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映画「ドラえもん」を語り倒す 第2回:のび太の小宇宙戦争(リトル・スター・ウォーズ)

ということで映画「ドラえもん」を語り倒す 第2回目です。前回「鉄人兵団」か「海底鬼岩城」あたりを書こうといっておきながら全然関係ない作品ですいません。今回は、シリーズでも屈指の策略家の敵を相手にドラえもんパーティーが史上最大の危機に瀕したともいえ、シリーズでも屈指の名曲が作品を彩り、さらに藤子・F・不二雄が自身の好みをこれでもかとぶっこみまくり、一部に熱狂的なファンがたくさん存在するタイトルもそのまま『小宇宙戦争(リトル・スター・ウォーズ)(1985年公開)』。ではいきましょう。

魅力その①:少年期


自分の人生の一曲です。自分の披露宴で従姉に無理を言ってバイオリンで演奏してもらったくらい好きです。「ドラえもんの映画の最大の名曲」といったらこれを上げる人がおそらく最も多いのではないでしょうか。基地での唐突な演奏シーンには笑いますが、見直してみると随所随所でこの曲が流れています。特に宇宙に戦車で進撃するところで流れる「少年期」はエモいですね。

この映画のリメイクのうわさが何度か流れていますが、最も考えなければいけないのはこの曲の扱いでしょう。とにかくこの作品と楽曲の結びつきが強すぎて、ほかの曲を充てようものなら炎上、下手にカバーでもしようもんなら大炎上…と中中に扱いが難しいと思います。武田鉄矢自身でリマスター…はさすがにないでしょうね。

魅力その②:シリーズ最強の策士・ドラコルル

大長編のヴィランの強さに単体でのランキングを付けるとするなら、

総合:ギガゾンビ (ドラえもんがタイマンで敗北、オリジナルの方だとタイムパトロールが実質処理しており、パーティーは負けたまま)

強さ:オドローム大帝(のび太、しずかを実質1度殺害)、大魔王デマオン(弱点なかったら倒す術がない)

知略:ドラコルル

と考えています。このドラコルル、単体の武力でいったらそもそも大きさが豆粒なこともありシリーズ最弱ですが、知略だけでパーティーを追い詰め、ドラえもん・のび太・ジャイアンは処刑寸前まで、スネ夫・しずかは溺死寸前まで、追い詰めています。随所に張り巡らせた発信機の情報を的確に処理し反乱軍を一網打尽、上司の判断ミスにより敗北した反乱軍の基地付近での戦闘をも、上司のミスのせいにするどころか即座に相手(=スネ夫の宇宙戦車)の弱点を解析・反撃。脳筋が多いドラ映画のヴィランの中で、こっちの打つ手打つ手をすべてカウンターで返してくる、えげつない怖さ・強さです。こいつが鉄人兵団や悪魔軍を率いたらたぶん誰も勝てないでしょう。

パピ曰く、「一度も約束を守ったことがない」卑劣漢らしいですが、先の上司のミスの切り替え含め、いかようにでも交渉できそうだったしずちゃんとパピの人質交換でもちゃんとしずちゃんを返したりするあたり、なんか意外と性格がさっぱりしているところもある気がするんですよね。ということでかなり好きなヴィランです。

魅力その③:SF好きに「刺さりまくる」数々のシークエンス

いうまでもなく、ドラえもんは海外クラッシックSF作品へのフィーチャーが多い作品です。※「鉄人兵団」の冒頭はもろ「遊星からの物体X」、等。

そんな中でもこの「小宇宙戦争(リトル・スターウォーズ)」は特に藤子・F・不二雄のSFマニアっぷりが爆発し、しかしそれをうまい感じに子供向けの「ドラえもん」に落とし込んでいるといえます。まずはタイトルからしてわかる通り「スター・ウォーズ」の影響はそれはもうすごいのですが(反乱軍の衣装、パイロットスーツ及び宇宙での戦闘、銃撃戦の音に至るまで)、元ネタは有名なスウィフトによる『ガリバー旅行記』に登場する架空の王国、リリパット王国です。※エンディングでガリバーよろしく縛られるのび太が出てくる。

