院内発生BSIとCLABSIとの比較評価

はじめに
中心ライン関連血流感染(CLABSI)は医療関連感染サーベイランスで使用され、医療施設における感染対策のベンチマークとしても活用されています。CLABSIは効果的な介入により、近年その発生率は大幅な減少傾向を示しています。しかし、血流感染(BSI)は依然として病院における感染や死亡の主要な原因となっています。中心ライン(CVカテーテルや血液透析カテーテルなど)と末梢静脈ライン(輸液や血管内への薬剤投与のための注入ルート)サーベイランスを含む院内発生(HO)BSIは、予防可能なBSIのより感度の高い指標となる可能性があります。
今回ご紹介する論文は、BSIの発生率をCLABSIと比較することにより、HOBSIサーベイランスへの変更が及ぼす影響を評価している米国からの報告です。
 
方法
電子カルテを活用し、HOBSI-1(静脈ラインで2日を超えて患者の血液培養が陽性: ライン由来のBSIである可能性が高い基準)の基準と、HOBSI-2(静脈ラインで3日を超えて患者の血液培養が陽性: ライン由来のBSIではなく他の要因でのBSIの可能性がある基準)の基準に従って、HOBSIかどうかを判断しました。両方の定義について10,000患者日あたりの発生率を計算し、同じ期間の10,000患者日あたりのCLABSI発生率と比較しました。
 
結果
各血液培養基準と症状基準のHOBSIの発生率(IR)は各々10.25、3.77でした。同時期のCLABSIのIRは1.84であった。

図 HOBSI-1およびHOBSI-2の発生率(IR)とCLABSIの発生率の差(IRD)

考察
ライン由来でない可能性のあるBSIを除外しても、HOBSI率はCLABSI率の2倍でした。HOBSIサーベイランスはCLABSIよりも感度の高いBSIの指標であり、介入の有効性をモニタリングするためのより良いターゲットである可能性があります。

感想
中心静脈カテーテルは急性期病院では頻繁に使用されるものの、急性期の症状が落ち着けば末梢静脈カテーテルに移行します。つまり、急性期病院といえども末梢静脈カテーテル挿入患者数は結構な数になります。ましてや慢性期病院では末梢静脈カテーテルの挿入は日常的で、多くの患者がBSIのリスクにさらされています。
私が勤務する病院ではCALBSI対策を強く講じており、その発生率は減少傾向にありますが、HOBSIは対象となっていないため、一定の割合で発生し、減少には至っていません。このような減少は日本の多くの病院でも共通していると推察されます。今回ご紹介した論文のようにCLABSIに代わってHOBSIが医療関連感染サーベイランスのベンチマークとなる可能性があります。

Evaluation of Hospital-onset Bloodstream Infections Compared to Central Line-associated Bloodstream Infections at an Acute, Tertiary Care Hospital
(Am J Infect Control. 2023 Apr 11;S0196-6553(23)00160-8. doi: 10.1016/j.ajic.2023.04.001)

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