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【読書感想文】カズオ・イシグロの「日の名残り」

最近は実用的な本ばかり読んでいましたが、久しぶりに文学作品を読みました。カズオ・イシグロの「日の名残り」です。イシグロはこの本で英語圏最高の文学賞であるブッカー賞を受賞し、2017年にはノーベル文学賞を受賞しています。

どうしてこの本を読もうと思ったのかというと、どこかでアップルのスティーブ・ジョブズがこの本をいつも読んでいたと聞いたからです。それにカズオ・イシグロ氏の本も読んだことがなかったので、読んでみたいと思いました。

古き良き時代のイギリスのお話で、老執事のスティーブンスが昔のことに思いを馳せながら旅をするお話です。ご主人様に忠実で、側から見ていて、こっけいな程真面目なスティーブンス。本気でジョークを言う練習をしたりします。でも本人は至って真面目です。土屋政雄さんの翻訳が素晴らしく、物腰丁寧で、礼儀正しい執事の言い回しに好感が持てました。 

仕事に人生の全てを捧げて、ミス・ケントンとの、もしかしたら一緒になれたかもしれない未来も逃してしまいました。「あの時こうしていれば、違った未来があったかもしれない。」と晩年少し振り返ります。でも、自分の人生を後悔しているわけではなく、きっと本人はそれでも満足のできる人生だったと思っているのでしょう。

ミス・ケントンの気持ちもよくわかりました。好きな男が仕事一本の堅物男。自分が他の男と結婚するかもしれないというのに、その時も仕事優先。それは泣きたくもなるし、他の男と結婚するでしょう。でもそれでも、年月が経ち、結婚した人とも愛が芽生えたというのが救いでした。

久しぶりに文学作品を読みましたが、目の前にイギリスの田園風景が広がりました。登場人物の人生にも入り込め、これぞ文学の醍醐味ですね。

「夕方が一日で一番いい時間なんだ。」と作中人物が言っていて、夕日を愛でます。人生の晩年も悪いものではないと思いました。いつか来し方に微笑んで思いを馳せられるように、今を精一杯生きていきたいと思いました。

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