宮仲太/『Knight Brothers』

Twitterにて連載中の絵×小説のコラボ作品『Knight Brothers』のまと…

宮仲太/『Knight Brothers』

Twitterにて連載中の絵×小説のコラボ作品『Knight Brothers』のまとめです。ナンバリングのあるものが本編。 Art : たくみ/ Novel : 宮 仲太

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Knight Brothers まとめ

ご挨拶代わりに、記事の一覧を作りました。 記事が増えたら、リンクを増やしていきます。 Knight Brothers本編 001_誓い 002_女王の容 003_紳士の矜持 004_暗雲 005_追跡 …

番外編:サミュエルの誕生日

 麗らかな春の陽光は、日増しに眩さを増していた。太陽の熱に浮かされた草花の香りが、風に乗って窓から優しい香りを運んでくる。  サミュエルは、午後の鍛錬を終えると…

026_疑惑

 鴉の鳴き声は、茜空の彼方に虚しく響いている。  重たい沈黙に、肺腑が灼けつくようだ。ハロルドの口から、何が語られるのだろうか。  サミュエルは、ごくりと生唾を…

025_混迷

 晴れやかな青空は、歓楽から、悲鳴へと塗り替えられた。和やかな空気は一転し、競技場は、不穏なざわめきに包まれている。 「サミュエル、血が、血が……!」  衆目は…

024_追走

 エドワードは、人混みをかき分けて、強かに地面を蹴り続けていた。  眩いばかりの陽光が、煌びやかな帝都を照らし出している。道行く人達は、何事かとざわめきながら、…

023_長々し夜

 夜の闇を払うように、シャンデリアが煌めいている。華やかな室内楽に合わせ、眩い明かりの下、仮面を付けた人々が、くるくると輪を描く。異性の手を取る者もいれば、同性…

022_寸毫

 秋の蒼穹は、どこまでも高く、抜けるように澄み渡っている。吹き渡る風は、会場の熱気を乗せて、賑わいに花々の香りを添えていた。  皇帝の宮殿から程近いエヴォルツィ…

番外編:ルシアの誕生日

 日が落ちて、夏の熱気は、幾分か和らいでいた。仄かな熱を残した月のない夜は、雲ひとつなく澄み渡っている。  ランプの明かりで煌々と照らされた部屋の中は、オレンジ…

021_旅程

 滔々と流れていく雲間を縫って、飛行船は、一路、南へと舵を切る。隣国ポラーリアからブリッツベルグへ向かう空の旅は、列車よりも早く過ぎていく。  雲が糸のようにた…

020_貴方の為のセレナーデ

 澄み渡る蒼穹が、眩い夏の日を彩っていた、湧きあがる入道雲の向こう側で、晩夏の陽光は、地面に影を落としている。  夏の盛りを過ぎた王宮の裏庭には、心地よい風が吹…

番外編:満月の夜に

 それは、華やかな、四月の夜だった。豪奢なシャンデリアは、広々としたボールルームを、真昼のように眩く照らしている。集った男女は、この日のために、めいめい艶やかに…

019_慰め

 群青の空に、入道雲が柔らかさを添えている。夏の日差しは、すこしずつ穏やかになって来ていた。  ヴェラでの二週間の休暇は、ルシアにとって、胸の奥に深い爪痕を残し…

018_激情

 瀑布のような轟音を響かせながら、雨の雫が、夜を蹴りつける。  それに反するように、サミュエルの心は、燃え盛る業火に焼かれたようだった。  咳上げる怒りだけだ、…

017_驟雨

 鈍色の薄雲に、彼誰時の茜が滲む。夕焼けを吸い込んだ雲は、空にグラデーションを描いている。  あの日から、ルシアとサミュエルは、どこかぎくしゃくとしていた。  …

016_蜘蛛の糸

 欠け始めた深更の月明りは、青い影を、石畳に投げかけている。  昼間の熱気を残したヴェラの街は、故郷よりも緑の薫りが濃い。王家や諸侯がこぞってこの地に別荘を構え…

015_陰影

 燦々と注ぐ眩い夏の陽光が、生い茂る芝生の薫りを、深く立ち上らせている。  先程までローンテニスに興じていたルシアとサウザンクロス侯バーナードは、庭園に設えられ…

Knight Brothers まとめ

Knight Brothers まとめ

ご挨拶代わりに、記事の一覧を作りました。
記事が増えたら、リンクを増やしていきます。

Knight Brothers本編
001_誓い
002_女王の容
003_紳士の矜持
004_暗雲
005_追跡
006_夜半
007_奔れ
008_白面
009_王者の威風
010_代償
011_蜜月
012_女王の休日
013_夏の日の記憶
014_邂逅
015_陰影
016_蜘蛛の糸
017_驟雨
01

