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花と風葬

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花と風葬 10

第六部 百合II

 私は、産まれてくる理由も意味もない人間だ。私の父親にあたる人は、何においても、あまり話したくなさそうだった。話してくれなかった。露骨に不機嫌そうな顔をした。ひどいときには、私の顔をぶった。血が出たときもあった。それでも、衣食住は保証してくれたし、私の頭を撫でてくれることもあった。少なくとも私は、愛していた。お父さんと呼んだことは数えるほどしかないけど、お父さんであることには変

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【連載】花と風葬 9

【連載】花と風葬 9

 「お前、歳、いくつだ」
「……わか、らない」
「チッ」
保険証は、母子手帳はないのか。彼女の母親が投げ捨てて行った鞄を漁る。ははぁ、あの野郎、黙って産みやがった。どうするんだ。まぁ、なるようになるだろう。なんかあったらその顔にナイフぶっ刺してやる。
 俺は世間で言う「隠し子」を育てることにした。
 公園に行くときは朝方、なるべく人目のつかないうちに電車に乗って遠くへ。水筒と弁当。るららるらと歌を

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【連載】花と風葬 8

【連載】花と風葬 8

 女が次に俺の家に顔をだしたのはそれから四年後のことだった。彼女の右手には、小さな女児がいた。
「あんたの」
と言って、彼女はぐいっとこちらへそれを押した。
 彼女と再会するのはかなり遠い未来。
 押し付けられた女児。こいつは誰だ。と思ったらこいつ、いきなり頭を下げた。
「どうかここに置いてくださいませんか」
口から紡ぎ出された言葉は見た目に似合っておらず、違和感が充満した。お前は誰だ、と尋ねれば

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【連載】花と風葬 7

【連載】花と風葬 7

 家に帰った俺は玄関のチャイムの音で起きる。とびらを開けた先にいたのはあの郵便屋である。帰れ。お前になんか会いたくない。扉を閉めようとすると、
「ね、お姉ちゃんからの手紙、読んだ?」
と訳のわからぬことを言って寄越した。
「見てない」
「だからさ、見たでしょ?あれ、福井行ったんじゃないの?」
誰だよお姉ちゃんって。
「勘悪いな。あんたの嫁は私のお姉ちゃんなの」
明らかに不機嫌になった彼女を見ながら

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【連載】花と風葬 6

【連載】花と風葬 6

 「…もう一度、福井一家殺人事件に関して取り調べをしていただけませんか。いえ、むしろ俺にさせてください」
少し息を切らしながら俺は受け付けの事務員に言った。
「あの…どちら様でしょうか…」
「当時の担当を呼んでくれ」
「あのぉ…」
相手が言い終わらないうちに俺は口を開いた。名乗る余裕もなかった。早く妻のことを知りたい。あの事件の真相を知りたい。

 「で、あなた、わざわざ東京から仕事すっぽかしてき

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【連載】花と風葬 5

【連載】花と風葬 5

 「…今日午後一時頃、福井……市……三人の…が発見……ました。…が確認され………さん…………二十八歳……さん……。…の第一発見者である………………と述べています…。警察は…とです」
うるさい。黙れ。家のテレビを思いっきり強く叩いてしまったせいで音が悪い。俺は福井県庁にいた。
「それで、あなたは亡くなったお嬢さんの夫なんですよね」
「はい」
そうです。僕の妻はもう何をしても戻りません。いっそ僕も死に

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【連載】花と風葬 4

【連載】花と風葬 4

 夢を見た。一匹の犬がいた。暗闇の中から、出られない犬。どうしようもなくて、ただただ惨めに吠える犬。でも、その声にすら怯えている。自分の落とす影に、吠える声に、暗闇に、全てに怯えていた。
 
 翌朝、あの女が来た。玄関の前に立っていた。一瞬息がひゅっとなって、変な気持ちになった。
「…帰れ」
「いやです」
俺が言い終わらないうちに彼女はそう言い放った。
「お前、俺が怖くないのかよ。今この場で俺が殺

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【連載】花と風葬 3

【連載】花と風葬 3

 またとある朝、郵便受けに郵便を取りに行くと、郵便屋らしい女が立っていた。妙にヘラヘラしていやがる。腹立たしい。
「あの…、すいません。星さんてこちらであってますか…。表札ないもんだからわからなくて…」
「違う」
ぴしゃりと言い捨てて俺は家に戻る…はずだった。
「あの…」
今度はなんだ。
「星さんてどこですか…」
俺が郵便局の偉い奴だったらこいつをまずクビにするだろう。
「ここの斜向かい」
今度こ

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【連載】花と風葬 2

【連載】花と風葬 2

 今日はどうしようか。暖かいベッドの中で目が覚めたまま俺は考えた。得意の包丁でも使って魚のひとつも捌いてみるか。魚を買って、本屋で本を買って、のんびりしよう。俺は起き上がって、部屋の隅にある洗い終わった洗濯物の籠を覗いた。しわくちゃのシャツとスラックスを取り出して、アイロンをかける。これにももう慣れた。妻が亡くなってこれで三年。慣れてしまえば楽なもんだ。テーブルに椅子が二つあることも、ベッドがダブ

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【連載】花と風葬 1

【連載】花と風葬 1

 世の中には悪いことがたくさんある。例えばそれは盗みだったり、あるいは詐欺だったり、窃盗だったり。しかし、それらで得るのは全て「モノ」である。取り返せるものなんて、盗んでも意味がない。だが、殺しはどうだろう。人は、音楽や芸術や文章などに生というものを表す。それぞれの価値観や感情が、そこには含まれる。葬式なら皆が嘆き悲しみ、泣く。生きるということと同時に、死というものは儚く、美しいものだと俺は思う。

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