熱傷・形成病棟における病院カーテンの汚染率:縦断研究

はじめに
患者のプライバシー保護のため、多くの病院にはベッド毎にカーテン(プライバシーカーテン)が設置されています。このプライバシーカーテンは、患者や医療従事者による手などの接触により、細菌に汚染されてしまい、感染源となる可能性が指摘されています。また、プライバシーカーテンは、高頻度に触れられるにもかかわらず、こまめに洗濯されていないことも、病原体の伝達に関与する一因と推察されています。
今回ご紹介する文献は、カナダの熱傷・形成病棟でクリーニングされた10枚のプライバシーカーテン(生地は綿・ポリエステル混紡)を追跡し、細菌汚染率を調べたもので、プライバシーカーテンの利用による病原体伝播を啓発しています。
 
方法
対象となったプライバシーカーテンのうち、8枚は試験群として、ベッドの周囲をプライバシーカーテンで仕切る部屋に配置され、ベッドから約30cmの間隔をあけてつり下げました。また、2枚は対照群として、患者などが直接触れられない場所につり下げました。細菌検査は各カーテンの2カ所に検査キットを30秒間押し付けて細菌を検出する方法で、初日、3日目、7日目、10日目、14日目、17日目、21日目に実施しました。
 
結果
初日に細菌が検出されたカーテンの平均菌数は、試験群が0.20 CFU/cm2、対照群が0.10 CFU/cm2と、いずれも調査期間中最小でしたが、21日目には試験群が約26倍、対照群が3倍に増加しました。さらに調査を開始したときは検出されなかったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が、試験群で10日目に1件検出され、14日目には5件(62.5%)に増加、21日目には7件(85%)に増えました。一方、対照群ではMRSAは検出されませんでした。


考察
病室のプライバシーカーテンがつり下げてから10-14日の間にMRSAが検出されました。この結果から、プライバシーカーテンを清掃、または新しいものと交換するには、つり下げてから10-14日の間が適切と考えられます。
 
感想
入院患者のベッドを囲むプライバシーカーテンは、次のような理由から汚染のリスクが高いとされています。
①     高頻度に触れられる
②     クリーニングまたは交換の頻度が低い
③     プライバシーカーテンに触れる前後の手指衛生頻度が低い
プライバシーを守ることも大切ですが、カーテンが感染源となって院内感染を引き起こすのは、患者予後や医療資源の浪費、経費上昇につながるため、対策を講じる必要があります。一番の解決方法はプライバシーカーテン接触前後の手指衛生の遵守となりますが、ご存知のように医療従事者の手指衛生の遵守率は30%前後が関の山です。
そうであるなら、医療従事者や患者の手指衛生に期待するよりも、MRSAなどが付着しても繁殖しない抗菌カーテンの取り付けや、スイッチひとつで開閉ができるカーテンの設置が解決策となる可能性があります。後者は潤沢な予算がある病院ならすぐに実現できそうですが、実際にMRSAのアウトブレイクが問題とならない限りは、設置は難しいでしょう。
病院向け抗菌カーテンは、一般社団法人繊維評価技術協議会が認定した「制菌カーテン」がすでに市販されていますが、まだまだ認知度が低い状況です。感染対策の学会などでその効果を喧伝する必要があるかもしれません。

Rate of contamination of hospital privacy curtains in a burns/plastic ward: A longitudinal study.
Am J Infect Control. 2018 Sep;46(9):1019-1021.doi: 10.1016/j.ajic.2018.03.004.


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