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サマタイムゴン

 夏が終わってしまったことをこんなに寂しく感じるなんてな。ベランダに吹く風は、そっと次の季節の到来を告げている。風こそ見えねども、秋は来にけり。

 仕事はいつも通りだ、友人関係もいざこざはない。家族仲も良好だ。嫌んなるくらい健康体だし、飯だって毎日作ってしっかり食べてる。ちゃんと美味しい、味覚もイカれちゃいない。夏バテなんて言葉とは無縁の食欲に自分でも驚く。
 
 そういえば今年の夏は海にもプールにも行かなかったな。打ち上げ花火は下からも横からも見ていないし、朝早くにラジオ体操もしていない。あれだけ五月蠅かったセミの声はいつからかイヤホンに負けるようになった。必死に自転車を漕いで超えたあの坂はいつしかアクセルを軽く踏むだけで攻略できるようになった。

 あの頃より知識も増えて、財力も増して、友人関係も広くなって。何も困っていない、何も問題はない。
 いや、違う。むしろ知識が増えて、財力が増して、友人関係が広くなったからこそ、どうしても満たされない何かができてしまったのだろう。

 恥ずかしくなって、いつからか冷めた目で見てたものは、多分捨てちゃダメなものだったのかもな。

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