あとは小さくなったパーティーがドールハウスで生活する様は「縮みゆく男」の影響がありますね。

ちなみにリチャード・マシスンといえば「地球最後の男」ですが、藤子・F・不二雄の短編集「流血鬼」は完全にこれの藤子・F・不二雄ver. です。こっちはドラえもんと違って容赦のない怖さでお勧め。

そして本作品が異色といわれる理由が、ピリカ星の徹底したギルモアの独裁政権っぷりの描写の生々しさなのですが、町中に張り巡らされたギルモアの監視看板は、ジョージ・オーウェルによるディストピア小説『1984年』の「ビッグ・ブラザーはあなたを見ている(Big Brother is watching you)」でしょう。

まあこの「ビッグ・ブラザー」自体が全体主義国家におけるスターリンをもとにしているので、それが元ネタとも言えますが。(藤子・F・不二雄のヴィラン、敵組織は実際の歴史の登場人物をアイコン化しているものが多い。)

というところからか、ギリギリのところで子供向けに踏みとどまってはいますが(そもそも戦車とかが否応なしにワクワクするし)かなり大人向け、それもSF好き大人向けの作品だったといえます。要は自分の大好物です。

魅力その④:天才の所業といえる伏線の回収劇

ドラえもんの映画は子供時代に気づかなかった、序盤の伏線を終盤で回収する / 伏線とまでいかなくとも序盤からの流れで終盤を演じる、ということがとにかく多いんです。だからこそ大人になっても楽しい。この作品はそういう点でも珠玉なんですよね。

・序盤ドラコルルの戦艦に敗北を喫したジャイアンが同じシチュエーションで勝利する(大きさの対比も同じ)

・「効き目の時間制限のない道具なんかあるか!」とドラえもんが叫びそれのせいでパーティーは絶体絶命のピンチに陥るが、「時間制限」のおかげで終盤で大逆転する

特に2個目は熱い。ドラコルルが強すぎてこうでもしないと逆転する方法が思いつかなかったとか言ってはいけない。余談ですが、ドラえもんは長編なこともあってひみつ道具の設定はもうしっちゃかめっちゃかに変わります。あたたかーい目で見守るようにしましょう。

魅力その⑤:スネ夫のアイデンティティを確立した一作

映画になるとのび太以上に弱虫なところが目立つスネ夫でしたが、今作はスネ夫にとっての転換点となります。そのアイデンティティとは「天才メカニック」。原作でもラジコンの自慢をよくしているだけあってこの設定には納得感があったし、この昇華の仕方が本当うまいんですよね。

みんなが寝静まる中「戦車の整備をしておかなくちゃ」という、自身の戦車が役立っている自己肯定感からの →自分にしかできないという責任感を発揮する、につなげるのもうまいし(偶然の産物でこの時ドラコルルの盗聴器を見つけて破壊するというファインプレーも成し遂げている)、弱虫ゆえ敵の進撃に対して最初は隠れていたがしずちゃんを守るために出撃→しずちゃんの命を守るために身を挺して敵の攻撃から守る、のシーンも格好いい。その直前に「あなたの戦車を信じなさい」というしずちゃんとのやり取りがあってこそであり、そもそもこのペアが他映画では見られないペアなこともあり斬新で興奮します。

新ドラえもんになってから、何の作品とはいわないのですがスネ夫がむやみやたらに勇気をふりかざし感動を誘うシーンがあるんですが、違うんですよね。こういう、個々のアイデンティティを生かしつつ見せ場を作ってほしいわけですよ。ということでそういう点でもおすすめです。


ということで「小宇宙戦争(リトル・スター・ウォーズ)」を語り倒しました。ヴィランが派手な怪物というわけでもなく、冒険ものというよりは独裁に対する戦争もの、ということもあり大人向け/異色作と称される本作ですが、個人的には非常におすすめでお気に入り作品の一つですね。ラストなんかそりゃもうゴジラでありキングコングであり、爽快感すごいし。果たしてリメイクはされるのでしょうか?字数があれなので割愛しましたが、しゃべりすぎる犬、ロコロコの可愛さもまた一つの魅力。

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