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番外編:サミュエルの誕生日

番外編:サミュエルの誕生日

 麗らかな春の陽光は、日増しに眩さを増していた。太陽の熱に浮かされた草花の香りが、風に乗って窓から優しい香りを運んでくる。
 サミュエルは、午後の鍛錬を終えると、一人自室に戻っていた。非番とはいえ、鍛錬を欠かしては、ルシアの近衛としてお話にならない。いつ何時、彼女の身に何が起こるかわからないのだ。
 サミュエルは、窓辺の鉢植えに水をやろうとして、ふと、机に置かれた見知らぬ封筒の存在に気がついた。

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026_疑惑

026_疑惑

 鴉の鳴き声は、茜空の彼方に虚しく響いている。

 重たい沈黙に、肺腑が灼けつくようだ。ハロルドの口から、何が語られるのだろうか。

 サミュエルは、ごくりと生唾を飲んだ。

 ザカライアは、叔父に懐いていたから、臣下には語らなかった何かがあるのかも知れない。

 ハロルドは、深い溜息を零すと、静かにカップを置いた。

「この話は、まだ誰にも、聞かせたことはないんじゃがの。」

 ハロルド、そう前

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025_混迷

025_混迷

 晴れやかな青空は、歓楽から、悲鳴へと塗り替えられた。和やかな空気は一転し、競技場は、不穏なざわめきに包まれている。

「サミュエル、血が、血が……!」

 衆目は、今やこちらに向けられていた。

 数多の視線など、気にしている余裕はない。

 ルシアは、零れ落ちる血を止めようと、懸命にサミュエルの傷口を押さえていた。

 白いポケットチーフにはあっという間に朱の色が滲み、青い士官服の袖は、どす黒

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024_追走

024_追走

 エドワードは、人混みをかき分けて、強かに地面を蹴り続けていた。
 眩いばかりの陽光が、煌びやかな帝都を照らし出している。道行く人達は、何事かとざわめきながら、こちらに視線を向けていた。
 フードを被った人物は、そんなことはお構いなしに、器用に人波に乗って、狭い路地裏に身を投げる。
 エドワードは、喰らいつくように、その背中を追いかけた。
 大分距離は縮まったが、捕捉するには至らない。
 随分と、

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023_長々し夜

023_長々し夜

 夜の闇を払うように、シャンデリアが煌めいている。華やかな室内楽に合わせ、眩い明かりの下、仮面を付けた人々が、くるくると輪を描く。異性の手を取る者もいれば、同性の手を取る者もいる。自由な空気が、大広間を覆い尽くしていた。

