。

●ハロー効果

私たちは、ある一つの際立った性質を注視してしまい、対象の印象形成をしてしまいます。高身長の人を見ると仕事ができそうだと思い、容姿の優れた人は性格もいいはずだと錯覚してしまいます。これがハロー効果です。

これに確証バイアスが加わると、更に思考が偏っていきます。私たちには、自分の信じる理論や仮説を裏付ける、あるいはそれと一致するデータを探すことで、自らの考えを肯定化しようとする性質があります。

あなたに、気になっている異性がいるとします。最近知り合った彼(彼女)とは、まだ付き合いが浅いことから分からない部分も多いですが、第一印象は良く、もっと深い仲になりたいと考えています。
ある時、その人のSNSのアカウントを見つけました。アップロードされている写真は、たくさんの友人、おしゃれなカフェやレストラン、高級そうな料理の数々で溢れていました。
やはり、彼(彼女)は第一印象のとおり「社交的で人望が厚く、店選びや料理のセンスがある人に違いない」

著者は、このような「自分が見たものがすべて」という人間の心理を「WYSIATI(When you see in all there is)」という言葉で表しています。
これまで述べてきたように、システム1は印象や直感のもとになっている情報の質にも量にも無頓着であることから、情報が乏しいときにはすぐさま結論に飛びつきます。そして、脳内で都合のいいようにつじつまを合わせるのです。

もしかしたら例で述べた素敵な(?)方は、金銭感覚に問題を抱え、毎度のように食事を奢らせるような、誰にでも尻尾を振る人たらしかもしれません。

【まとめ】

システム1は人間に備わっている重要な思考です。直感は自動運転しており、日常生活におけるほとんどの意思決定がこれに委ねられていると言っていいでしょう。それは、私たちの意思決定において一定の役割を果てしています。決して、直感=悪ではないのです
気を付けなければならないのは、こうした直感による断定をやめることです。私たちは極端に偏った予測を立てやすいことを肝に銘じ、直感的な予測を過信するべきではありません。

言うまでもありませんが、パッと思いつくようなことはシステム1によって生じた直感であるため、重要な決定をするときほど立ち止まって分析するべきです。複雑な問題に直面した時、そして精神的に余裕がない時には無意識的にシステム1を頼ってしまうため、意識的にシステム2を呼び起こさなければなりません。
また、ここまで述べてきたことは、メディアの情報に踊らされてしまう人の原理にも関係しています。偏見を抱くことを防ぐためにはシステム2を働かせ、自分を監視しなければなりません。これは労力のいる作業ですが、高い代償を伴うエラーの防止を考えれば、価値のあるものだといえるでしょう。

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