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『朗読者』を読んだよ

どうも、草村です

今回は大学のドイツ文学の講義で紹介された、シュリンクの『朗読者』を読んだ。
この話は、前半と後半で話が随分と変わる。前半では15歳の少年、ミヒャエルが黄疸という病気に罹り、道端で吐いてしまったところを通りかかった30代の女性、ハンナが介抱してくれる。そして、なんとそれがきっかけで二人は恋に落ちる。親子ほど年の離れた二人が関係を持つというのは随分とセンセーショナルな感じがするものだが、主人公ミヒャエルが一人称視点で語るハンナとの思い出は繊細で美しく、不思議と読んでいて気持ちが良かった。
しかし、前半の最後で、ハンナは突然街から居なくなってしまう。そして時は流れ、ミヒャエルは法学部の大学生になる。彼はアウシュビッツの問題を取り扱うゼミに入り、ユダヤ人収容所の看守をしていた者達を裁く裁判を傍聴しに行き、そこで被告人席に座るハンナを見つける。
そこからは裁判の様子、そしてミヒャエルの苦悩が描かれる。
前半は古典文学などでありそうな、若者の青春的内容だったのが、ここで突然一変し、「自分の愛した人が戦犯だったらどうするか」というこの本の真のテーマが現れてくるのだ。
著者シュリンクはミヒャエルと同じ、戦争を経験した世代の次に生まれた世代であり、戦争については間接的な知識しかないため、戦争を経験した世代について理解するのは難しい。ハンナは確かに戦犯であるが、時代に翻弄されていたということが裁判の様子からは分かる。だから安易に戦犯だと指を刺すことはできない。裁判で追い込まれたハンナは思わず裁判長に問う。「あなただったらどうしましたか?」と。これは、読者である私達全員への問いでもある。そして、この作品でその答えははっきりと示されない。答えは読者一人一人に委ねられている。

ところで、この『朗読者』という題名はこの物語全体に大きく関わる伏線になっている。ハンナはいつもミヒャエルに物語の朗読をねだり、二人は逢瀬の中で朗読をする時間を設けるのが習慣になっていた。
狭いアパートの中で『オデュッセイア』や『戦争と平和』などの壮大な物語を朗読する光景というのはなかなかに素敵だ。ネタバレになるので、伏線について詳しいことは言えないが、朗読を通した二人の心の触れ合いというものに注目して読むのも良いだろう。
小説の中に出てくる小説というものを私はとても読みたくなる質なので、例によって『オデュッセイア』や『戦争と平和』も読んでみたくなったり...。
それではまた( ´ ▽ ` )ノ

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