大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control do…

大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control doctor (ICD)、感染制御認定臨床微生物検査技師、第1種滅菌技師、認定抗酸菌エキスパート、抗菌薬臨床試験認定者、文部科学省認定統計士、フィットテストインストラクター。

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記事一覧

医療従事者における手指衛生の有効性比較 最新のシステマティックレビュー

はじめに 世界保健機関(WHO)は、手洗いならびに手指消毒の方法として、6ステップ法を提唱しています(図の2-7)。この6ステップ法による手指衛生は手指表面の微生物低減にど…

大石貴幸
1日前
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手指衛生遵守率:事実か、虚構か?

はじめに オーストラリアでは国の施策として、公立病院に対して直接観察法による手指衛生の遵守率を公表することを求めています。直接観察法はホーソン効果の影響があると…

大石貴幸
8日前
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手術用手洗いシンクの汚染とスタッフへの細菌伝播

はじめに 病院に設置された手洗い用のシンクを原因としたアウトブレイクや院内感染事例が多数報告されています。しかし、手術前の手洗いのために使用されるシンクの細菌汚…

大石貴幸
2週間前
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移動型空気清浄機による室内エアロゾル伝播の抑制効果: 前臨床観察試験

はじめに 新型コロナウイルスの感染経路に関して、WHOとCDCは感染者由来のエアロゾルによって感染が広がるとしています(注: 2024年にWHOはエアロゾルという単語ではなく、感…

大石貴幸
3週間前
1

完全個室病院への新規移転前後における医療関連感染比較

はじめに 医療関連感染症は、時として多剤耐性菌が原因となり、入院費用の増加や医原性の損害を引き起こします。施設ガイドライン協会(病院、クリニック、介護施設の計画、…

大石貴幸
4週間前

清掃業務がClostridium difficile感染症の減少に与える影響

はじめに Clostridium difficile感染症(CDI)は、一部の抗菌薬の長期使用が原因となって発生します。Clostridium difficileは有芽胞菌であるため、アルコールが無効で、不適…

大石貴幸
1か月前

熱傷・形成病棟における病院カーテンの汚染率:縦断研究

はじめに 患者のプライバシー保護のため、多くの病院にはベッド毎にカーテン(プライバシーカーテン)が設置されています。このプライバシーカーテンは、患者や医療従事者に…

大石貴幸
1か月前
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消化器内視鏡検査に使用された軟性内視鏡の再処理後の微生物サーベイランス:全イタリア調査

はじめに 十二指腸内視鏡に関連したアウトブレイクが世界的に報告されています。内視鏡の再処理の不備によって発生する医療関連感染は、内視鏡の微生物サーベイランスによっ…

大石貴幸
1か月前
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内視鏡的逆行性胆道膵管造影に使用した十二指腸内視鏡の細菌汚染の代替指標としてのアデノシン三リン酸測定法に関するシステマテ…

はじめに 米国では、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)に使用する十二指腸内視鏡(十二指腸鏡)の洗浄・消毒不足による多剤耐性グラム陰性桿菌のアウトブレイクが問題とな…

大石貴幸
1か月前
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低環境負荷な床洗浄剤としての電解次亜塩素酸水溶液

はじめに 近年、環境をターゲットとした清拭/消毒(以下、消毒)が一般化しつつあり、新型コロナウイルスのパンデミック初期には無差別に環境を消毒した国もありました。環境消…

大石貴幸
2か月前
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医療施設のための医療機器の除染と再生処理

はじめに 世界保健機関(WHO)は2016年に「Decontamination and reprocessing of medical devices for health-care facilities」と題して、医療機器の再処理となる洗浄・消毒・滅…

大石貴幸
2か月前
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パルスキセノン紫外線による環境消毒が手術部位感染に及ぼす影響

はじめに 手術部位感染(SSI)は、主に患者や術者が保菌する細菌によっておこります。また、手術室内の環境には様々な細菌が常在しており、環境からの感染もありうるとの意見…

大石貴幸
2か月前

中心静脈ライン関連血流感染予防のための消毒バリアキャップ: システマティックレビューとメタアナリシス

はじめに 血流に侵入した細菌が心臓弁や椎体に付着すると重篤な感染症に進展する可能性があり、血流感染予防は重要です。特にカテーテルからの細菌の侵入は、効果的に予防でき…

大石貴幸
2か月前

漂白消毒剤ワイプへの着色剤添加による医療センターでの清拭・消毒効果向上

はじめに 入院患者からクロストリジウム・ディフィシル(CD)やノロウイルスが検出あるいはアウトブレイクした際には、次亜塩素酸ナトリウムによる患者周辺環境の清拭・消毒…

