医者嫌いの父、実は小心者だった。
父は医者が嫌いだった。
多少具合が悪い程度では、医者には行かない。
「いつも上から話してくるし、エラそうに、人をバカにして、あの態度が気に入らない。」
父は、いつもそう言っていた。
アル中(いまでいうアルコール依存症)で精神病院に入院したことがあった。
その病院は患者さんが多かったけど、やっとベッドが空いて入った。
衝撃的な狭さで、一人のスペースが一畳程度しかなかった。
あくまでもわたしの記憶の中の話だけど。
電車のボックス席を少し大きくしたような感じで、ベッドが並んでいた。
そんなところに寝ている父は凄いと思った。
まあ、母が入院したときは、鉄格子入りの隔離病棟だったから、それよりはましだったのかもしれない。
面倒くさそうにまわってくる医者の態度に、父はイライラしていた。
ただ、アルコールが入っていないと、思ったことが言えない。
父はすごく気が小さかったのだと思う。
他の患者とは違って、読書なんかしながらゆったりと入院しているように見えた父には、すぐに外出許可がでた。
すぐにワンカップを買い、その勢いで医者に猛烈に怒りをぶちまけ、土下座までさせて退院した。
というか、自主退院だけど。
他の病院に入院し、身体拘束されてたこともあった。
お医者さんを罵っていた。
わが親ながら、情けなかった。
わたしは一人っ子だし、相談する相手もいなくて、どうしたらよいのかもわからなかった。
そのうち心臓に病気がみつかり、別のお医者さんが診てくれた。
その先生は、父が初めて気に入ったお医者さんだった。
ちゃんと向き合って、ちゃんと説明してくれる。
父の言い分も、根気よく聴いてくれる。
しばらくおとなしく入院していた。
わたしは、片道5時間ぐらいかけて、病院に通った。
そしてある日、ベッドは空だった。
やっぱり、自主退院してしまったらしかった。
気に入っていたはずなのに。
足の付け根からカテーテルを入れるために、前バリ?をすると聞いて逃げ出したみたいだった。
そんな父には、苦笑するしかなかった。
ありがとうございます。優しさに触れられて嬉しいです。頑張って生きていきます。