 目眩く夜は、まだプレリュードに過ぎない。

 その喧騒から離れた部屋の隅で、アンブローズは、ビロード張りの椅子に腰掛けて、ブランデーのグラスを傾けていた。

「アンブローズ様

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022_寸毫

022_寸毫

 秋の蒼穹は、どこまでも高く、抜けるように澄み渡っている。吹き渡る風は、会場の熱気を乗せて、賑わいに花々の香りを添えていた。

 皇帝の宮殿から程近いエヴォルツィオーンプラッツには、ブリッツベルグ有数の名工の設計によるパビリオンが、競うように並んでいる。

 中央に聳える豪奢な時計塔は、この帝国博覧会の目玉だ。文字盤には三百枚以上の色ガラスがステンドグラスのように嵌め込まれ、日の光を浴びて、宝石の

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番外編:ルシアの誕生日

番外編:ルシアの誕生日

 日が落ちて、夏の熱気は、幾分か和らいでいた。仄かな熱を残した月のない夜は、雲ひとつなく澄み渡っている。

 ランプの明かりで煌々と照らされた部屋の中は、オレンジ色の光で溢れていた。慌ただしさから離れて、辺りは、水を打ったように静まり返っている。

 ルシアは、煌びやかなドレスを脱いで、白いナイトドレスに着替えると、窓辺に設えられたソファーに、ゆったりと身体を預けた。

 心地良さを通り越した疲労

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021_旅程

021_旅程

 滔々と流れていく雲間を縫って、飛行船は、一路、南へと舵を切る。隣国ポラーリアからブリッツベルグへ向かう空の旅は、列車よりも早く過ぎていく。

 雲が糸のようにたなびくさまを、ルシアは、飽きもせずに眺めていた。

 きっと、手の届きそうな青空が、物珍しいのだろう。

 エドワードは、それを微笑ましく見守りながら、次の外遊先の日程を確認していた。

「久し振りのポラーリアは、楽しかったわ。伯父様達も

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020_貴方の為のセレナーデ

020_貴方の為のセレナーデ

 澄み渡る蒼穹が、眩い夏の日を彩っていた、湧きあがる入道雲の向こう側で、晩夏の陽光は、地面に影を落としている。

 夏の盛りを過ぎた王宮の裏庭には、心地よい風が吹いていた。

 草花の薫香は、夏の熱気で、ふわりと立ち上っている。

 木陰に設えられたティーテーブルに着いたルシアは、緑の香りを深く吸い込んだ。

 まだ、彼女は、これから起こることを知らない。

 ルシアに気取られないように、サミュエ

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番外編:満月の夜に

番外編:満月の夜に

 それは、華やかな、四月の夜だった。豪奢なシャンデリアは、広々としたボールルームを、真昼のように眩く照らしている。集った男女は、この日のために、めいめい艶やかに着飾っていた。

 ジュピテール伯爵家のタウンハウスは、和やかな喧騒に包まれている。

 ウォルターは、賑やかさに身を委ねながら、幼馴染の姿を探していた。せっかく招待してくれたのだから、始まる前に、懐かしい友の顔を拝んでおきたい。

「ウォ

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019_慰め

019_慰め

 群青の空に、入道雲が柔らかさを添えている。夏の日差しは、すこしずつ穏やかになって来ていた。

 ヴェラでの二週間の休暇は、ルシアにとって、胸の奥に深い爪痕を残したことだろう。

 それでも、時間というものは、無常にも、あっけなく過ぎていく。秋の気配は、もう、すぐそこまで近づいて来ている。

 エドワードが、騎士団長の執務室の扉を開くと、ウォルターが、いつものように細葉巻をふかしながら、迎えてくれ

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018_激情

018_激情

 瀑布のような轟音を響かせながら、雨の雫が、夜を蹴りつける。

 それに反するように、サミュエルの心は、燃え盛る業火に焼かれたようだった。

 咳上げる怒りだけだ、この足を動かしている。

 今頃、ルシアは、この雨のように、咽び泣いているだろう。純粋な彼女を傷つけた者を、野放しになど出来るものか。

 ぬかるみに足を取られ、雨に視覚を奪われても尚、サミュエルは、厩舎に向けてひた走った。

 この程

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017_驟雨

017_驟雨

 鈍色の薄雲に、彼誰時の茜が滲む。夕焼けを吸い込んだ雲は、空にグラデーションを描いている。

 あの日から、ルシアとサミュエルは、どこかぎくしゃくとしていた。

 もう、一週間ほどになるだろうか。いつも軽口を叩き合っている二人にしては、珍しく長い期間だ。

 出来ることなら何とかしたいところだが、思いのほか、問題の根は深そうである。

 二人の間で器用に立ち回ることなど、自分が最も不得手とするとこ

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016_蜘蛛の糸

016_蜘蛛の糸

 欠け始めた深更の月明りは、青い影を、石畳に投げかけている。

 昼間の熱気を残したヴェラの街は、故郷よりも緑の薫りが濃い。王家や諸侯がこぞってこの地に別荘を構える気持ちも、訪れてみればよく分かる。

 アンブローズは、音を立てぬように、郊外にある瀟洒な邸宅の門をくぐった。

「待っていたよ、アンブローズ。」

 玄関先に佇んでいた別荘の若き主人は、こちらを見て、嬉しそうに相好を崩した。

 金糸

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015_陰影

015_陰影

 燦々と注ぐ眩い夏の陽光が、生い茂る芝生の薫りを、深く立ち上らせている。

 先程までローンテニスに興じていたルシアとサウザンクロス侯バーナードは、庭園に設えられた東屋で、ゆったりとした時を過ごしていた。

 晩餐会から数日、侯爵は、毎日足しげくルシアの元に通ってきている。

 境遇の似たもの同士で、話が合うのだろう。ルシアも、彼の訪問を、心待ちにしている。

 それが、喜ばしい変化であるのかは、

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