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ショートストーリー

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2023年3月の記事一覧

知らない女(ショートストーリー)

賃貸マンションに住んでいる。 社宅として会社が契約してくれているので助かっているし、少し古いが駅近などの利便性にも満足している。 休日、出かけて帰宅したが鍵は掛かってなかった。 確かに鍵をかけた。スペアキーは部屋の中に置いてあるはずだし。焦る。 音がしないように、そっとドアを開けた。狭い上り口に揃えられた一足の赤いハイヒール。もちろん私のものでは無い。侵入者がいるのは間違い無い。 物音を聞きつけたのか、女が姿を現した。 「おかえり、待ってたのよ」 「あんた、誰だ!ここ

ゆめ(716文字)

私は、今よりずっと若い。まだ女子大生なのだから当然だ。 大学の校内でトイレを探した。なかなか見つからない。 その辺にいる人に尋ねるが、誰も返事をしてくれず、私が見えないかのように無視をされる。 やっとトイレにたどり着くが、様子がおかしい。 並んだトイレのドアが、すべてゲーム機なのだ。 ドアのデザインではなく、正真正銘のゲーム機。ドアの前に並んでいる先頭の女の子はみんなゲームに夢中だ。 私は近くにいた女の子に、ここはトイレではないのかと尋ねたが、やはり返事はない。 トイレに

ファソラのシドレミ

ファソラのシドレミって知ってる? まだ知らないの? 私とお母さんのナイショのおまじない 悲しい時、怒っている時、寂しい時、痛い時 そんな時、こう言うの ファソラのシドレミ するとね 悲しみも、怒りも、寂しさも、痛いのだって飛んでいく いつだって魔法のことば ファソラのシドレミ 今では私と娘のおまじない お母さんもおばあちゃんに教わった あなたも女の子が生まれたら 教えてあげて魔法のことば ファソラのシドレミ 女の子だけの秘密のことば ファソラのシドレミ 男の子だけの

知らない街(140字小説)

通い慣れた道を歩いていた。立ち止まれば見知らぬ街。最近、時々迷子になる。しばらくすると思い出せたが、ここは全く覚えのない街だ。知らない街に少しずつ夕焼けが広がり始めた。ここはお前の原風景なのだと何かがそっとささやく。 夕焼けの真ん中で、私はこの街から永遠に抜け出せないと思うのだった。 元々私は方向音痴。 それが最近では知ってる通りでも、一瞬迷う事もあります。 先日、隣町の入り組んだ住宅街で散歩中、その界隈から出られなくなりました。 まあ、どなたかに尋ねる事もできるので、問

銀河の片隅で(ショートストーリー)

ただただ、宇宙は広い。こんなお話はいかがでしょうか。 銀河の片隅に青い小さな星がありました。 小さな星はひとりぼっち。 少し離れたところに赤い星があるのですが、赤い星はずっとどこか遠くを見ているままで、一度だって小さな星の方に顔を向けてはくれません。 小さな星の周りに赤い星以外の星は見当たりません。 小さな星は時々歌を歌います。流れ星達が通り過ぎる時、歌を歌いながら落ちていくのです。その歌を小さな星は覚えているのです。 小さな星が歌を歌えば、赤い星が一緒にハミングしてく

可愛い(140字小説)

私は美人でも無いし、可愛げも無い。 鏡を見てはため息。 それなら、見なければいいと思うのだが。 「おじいちゃん、私、可愛い?美人?」 祖父は困り顔で返事をしない。祖父は嘘をつけない人。 その代わり、私の良いところをイッパイ見つけてくれる。そんなおじいちゃんが大好きだし、可愛いと思ってるの。 私の四人の祖父祖母は、明治生まれでした。 遠方に住んでいた事もあり、話をする事はあまりありませんでした。それでも私に会うたびに、何度も何度も可愛いと言ってくれた事は、記憶に残っています。

春の色(140字小説)

ねえ、おばあちゃん。春の色って何色だと思う? 赤紫が透き通りそうなくらい薄い色かな。メグちゃんの春は何色? 私はね、緑色を薄くした色かな。 それもいいね。緑のそよ風が吹いてきそうだよ。春の花もスタンバイしているみたいだね。 春の花の色はどれだけある? 何でも知っている春風に聞いてみようね。 春や春、花咲く春❣️ 春の花で私が一番好きなのは、ネモフィラです。 もう少し先ですかね。青い色が素敵です。 オオイヌノフグリと親戚なのかな? #140字小説 #ショートショート #春の

タオル(ショートストーリー)

私の住んでいるアパートには風呂が無い。 なので、斜向かいにある銭湯を利用している。この辺りの少し古いアパートには風呂が無いところが多い。銭湯でのふれ合いは結構気に入っている。顔馴染みも増えた。 ある日、番台で料金を払った後にタオルを忘れた事に気づいた。 今日の番台には、いつものおばあちゃんでは無く若い女性が座っている。お孫さんだろうか。 「すいません、タオルを忘れたので一枚ください」 「ちょっと待ってくださいね」そう言って彼女は番台の周りを探してくれたがなかなか見つからな

引き出し(140字小説)

古い棚の一番上の引き出しが開かなくなって久しい。歪みによるものだろう。 母は言う、多分大事なものが入っていたと。 私も全く覚えていない。 それが無くても困った事は無いと母は話すが、何か引っかかるようだ。 棚を買い替えた。 古い棚の引き出しが、弾みで開いた。 中にあったのは、私の臍の緒だった。 臍の緒は、母と子の最初の絆。 結婚した時、夫の母に一番最初に頂いた?ものが、夫の臍の緒。これ、どうすれば良いのかしら? 私のものは、すでにありません。 #140字小説 #引き出し

お地蔵さま(ショートストーリー)

あるところに一体のお地蔵さまが立っておられた。人通りもほとんど無い山道 。いや、獣道と言った方が良いようなところを抜けて行き着く場所。そこに広がる何も無い原っぱに、お地蔵さまはなぜおられるのだろう。お参りする者はいるのだろうか。寂しくはないのだろうか。 いますよ、いますよ。ほらご覧なさいな。 動物達がお供えを持って集まって来ましたよ。秋の山の恵みを抱えて来ましたよ。 今日はキツネさんの結婚式。日頃仲良くしているウサギ、リス、クマ、タヌキ、ネズミ、ヤマドリ達はそれぞれに

桜の妖精のノック(140字小説)

あなたは知らないはず。 桜の蕾が開くのは桜の妖精が現れて 小さくノックをするからなのよ。 桜と妖精のセレモニー。 あなたの目には映らない。 あなたの耳には聞こえない。 準備万端整えて蕾達が待っている。 桜の妖精達とノックの音を。 歳を重ねると妖精のノックを楽しめる。 歳を取るのも、そう悪くはないのよ。 さて、桜だよりも聞こえてきました。 あなたの心をノックしているのはどなたでしょうか。なんてねー😄 #140字小説 #ショートショート #桜

ひな祭り(140字小説)

ひな祭りの入り口はこちら 案内板に書いてある 男の僕は関係ない そう思って行きすぎる お暇ならどうですか 優しい声に振り返る 和服姿の女の人が 手招きするよ白い指 笑顔の向こうに何がある フラフラフワフワ 勝手に足が動き出す 僕は行きたいのかな 入り口はすぐそこに 案内板の裏には別の文字 出口の無いひな祭り 🐈‍⬛ ただいま連続投稿挑戦中。 今までの最高記録は4日か5日くらい。 今日で19日だけど、息切れしてます。 このくらいで十分かな。後少し頑張れるかな?