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ワクワクしていた裏メニュー。

 私が小学生の頃一時期母が勤めに出ていたことがある。

 仕事で帰宅が遅くなって晩御飯の時間が遅くなることもよくあった。

 何事にも一生懸命な人だったので家事の手を抜くことはなかった。

 父は家の事にはノータッチだったのでその頃の母の苦労がしのばれる。

 慌ただしく帰宅した母がスーツ姿のまま台所に立っていたのをよく覚えている。

 それでも平日は少し時間が遅くなるくらいですんだが問題は土曜日のお昼ご飯だった。

 私が子どもの頃は土曜日の学校は半日授業だった。

 お昼に校庭に全校生徒が集められて校長先生の話を聞いてそれから集団下校をしていた。
 
 給食が無いので帰り道はすっかり腹ペコである。

 家帰ってもご飯が用意されていないのでいつも近所の友達のお母さんがやっていたうどん屋さんに行っていた。

 母同士が非常に仲が良かったので私がご飯を食べに行くととても歓迎された。

 暖簾をくぐるとおばちゃんが、あらいらっしゃいと言って席に案内してくれる。

 お店はそんなに大きくなくてカウンター四席、テーブル三席のみでこじんまりとしていたがお昼時はとても忙しそうだった。

 お店の一番人気はうどん定食で、肉うどんとかやくご飯、小鉢にフルーツというセットで確か四百円だったと記憶している。

 私もこのセットをよく食べたが毎週だと少し飽きてくる。

 そんな時におばちゃんは今日は唐揚げを揚げちゃろうと言って厨房にこもってチャッチャッと拵えてくれた。

 アツアツのカリカリの唐揚げはジューシーでさすがにプロの味で母のものよりもずっと美味しかった。

 食べ終えてお金を払おうとすると耳元で今日はサービスじゃけぇお金は良いよと言われたものである。

 その日をきっかけにうどん以外のメニューを色々出してくれるようになった。

 カレーだったり、ハンバーグだったり、ステーキが出てきたこともある。

 そんなメニューにないご馳走を食べてその家の友達と一緒にテレビゲームに興じるのは最高に楽しい時間だった。

 母もこのうどん屋さんがあったから安心して働けたのだろうと思う。

 そんな感じで小学生の頃は足しげく通っていた。

 おばちゃんの人柄もあってそのお店は繁盛していたが私が中学生の時に区画整理の対象になって残念ながら閉店してしまった。

 それでも親同士のお付き合いは続いておりおばちゃんは母の親友である。

 今でもほぼ毎日会ってお喋りをするのが母の活力源である。

 私もたまに出会うがいつも元気なおばちゃんに会うと子どもの頃に戻った気がする。

 土曜日の駆け込み寺としてお世話になったおばちゃんのうどん屋さん。

 あのアツアツの唐揚げをもう一度味わってみたいものである。

 腹ペコ坊主を可愛がってくれたおばちゃんに心から感謝。

 メニューにない愛情料理の数々、これが私の元気ご飯!

 

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