大石貴幸
3か月前
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β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の予防における接触予防策の有用性を否定するエビデンスの増加

はじめに Extended-spectrum β-lactamases-producing Enterobacteriaceae(ESBL-E)は、抗菌薬耐性菌として最も注意を払う必要がある重要な病原体です。本研究は、ESBL-Eが…

大石貴幸
3か月前

院内発生BSIとCLABSIとの比較評価

はじめに 中心ライン関連血流感染(CLABSI)は医療関連感染サーベイランスで使用され、医療施設における感染対策のベンチマークとしても活用されています。CLABSIは効果的な介…

大石貴幸
3か月前

医療従事者における手指衛生の有効性比較 最新のシステマティックレビュー

はじめに
世界保健機関(WHO)は、手洗いならびに手指消毒の方法として、6ステップ法を提唱しています(図の2-7)。この6ステップ法による手指衛生は手指表面の微生物低減にどの程度有効か明確ではありませんでした。
今回ご紹介する論文は、WHOが英国の研究センターに委託し、6ステップ法の有効性を他の手指衛生方法と比較・検証したレビューです。


方法
Medline、CINAHL、ProQuest、

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手指衛生遵守率:事実か、虚構か?

はじめに
オーストラリアでは国の施策として、公立病院に対して直接観察法による手指衛生の遵守率を公表することを求めています。直接観察法はホーソン効果の影響があるといわれていますが、その度合いはこれまで明確になっていません。今回ご紹介する論文は、直接観察法による手指衛生のホーソン効果の度合いを明らかにすることと、直接観察法による手指衛生遵守率と、同時に実施した自動観察法による遵守率を比較し、その効果的

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手術用手洗いシンクの汚染とスタッフへの細菌伝播

はじめに
病院に設置された手洗い用のシンクを原因としたアウトブレイクや院内感染事例が多数報告されています。しかし、手術前の手洗いのために使用されるシンクの細菌汚染と、それが原因となり医療従事者へ伝播することについて検証した報告は少数にとどまっています。
今回ご紹介する論文は、手術室における手洗いシンクを原因とした細菌伝播について検証した貴重な報告です。

方法
この研究では、手術前の手洗い後にシ

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移動型空気清浄機による室内エアロゾル伝播の抑制効果: 前臨床観察試験

はじめに
新型コロナウイルスの感染経路に関して、WHOとCDCは感染者由来のエアロゾルによって感染が広がるとしています(注: 2024年にWHOはエアロゾルという単語ではなく、感染性呼吸器粒子; IRPという概念を使い始めています)。特に換気が不十分な状況や狭域な空間での感染が多いと報告されています。そのような環境でのエアロゾル感染を軽減するには、換気が重要となります。適切な換気は機械を使った工学

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完全個室病院への新規移転前後における医療関連感染比較

はじめに
医療関連感染症は、時として多剤耐性菌が原因となり、入院費用の増加や医原性の損害を引き起こします。施設ガイドライン協会(病院、クリニック、介護施設の計画、設計、建設に関するガイドラインを発行する米国の非営利組織)の新医療施設設計のためのガイドラインは、2016年から、新施設はすべて個室化することを推奨しています。しかし、完全個室施設はコストが高く、完全個室化により医療関連感染症が減らせるか

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清掃業務がClostridium difficile感染症の減少に与える影響

はじめに
Clostridium difficile感染症(CDI)は、一部の抗菌薬の長期使用が原因となって発生します。Clostridium difficileは有芽胞菌であるため、アルコールが無効で、不適切な感染対策によって、しばしば医療関連感染を引き起こします。特に、CDI患者から環境に芽胞が曝露され、清掃を適切に実施しないと、交差感染が起こることが報告されています。
今回ご紹介する論文は、

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熱傷・形成病棟における病院カーテンの汚染率:縦断研究

はじめに
患者のプライバシー保護のため、多くの病院にはベッド毎にカーテン(プライバシーカーテン)が設置されています。このプライバシーカーテンは、患者や医療従事者による手などの接触により、細菌に汚染されてしまい、感染源となる可能性が指摘されています。また、プライバシーカーテンは、高頻度に触れられるにもかかわらず、こまめに洗濯されていないことも、病原体の伝達に関与する一因と推察されています。
今回ご紹

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消化器内視鏡検査に使用された軟性内視鏡の再処理後の微生物サーベイランス:全イタリア調査

