お地蔵さま（ショートストーリー）

あるところに一体のお地蔵さまが立っておられた。人通りもほとんど無い山道 。いや、獣道と言った方が良いようなところを抜けて行き着く場所。そこに広がる何も無い原っぱに、お地蔵さまはなぜおられるのだろう。お参りする者はいるのだろうか。寂しくはないのだろうか。

いますよ、いますよ。ほらご覧なさいな。
動物達がお供えを持って集まって来ましたよ。秋の山の恵みを抱えて来ましたよ。

今日はキツネさんの結婚式。日頃仲良くしているウサギ、リス、クマ、タヌキ、ネズミ、ヤマドリ達はそれぞれに秋のご馳走を集めて来ました。
それは結婚パーティーのためだったのです。

先ずはお地蔵さまにお供えします。みんなの顔はニコニコです。お地蔵さまも笑っておられるようですよ。
お地蔵さまは仏様。人間達だけの仏様では無いのです。その事を動物達は、ちゃんと知っているのです。小さな手を合わます。
さあ、新郎新婦の登場です。みんなは拍手で迎えます。

そんな結婚式を夢見ている、キツネのコンコ。手を合わせて、お地蔵さまにお願いしました。素敵なキツネさんに会えますようにって。

お地蔵さまは何も言われませんが、動物達の願いは全部知っておられます。みんなの幸せも願っておられます。
お地蔵さまは皆んなのお地蔵様。
お地蔵さまは世界で一番幸せな地蔵だと思っておられます。寂しいなんて思った事もありません。

動物達はお地蔵さまにいつも会いに来てくれます。ほら、今度はタヌキのポポン太がやって来ましたよ。
さてさて、ポポン太はどんなお話をしてくれるのでしょうか。

お地蔵さまは今日も静かに立っておられます。皆んなの愛と祈りをしっかり受け止めるためにです。

了

よろしければ、こちらも。一年前に書いたお話です。