中心静脈ライン関連血流感染予防のための消毒バリアキャップ: システマティックレビューとメタアナリシス

はじめに
血流に侵入した細菌が心臓弁や椎体に付着すると重篤な感染症に進展する可能性があり、血流感染予防は重要です。特にカテーテルからの細菌の侵入は、効果的に予防できる様々な方法があるため、医療現場で活用されています。
今回ご紹介する論文は、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)の予防を目的とした消毒バリアキャップ(参照: https://multimedia.3m.com/mws/media/1386094O/curos-disinfecting-port-protectors-family-brochure-teal.pdf)の有効性をシステマティックレビューとメタアナリシスで評価しているスペインからの報告です。
 
方法
PubMed、Cochrane Library、Web of Scienceのデータベースを2011年から2021年まで検索し、年齢を問わず入院患者を対象とした無作為化対照試験(RCT)および観察研究を対象としました。
 
結果
検索結果から14件の研究が適合しました。手動消毒と比較して、消毒バリアキャップは1,000ライン日あたりのCLABSI率(標準化平均差[SMD] : -0.02、95%CI:-0.03~-0.01)および患者あたりのCLABSI数(RR: 0.60、95%CI:0.41~0.89)を著しく減少させました。サブグループ解析の結果では、ICU患者(SMD: -0.02; 95%CI: -0.03 to -0.01)、非ICU患者(SMD: -0.03; 95%CI: -0.05 to -0.01)、成人(SMD: -0.02; 95%CI: -0.04 to -0.01)における1,000ライン日あたりのCLABSI率低減において、消毒バリアキャップがより有効でした(SMD: -0.02; 95%CI: -0.02〜-0.01)。消毒バリアキャップの使用によって、ICU患者(RR: 0.65, 95%CI: 0.42-1.00)、成人(RR: 0.50, 95%CI: 0.29-0.86 )、観察研究(RR: 0.54, 95%CI: 0.32-0.91)でCLABSIリスクは大幅に減少しました。しかし、小児やRCTのみを考慮した場合には、手動消毒との差は見られませんでした。消毒バリアキャップ導入によるコスト削減効果の中央値は、CLABSIあたり21,890ドル[IQR 16,350-45,000](約300万円)でした。


図1  1,000ライン日あたりのCLABSI率のフォレスト プロット
A) ICUと非ICU患者、B) 大人と子供、C) RCTと観察研究。平均はCLABSI率の平均を、合計はライン日数を示す。


図2 1,000ライン日あたりのCLABSI率のフォレスト プロット
A) ICUと非ICU患者、B) 大人と子供、C) RCTと観察研究。平均はCLABSIの発生数を、合計は患者数を示す。

考察
消毒バリアキャップの使用は、効果的でコスト削減につながるようです。成人およびICU患者はより大きな利益を得ることができる集団であることが示唆されました。消毒バリアキャップの有効性を確認するための確固たるデータが必要であり、CLABSI予防ガイドラインに含めることを検討するために早急に対応する必要があります。今回の結果から、消毒バリアキャップの潜在的有用性を確実に確認するために、様々な患者環境でのRCTが早急に必要であることが示唆されました。

感想
消毒バリアキャップは日本ではあまり一般的ではありません。3M社が米国製品を輸入販売していますが、高コストからか導入している施設は少ないようです。本文でも言及されているように、血流感染予防のガイドラインに掲載されていないことも、普及が進まない一因と考えられます。
しかし、本論文のメタアナリシスで、消毒バリアキャップの使用がCLABSI発生率を大幅に低下させる効果があることが強く示されました。特に、ICUや成人患者においてその予防効果が顕著であったことは注目に値します。CLABSIは重篤な合併症の引き金となる危険な感染症です。予防が何より重要視されるなか、本研究結果は消毒バリアキャップの有用性を裏付けるものと言えるでしょう。
加えて、CLABSIの発生は高額な医療費が必要なため、その予防はコスト面でも大きなメリットがあります。本論文では、消毒バリアキャップの導入により1件のCLABSIあたり約21,890ドル(約300万円)のコスト削減効果があると試算されています。導入コストに見合うだけの経済的ベネフィットが期待できることから、費用対効果の面でも魅力的なツールであると考えられます。
現在、日本の医療施設で消毒バリアキャップが活用されているケースは限られていますが、今回の研究でその予防効果と経済的メリットが明確になったことを受け、今後は需要が高まる可能性があります。血流感染予防ガイドラインへの掲載も期待されるところです。ただし、様々な患者環境下での無作為化比較試験データが乏しいことから、さらなるエビデンス構築が求められそうです。

Antiseptic barrier caps to prevent central line-associated bloodstream infections:A systematic review and meta-analysis
(Am J Infect Control. 2022 Sep 15;S0196-6553(22)00672-1. doi: 10.1016/j.ajic.2022.09.005.)


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