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読書日記122 【オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ】

 森達也さんのコラムというか、ノンフィクションというか、「オカルト」と呼ばれるもの(超能力・UFO・霊)などを真剣に受け入れて、そして書いてある作品で、読んでいてちょっとびっくりした。第三者的というか、信じるものと信じないものの争いに注目するは多いけど、そうでなくて「どうして見えるのか?」を本当に考えてみることに注目することが書かれているというのが意外に少ないこともあって、新たな発見だなと思った。

 東京の上野の居酒屋で待ち合わせをしているのは、清田益章という子供の時からエスパーと呼ばれた男性だった。3人の編集者と著者がいる前で清田はスプーンを曲げるという。そこで、著者がであった超能力者の話が書かれていく。最初にみた有名な「ユリ・ゲラー」の日本来日。そこから、日本でも曲げられる人が増えていく。その中でトリックというか「仕掛け」があったとされた人が沢山いた。その中に著者の知るインチキをしたと週刊誌で暴露された関口淳(せきぐちじゅん)という超能力少年がいた。

 「ヤラセ認めてくれていた」と関口は著者に話す。「毎日、何回も何時間もスプーン曲げをさせる。疲れてできない時もある。時間が押して「もういいよ。君が本物だと知ってるから」とヤラセですましてしまうことが多々あった」と。

 テレビで持ち上げるだけ持ち上げ(大人がね)そして、インチキを大人が見つけ世間を焚きつけて、少年の関口を追い込んでいく。今でいう炎上というものをテレビや雑誌がつくっていた時代というのがあった。そういう結果に「信じられないもの」とうことで片付けてしまう「世間」に問いかける。

 「千里眼」として明治43年に実験がされた。被験者は御船千鶴子という女性だった。その時に実験の不備があるのだけど、同時の新聞各紙は千鶴子の透視能力に否定的な論調をする。その結果、千鶴子は自殺をする。そこで常に優位に立つのは「メディア」ということになる。「メディア」が「超能力」を作り、そして壊す。この現象こそが「オカルト」なのかも?と思えてくる。そういう別の意味での「オカルト」を著者の論理的で博学な文章を読み進めていく。

 居酒屋で清田がスプーンを曲げる。トリックには見えない現実。曲がったスプーンが3本、著者の前に置かれる。「この現象はなんだ?」肌の実感として感じる。超能力少年だった清田がもう40も半ばの年になっている。その思考が著者のぐるぐるとまわっている。

 青森にいる「イタコ」がいる恐山にあるお寺は曹洞宗となる。仏教という大元は霊の存在をいうはない筈で「六道輪廻」する。つまり生まれ変わるか浄土にいく。あらゆるものが「変化」するのに、魂だけ不変なはずがないという哲学に近い宗教でもある。何年も霊と交信ができる「イタコ」との関係性に著者は着眼する。そうきたかと読んでいて感心する。

 仏教は伝播する間に世俗化して、富と権力を生み出すものとなっていく。その中で「死後の世界」を担保しなくてはいけなくなってくる。鎌倉仏教をいう日本独自の仏教が生まれてからは「寺院」というお布施(お金)を目的とした今でいう法人が増えていく。戦国時代という武将が闊歩する時代が拍車をかける。そして「死後の世界」はうやむやになっていく。

 ただ、僧侶は「イタコ」の存在をあまりよく思わない。「イタコ」自身もお寺の軒先を借りているので、お寺の顔色を伺っているように著者には見える。そういうシュールさを書かれるとまるでドキュメンタリーを観ているような感覚になる。

  UFOというのはありえないという科学者の意見のはすごくよくわかるんだけど、これだけ空を飛ぶ飛行機が増えると「未確認飛行物体」というものを「観た」という人は、パイロットの中で増えていくらしい。今は映像に残るために隠すこともできなくなって、認めた事例もでてくる。それをどう理解すればいいのか?その言葉としてオカルトハンターの佐藤健寿さんの記事を載せている。

  例えば人にいきなりこんなことを聞かれるからだ。「宇宙人で本当にいるんですか?」「UFOって本当にあるんですか?」「雪男っているんですか?」「ヒトラーって生きているんですか?」。

 その道のプロフェッショナルなら、信じる方、信じない方として意見を持ち、しっかりと意見をいうと書いてある。確かに「いる」「いない」の論争は僕らはたくさん耳にする。ただ、記事は続いている。

 OK,それが確かにその道のプロフェッショナルというものだ。それが世間に期待される専門家の役回りというものだ。だけど私は、そんなとき、いつも答えをはぐらかしてきた。なぜなら、私もいまださっぱり分からないからだ。
 分からないから、探しているのである。

 答えがでないことはたくさんある。偏って考えれば違う「何か」呑まれてしまう。そういう「何か」というか人の心理こそ、本当の「オカルト」ではないのか?とゾクっとなる。著者は映像ディレクターでもあるらしいので、ネットフリックスとかでそういう視点のものを観てみたいなとも思う。ただ、ただ、深く考えさせられた。

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