はじめに
十二指腸内視鏡に関連したアウトブレイクが世界的に報告されています。内視鏡の再処理の不備によって発生する医療関連感染は、内視鏡の微生物サーベイランスによって抑制可能と報告されています。
今回ご紹介する論文は、十二指腸内視鏡の再処理手順の有効性を評価することを目的とした全イタリア的な横断研究です。

方法
2019年12月から2020年4月にかけて、イタリアの15の内視鏡センターにおける再

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内視鏡的逆行性胆道膵管造影に使用した十二指腸内視鏡の細菌汚染の代替指標としてのアデノシン三リン酸測定法に関するシステマティックレビュー

はじめに
米国では、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)に使用する十二指腸内視鏡(十二指腸鏡)の洗浄・消毒不足による多剤耐性グラム陰性桿菌のアウトブレイクが問題となっています。私(大石)は2017年に、米国の軟性内視鏡に関する洗浄・消毒のオピニオン・リーダーの方々とディスカッションする機会がありました。話題の中心は十二指腸鏡で、日本ではなぜ十二指腸鏡を介してのアウトブレイクがないのか?などという

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低環境負荷な床洗浄剤としての電解次亜塩素酸水溶液

はじめに
近年、環境をターゲットとした清拭/消毒(以下、消毒)が一般化しつつあり、新型コロナウイルスのパンデミック初期には無差別に環境を消毒した国もありました。環境消毒に使われる薬剤は次亜塩素酸ナトリウムや第4級アンモニウム塩に集中しています。しかし、これらの薬剤を長期間使用すると、人や環境に悪影響を及ぼす可能性があります。よって、人体や環境に優しく、安全で取り扱いや保管が容易な、低負荷で効果的な

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医療施設のための医療機器の除染と再生処理

はじめに
世界保健機関(WHO)は2016年に「Decontamination and reprocessing of medical devices for health-care facilities」と題して、医療機器の再処理となる洗浄・消毒・滅菌対するガイドラインを発表しています。このガイドラインは英文のため日本医療機器学会が翻訳したものをWHOのサイトからダウンロードが可能です。日本医療

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パルスキセノン紫外線による環境消毒が手術部位感染に及ぼす影響

はじめに
手術部位感染(SSI)は、主に患者や術者が保菌する細菌によっておこります。また、手術室内の環境には様々な細菌が常在しており、環境からの感染もありうるとの意見があります。現に、整形外科手術前に手術室内を紫外線(UV)照射した場合では、SSIの発生率が低下したとの報告がありました。今回紹介する論文は、診療科別ではなく、手術創のクラス別で手術室内の事前UV照射がSSIを減らすかを検討したもので

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中心静脈ライン関連血流感染予防のための消毒バリアキャップ: システマティックレビューとメタアナリシス

はじめに
血流に侵入した細菌が心臓弁や椎体に付着すると重篤な感染症に進展する可能性があり、血流感染予防は重要です。特にカテーテルからの細菌の侵入は、効果的に予防できる様々な方法があるため、医療現場で活用されています。
今回ご紹介する論文は、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)の予防を目的とした消毒バリアキャップ(参照: https://multimedia.3m.com/mws/media/

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漂白消毒剤ワイプへの着色剤添加による医療センターでの清拭・消毒効果向上

はじめに
入院患者からクロストリジウム・ディフィシル(CD)やノロウイルスが検出あるいはアウトブレイクした際には、次亜塩素酸ナトリウムによる患者周辺環境の清拭・消毒が推奨されています。環境の清拭・消毒は実施者による均一性・確実性が問題になることがあり、清拭・消毒の効果が担保されにくい課題があります。
今回ご紹介する論文は、次亜塩素酸ナトリウム製剤(原文では漂白消毒剤と記載)に青色を着色することによ

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β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の予防における接触予防策の有用性を否定するエビデンスの増加

はじめに
Extended-spectrum β-lactamases-producing Enterobacteriaceae(ESBL-E)は、抗菌薬耐性菌として最も注意を払う必要がある重要な病原体です。本研究は、ESBL-Eが汚染した環境や感染した患者に対する接触予防策の予防効果に関する現在のエビデンスを明らかにすることを目的としました。

方法
2010年初頭から2022年10月18日ま

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院内発生BSIとCLABSIとの比較評価

はじめに
中心ライン関連血流感染(CLABSI)は医療関連感染サーベイランスで使用され、医療施設における感染対策のベンチマークとしても活用されています。CLABSIは効果的な介入により、近年その発生率は大幅な減少傾向を示しています。しかし、血流感染(BSI)は依然として病院における感染や死亡の主要な原因となっています。中心ライン(CVカテーテルや血液透析カテーテルなど)と末梢静脈ライン(輸液や血管

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