見出し画像

『BUTTER』感想

フェミニズムの本ばかりを読んでいると現実がつらくなってフラストレーションがたまり、メンタルがしんどくなってしまうので、ときどき気分転換に小説も読んでいる。
これはいつか読みたいな~~と思っていたのが運よくkindle unlimited対象(※2022年8月の限定で現在は対象外。ちなみにお盆休みや正月休みなどの長期休暇の時は出版社が大盤振る舞いで人気の本をunlimited対象にすることがあるので要チェックだ←早口)になっていたので借りた。
ありがとうございます。
ちなみにこの小説は「木嶋佳苗をモチーフにした小説らしい」という前情報で興味を持った。先が読めない展開だったので続きが気になってどんどん読み進めてしまった。
あんまり熱心に感想を書くとネタバレになって楽しめなくなってしまうのでさらっと書く。ちなみに登場する犬は無事です(いぬ情報)

男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ――。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳にあることを命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。

出版社HPより

感想(ネタバレなし)

この小説はグルメ小説でもあり女同士の友情小説でもあり心理サスペンス小説でもあったように思う。
特に前半、梶井真奈子(カジマナ)への取材のため面会にきた女性記者(町田里佳)への指令が

  • バターご飯を食べなさい(エシレの有塩バターを指定)

  • WESTのバタークリームケーキを食べなさい

  • 恵比寿のロブションに行きなさい

  • ×××した後に新宿の靖国通りにある○○(店の名前)で深夜に塩バターラーメンを食べなさい

  • カトルカール(お菓子)を手作りしなさい

など、バターを使ったものばかりでvery veryカロリー過多なのである。
カジマナは「バターの伝道師」なのだろうか?
わたしはもう動物性油脂を受け付けない体質になってしまい、生クリームをふんだんに使ったケーキやサシのたっぷり入ったすき焼きなどを食べるとお腹を壊してしまうので、むしろこんなに脂っこい食事を食べ続けることができる(=胃腸が丈夫である)のも、もはやひとつの才能のように思える。

そしてカジマナの指令通りにバターをふんだんに使った料理を食べた際の描写が素晴らしく、読むだけでお腹が空いてくるほどだ。例を挙げる。

里佳の喉の奥から不思議な風が漏れた。冷たいバターがまず口の天井にひやりとぶつかったのだ。炊きたてのご飯とのコントラストは質感、温度ともにくっきりとしていた。冷たいバターが歯に触れる。柔らかく、歯の付け根にまでしんとしみいるようなそんな噛み心地である。やがて、彼女の言った通り、溶けたバターが飯粒の間からあふれ出した。それは黄金色としか表現しようのない味わいだった。黄金色に輝く、信じられないほどコクのある、かすかに香ばしい豊かな波がご飯に絡みつき、里佳の身体を彼方へと押し流していく。

37ページ 里佳がエシレバターご飯を食べている場面

「海の宝石箱や~」どころではない。
自分は料理をこれだけ真剣に味わっているだろうか……?
ただ漫然と「食事」という名のを栄養補給をしているのだけなのではないだろうか……?

そして中盤、カジマナの実家がある新潟を訪れる際はカジマナの同級生男性が経営する酪農で乳絞り体験をして、搾りたての牛乳でホットミルクも作ってもらう。めちゃくちゃおいしそう。
これは食レポグルメ小説なのか……???と思っていたら、後半からカジマナとの心理戦というかスリリングな展開になったところが予想外だった。

『BUTTER』に登場した、作ってみたい料理

この小説は美味しそうな料理がたくさん出てきたので自分でも作りたくなった。自分の欲望に忠実に、自分の食べたい料理を食べたいときに調理して味わうのは、自分をいたわる大事なセルフケアでもあると思う。

たらこパスタ 難易度★
茹でたパスタにバターとたらこと刻んだ紫蘇をふんわりたっぷりのせて(カジマナ流)頂きたい。材料もすぐ手に入るし挑戦しやすい。
小説の本文と同じように、できればカルピスバターを用いたい。

魚卵とバターはとっても相性がいいんですよ。プチプチとした、まるでミクロサイズの卵黄の結晶体のようなたらことバターが合わさると、生臭さが消え、えもいわれぬまろやかな味わいのソースになり、炭水化物にからみつき、そのふくよかさや食べ応えをいっそう引き立てます。(中略)パスタの一本一本にバターとたらこのピンク色がしっとりと絡み、セモリナ粉の香りを最大限に引き立て、胸の奥から優しさがこみ上げてくるような美味しさ。刻んだ紫蘇をふんわりたっぷり載せるのが私流。ピンクとみずみずしい緑がまるで四月の野原のよう。

42ページ カジマナのブログ(魚拓)より

カトルカール 難易度★★★
分量もわかりやすいし、材料を混ぜるのが大変そうなものの七面鳥ほど手間がかからないので作りやすそう。シフォンケーキは作ったことあるしたぶんイケると思う。寒い時期にぜひ出来立てを食べてみたくなった。
参照)カトルカールのレシピ


七面鳥のロースト
 難易度★★★★★
作中では5キロの冷凍ターキーを用いて冷蔵庫で3日もかけて解凍していたのだが、そもそも冷蔵庫に丸ごと入れるのも大変だし、オーブンで何度もバターを刷毛でこまめに塗るという手間暇かけて焼き上げる余裕がない。七面鳥5キロで10人前らしいのでホームパーティをするような人にはいいかもしれない。なんとなくコストコには調理済みのターキーがありそうな予感がする。調理する場面がとても真に迫っていたので作者は実際に作ってみたのかな?と想像した。
ちなみに感謝祭の時期のアメリカでは、冷凍ターキーを解凍する手間を惜しんで凍ったまま揚げようとして爆発する事故が何度も起こっているので、啓発動画が作られている。

合わせて読みたい

『わたしの体に呪いをかけるな』
リンディ・ウェスト(著/文), 金井真弓(翻訳)

笑うな。哀れむな。値踏みをするな。わたしの体はわたしのものだ。体形への偏見やスティグマ、インターネットトロールの誹謗中傷、ジョークの皮をかぶった性暴力……。女性(わたし)たちから人生を奪うこの社会のシステムを、全部蹴っ飛ばせ。気鋭の批評家が自らの体験をもとに綴った、不屈のユーモアと怒りのフェミニズム戦記。

出版社HPより

未読レコメンドである。
主人公の里佳がカジマナのカロリー過多な指令により体型がふくよかになっていくにつれて周りの反応が変わっていき、本人もそれに動揺したり戸惑う描写があったため、この本を読みたくなった。
個人的にも自分の体型が変わっていったときに周囲から色々言われてうんざりしたことがあるので里佳の状況にとても共感した。

『姫君』山田詠美

この短編集は紙で持っていて既読である。
『姫君』に収録されている『フィエスタ』という短編が、女主人の「欲望」視点で片思いの状況が語られ、他の「執着」「理性」「プライド」などの感情が擬人化されている。
「欲望」が解放されたカタルシス。おすすめ。カジマナもこんな「欲望」の発散のさせかたをしてみれば良かったのにと思いつつ。
紙版が絶版(!)らしいがkindle版が出ている。

以上です。面白かった本の感想書くの楽しいな~

この記事が参加している募集

読書感想文

いただいたサポートはアウトプットという形で還元できるよう活かしたいと思います💪🏻