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CDはそのまま



最近、1つ前の冬に交際を断ってしまった彼のことを考えることが増えた。



別に、今付き合っている恋人と上手くいっていないわけではないし、冷めているわけでもない。



なんなら先のことも2人で話しているし、いづれはそうなるのだろうと、幸せ色の未来が見えてすらいる。


ただ、あの時違う選択をしていたら、私の隣にいる人は違っていたかもしれない。

そうなってほしいとは全く思っていないが、彼はどうしているだろうと、ただそれだけが妙に気になる。


そもそも「彼」と表現することに違和感を覚えるため、以後「先輩」と呼ぶことにする。


先輩とはインカレの学生ボランティア団体で知り合い、私が大学1年生のときから気にかけてくれていた他大学のひとつ上の先輩で、お兄さんのような存在だった。



基本的にコミュニティは狭く深くが信条の私は、自分で言うのは少し恥ずかしいが、先輩にとてもよく懐いていた。

先輩はそんな私を可愛がってくれていた。



私が家出をした時は長電話で話を聞いてくれて、私が失恋をしたときは深夜の電話に気が済むまで付き合ってくれた。



個人的にご飯に連れて行ってもらったり、会っていない期間も誕生日にはLINEギフトを贈ってくれたりもした。


初めの方こそかっこいいなとは思っていたが、先輩にはいつだって彼女がいたし、次第にそんな感情は薄れて行って、世間一般でよく言ういわゆる "お兄ちゃん的存在" になっていた。


そんな付かず離れずの先輩後輩関係を3年続けた秋の終わり、私の誕生日を祝ってくれるという名目でご飯に誘ってもらった。


一方先輩は彼女と別れる別れないで色々あったらしく、私としてはいつもお世話になっている先輩を励ましてあげようと思っていた。


それでも大層なことは考えつかず、"後輩らしく" ユーモアを込めたお菓子の詰め合わせを持って行くことくらいしかできなかったのだけれど。


それでも先輩は笑って喜んでくれるような人なのもわかっていた。



多少省くが、結局、その日の終電を逃した私は先輩と1度きりの関係を持った。


正直、事故と故意の半々だった。



終電で帰る予定が、電車の遅延で乗れなくなってしまったという、事故。


アルコールが回ってとにかく眠たかったことと、失恋をとにかく忘れたくて(この失恋のことは以前の記事に記してあるので暇な人は探してみてほしい)他の人と寝てみたら何か変わるかもしれないという、故意。


その行為以降、先輩の私への好意が確実なものになったのがわかった。

私はというと、先輩の気持ちはとても嬉しかったが、それに応えられる自信がなくて、曖昧に躱すことしかできなかった。


そこから先輩と何回かデートをした。
行為はしなかった。


隣を歩く先輩から指を絡められれば拒むことはなかったし、正直なところ満更でもなかった。


しかし、人から向けられた好意に同じだけの好意を返すことが苦手な私は、後ろめたさが拭いきれなかった。


後輩としてずっと可愛がって貰っていて、信頼もしている先輩の気持ちに応えたいという感情もあり、好意ではなく、お気に入りのバンドのCDを貸すという動機の不明な行動で応えることが、あの時の精一杯だった。


結論は冒頭1文目に述べたが、結局先輩の気持ちに応えることはできなかった。


そして、最低なことに私は、自分が失恋したあの時すごく好きだった"彼"に告げられた言葉をそのまま先輩に突きつけてしまった。


ずっと恋愛相談に乗ってくれていた先輩なら、もしかしたらそれにすら気づいていたのかもしれない。


大事なことを自分の言葉で伝えられなかった私は、とても卑怯だったと思う。


だけど、適切な言葉がどうしても見つからなかった。先輩を傷つけたくなかった。


皮肉にも "彼" が私に突きつけた言葉が、この場面において最も適切なものであったことに気がついてしまった。


私は大切にしたかった人を自ら手放してしまった。


恋愛関係にはならなくても、今までのような関係が続いていくのではないかと心のどこかで思っていた自分が浅はかだった。


あれから先輩とは連絡をとっていない。


先輩の誕生日にせめてメッセージでも送ろうかと悩んだが、辞めた。


お気に入りのバンドのCDも、多分一生返ってくることはない。


実際、本体のことならどうでもいい。曲ならパソコンにもスマホにも取り込んである。


ただ、それがもしかしたら先輩ともう一度会える一縷の可能性になると思っていたが、半年以上経った今、もうその望みも薄そうだ。


先輩に会ったところで、とくに話したいことがあるわけではないが、ただただ気がかりなのだ。


新しい彼女はできたのか、今何をしているのか、先輩の記憶の中に私は残っているのか。



SNSを滅多に更新しない先輩だから、なおさら気になってしまった。


恋愛感情を1度挟んでしまうと、今までの関係性なんかお構い無しに消えてなくなってしまうことを、初めて理解した。



映画や小説ではよくあることだし、知識としてはわかっていた。


でもやっぱり寂しいんですね。



誰かに話しを聞いて欲しいと思った時、先輩なら受け止めてくれると思ったことがあります。


自分勝手ですね、こんなことを言うのは。


もう一生会うことはないのかな。


自分で手離した。
でもそれ以外の方法がわからなかった。


綺麗に整頓された先輩の部屋の片隅に、あのバンドのCDと一緒に、私の存在もどうかそっとしまっておいてください。


いつかそれを手に取ったときに、少しだけ私のことも思い出してくださいね。


図々しいのは百も承知で、先輩の幸せを祈っています。どうかお元気で。


また、いつかどこかで。


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