パルスキセノン紫外線による環境消毒が手術部位感染に及ぼす影響

はじめに
手術部位感染(SSI)は、主に患者や術者が保菌する細菌によっておこります。また、手術室内の環境には様々な細菌が常在しており、環境からの感染もありうるとの意見があります。現に、整形外科手術前に手術室内を紫外線(UV)照射した場合では、SSIの発生率が低下したとの報告がありました。今回紹介する論文は、診療科別ではなく、手術創のクラス別で手術室内の事前UV照射がSSIを減らすかを検討したものです。手術創はクラスIが清潔創(整形や心臓血管手術など)、クラスIIは準清潔創(消化器手術など)、クラスIIIが汚染創(腸穿孔手術など)、クラスVIが化膿創(化膿性虫垂炎手術など)ですが、今回の論文ではクラスIとIIを対象にしています。
 
方法
本研究は、米国北東部にある200床以上の病床と13の手術室を有する非営利の地域病院で実施されました(単施設による研究)。1日の手術が終わった後、手術室の通常清掃と消毒を実施したベースライン期間と、通常清掃と消毒後にUV照射をした介入期間とを比較しています。ベースライン期間は2012年1月-2013年3月、介入期間は2013年4月-2014年12月に実施されました。2台のUV照射装置を、手術台、麻酔器、投薬カート、電気メス制御装置などの接触頻度の高い表面に近接して配置しました。通常の照射時間は5分ですが、本研究では10分間の照射としました。介入期間中は他のSSI対策を実施していません。
 
結果
ベースライン期間中にクラスI 、IIの手術は各々6,439件、4,811件が実施され、感染率は0.48%、0.27%でした。介入期間のクラスI 、IIの手術は各々10,883件、7,825件行われ、感染率は0.26%、0.33%でした。SSIはクラスIで介入後に44.6%減少(P=0.0496)、クラスIIでは22.9%増加しましたが、統計的に有意ではありませんでした(P=0.6973)

図 2012年1月から2014年12月までの四半期(Q)別のクラスI手術部位感染率

考察
手術室のUV照射はクラスI手術のSSIの減少させることが示唆されました。1件当たりSSIにかかる費用が平均20,785ドルとすると、今回の介入によって478,055ドルの費用が抑制されたことになります。クラスII手術では、手術室のUV照射の効果がありませんでした。クラスIよりも患者の常在菌が多く曝露するクラスIIでは、環境消毒の効果は低いと推測されます。

感想
この研究だけで、1日の手術後のUV照射がクラスI手術には効果的とは言い切れません。単一施設での介入であり、SSIの原因菌と環境にいる細菌との関連性も評価していないので、あくまでも効果がありそう、という程度の論文だと思われます。
しかし、UV照射によってSSIが減少するのであれば、積極的にUVなどの環境消毒を実践すべきであり、今後の詳細な検証、あるいは大規模な研究が望まれます。

Influence of pulsed-xenon ultraviolet light-based environmental disinfection on surgical site infections
(Am J Infect Control. 2016 Jun 1;44(6):e99-e101. doi: 10.1016/j.ajic.2015.12.018.)

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