あの人は5月を花見の季節と言う
あの人は5月を花見の季節と言う。
観光地にもならない故郷の桜が綺麗なことを懐かしそうに話してくれるのが、私はとても嬉しい。
あの人は寝言で私に、ちゃんと布団「着な」と言う。次の日の朝に聞いても覚えていないのだけれど。
あの人はいつも「なしたの」と言う。
私の育った土地の言葉よりも少し優しいその一言に、ついつい甘えて弱音を吐いてしまう。
あの人の言葉の抑揚は少し聞き慣れない。
東京の言葉で話しているようで、抑揚だけ癖の残った話し方をする。私にとってはそれが唯一の存在で、微