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ガチで孤独のグルメ

 私が勤めている会社の昼休みは、正午になった途端、フロアの約半数の明かりが落とされて(節電のため?)、少々薄暗くなったところからスタートする。

 お昼時のフロアには、少ない時で5人ほど、多い時は10人ほどの人がいる。が、お昼休みにフロア内で会話が交わされることはまずない。みな自分の席で黙々とご飯を食べる。よくドラマなんかで、オフィスビル内のフードコートのような場所でOLたちが井戸端会議をしながら、眼鏡ケースくらいの大きさしかないお弁当や、豪快にスタバを貪り食うシーンがよくあるが、そんなものはない。まぁ私は自社以外のお昼休みの様子など知る由もないので、これが普通なのか異常なのかわからない。ともかく私はこの昼休みに訪れる静かなひとときに慣れてしまった。むしろ心地いい。

 誤解されるとアレなので弁明するが、けっして人間関係がギスギスしているとか、怒号が飛び通うような職場ということではない。業務時間中はみな助け合って仕事をしているし、業務が暇なときは冗談交じりの会話がなされる。別にいたって普通の職場だと思う。

 私の会社の昼休みは皆、思い思いに過ごしている。携帯端末でアニメやドラマを見ていたり、デスクに突っ伏していたり、忽然と姿を消す人もいれば、せわしなく仕事に追われている人もたまにいる。あくまで"休み時間(プライベート)"なので、今は何をしようと自由だ。オンオフのメリハリをつけてお互いの距離を適正に保つことは大事だ。

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 そんな私の最近の昼休みのマイブームは、ドラマ「孤独のグルメ」を見ることである。お昼をオフィス内で過ごす日は、お弁当を食べながら1話ずつ見ていくと決めている。お昼休みが始まったと同時に再生開始、お弁当をレンジで温めて、本編が始まる頃には着席して私も松重豊も準備完了。私が慎ましくお弁当を食べているその向こう側で、松重豊もまたひとりでぶつくさ言いながらご飯を食べている。似たもの同士だ、私もお昼休みになるとnoteを開いて、ひとりでぶつくさと文章を綴っている。お互いに、ひとりで。

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 私の職種はいわゆる”外回り”というやつで、オフィス内にいない日もよくある。昼休みをとる場所は、ときにコンビニの駐車場で、ときに高速道路のサービスエリアで、ときに喫茶店で。割かし融通の効くご身分なので、食べたいものを食べようと思えば食べることが出来るし、場所も問わない。
 外出時も基本的にはひとりである。外にいるからといって誰かとワイワイご飯を食べることはない。そういう意味では社内にいても社外でも同じということになる。つまり私もまた、孤独のグルメの主人公なのである。
 孤独のグルメの主人公「井之頭五郎」は、飲食店に入る前から脳内で独り言のマシンガントークを掃射しており、入店後も食事中もずっとそれは続く。実際問題、ひとりで飯を食うだけのことなのにここまで脳内で思索を巡らせる人はあまりいないだろう。普通の人間は、食いたいもんを黙って食うだけである。


 自分で作ってきたこの質素なお弁当に何を思うことがあるというのか。サービスエリアに停めた車の中で、お昼の毒にも薬にもならないラジオを聴き流しながらお弁当をたべる。

 ちょっとご飯が硬かったかもしれない、水が少なかったか。長ネギが少し苦い、火の通りが甘かった。明日はうまくやろう…

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 私は「孤独」という言葉をマイナスな言葉だと思ったことがない。孤独、という状態は、誰しもが自分自身の内面と向き合うことができる時間である。他人との繋がりを過剰に求める現代人にとっては、物理的な「孤独」は、休息の意味も込めてむしろ必要なものだと思う。
 
 
 私の昼休みは、心地いい孤独に浸ることのできる、貴重な時間。

 嗚呼、外回り万歳。今日も飯が美味い。


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