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【連載】花と風葬 7

 家に帰った俺は玄関のチャイムの音で起きる。とびらを開けた先にいたのはあの郵便屋である。帰れ。お前になんか会いたくない。扉を閉めようとすると、
「ね、お姉ちゃんからの手紙、読んだ?」
と訳のわからぬことを言って寄越した。
「見てない」
「だからさ、見たでしょ?あれ、福井行ったんじゃないの?」
誰だよお姉ちゃんって。
「勘悪いな。あんたの嫁は私のお姉ちゃんなの」
明らかに不機嫌になった彼女を見ながら、俺は目を見張った。いや、もう目が飛び出そうになった。何なら飛び出ていたのが俺を分からなかっただけかもしれない。
「なんで…」

 「お前は俺が殺したはずだ」
そうだ。殺した。俺が初めて殺したやつ。それが、俺の目の前にいる。なんで生きている。
 思い出す。葬式の日、夜中に妻の妹と歩いていた。集まった親戚と共に飲み明かした後だった。彼女が言ったんだ。
「あんたの嫁も馬鹿だね。殺されちゃうなんて」
道端に落ちていたビール瓶で殴った感触。当然だ。お前なんて死んじまえ。その勢いで、一息で。殺したはずだ。

 お前は何なんだ。

 「お姉ちゃん」

 
 「馬鹿だね、ほんと」
彼女は白い布の上で言った。そんな気がした。

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