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制服、やっぱ選択制でいいんじゃないの? ー女性用制服から男性用制服への変更に伴って得た雑感まとめ

2020年4月。新年度。

職場での制服が一部変更になりました。
そしてこのタイミングで、自分自身の制服も女性用のものから男性用のものへ。

具体的には、今回の冬服に限ると

【全体での変更】
・帽子の色と形の変更(特に女性用は官帽からチロリアン帽へと大きく変更)
・女性のみ、ネクタイをスカーフに変更
【個人的な変更】
・新帽子を男性用で貸与
・ネクタイ着用を続行

といった変更があり、パッと見で男女差が見られないジャケットなどは、そのまま女性用の着用を続けています。

この状態での仕事を1週間ほど経験して得た雑感を、以下に書き連ねていきます。

女性用制服から男性用制服になって受けた反応

4月1日。制服変更の話は水面下でこっそりと進められていたため、営業所内でも知る人はごく数人。自分は突然、男性用制服で先輩方の前に姿を現す状況となりました。

「えっ、なんで男性用?」
「女性用貰えなかったの?貰い忘れ?」

皆からそういう反応をされました。当然ですね。
なんなら前日までは男女ともにネクタイ着用だったので、私がネクタイをしていることに違和感を覚えなかった人も多かったと思います。そういう人達が明らかに「あれ?」と思うのは、運行中にすれ違って制帽に目をやった時。
だから1週間経つ今日もまだ「あれ?」と声をかけてくれる先輩がいます。

だけど不思議なもので、私が「いやぁ、私はこっち(男性用)なんで」とか「本社に許可もらって変えてもらいました!」とか返すと、みんな特段の抵抗もなく受け入れてくれます。ありがたいです。

むしろ、“LGBT”の理解どころかアルファベット4文字の発音に苦心する勢い(?)な大先輩方の中にも「お前はそっちの方が似合うもん!な!」などと言ってくれる人までいたりして、ああ何なんだこの優しい世界は……と。

そして何より気楽なのは、運行中にすれ違う他営業所の見知らぬ運転士さんからの“女の子に好意がある視線”に、今のところ出会っていないこと。
「運転士同士として対等に働けている」という感覚が得られて嬉しいです。
今まで、すれ違ったことしかない他営業所の運転士さんの視線に結構縛られていたみたいです。そりゃあ、明らかに気を引こうとしているような挙動の人もたまにはいましたからね。

お客さんからの目はというと、正直、お客さん側がどう見ているのかはわかりません。
毎日弊社のバスを利用してくれているお客さんで私を女として認識している人がいたとしても、新しい女性用制服を知らない限り、私の格好に違和感を覚えることはないでしょうから。あるとすれば横柄な人からナメられる頻度が減った気がするくらいですかね(これはこれで超重要なことですが)。
ただ、自分はというと、お客さんに女性扱いされてもあまり傷つかなくなりました。会社の人達に自分のあり方を認めてもらえているから、強くなれたのかもしれません。

“セクマイ視点”と“女性視点”とで感じること

制服について感じることを頭の中でいろいろと並べていると、いつも思うことがあります。
自分が体感していることは、セクマイ(セクシュアルマイノリティの略、性的少数派のこと。普段はあまり略さないけど今日は以下略で……)ならではの体感と、女性として社会生活を送る人達にありがちな体感とに分けられるのではないか。

だから今回は、制服変更されて感じたことを2つの視点にわけてまとめてみます。
(当然ながら、これはセクマイ代表、女性代表の意見ではありませんので悪しからず。むしろ私はセクマイとしても女性としてもかなり異端です。)

【セクマイ視点で感じること】
自認する性別通りの服装でいることによる生きやすさ。あまりにも安心感があり、自信になり、自分を偽らずにいられる開放感があります。
だからこそ、休憩室でも以前よりさらに肩の力を抜いて居られるようになった気がします。
また、先輩で1人、キャリアがとても長い女性で他の女性をほぼ完全に無視する人がいるのですが、運行中にすれ違った時に軽く会釈したら返してもらえました。実を言うと、以前はこの人に無視されることで「自分は女なのか……」と認識させられ密かに傷ついていたので、ちょっと気分が良くなりました(笑)
そして、この制服変更が本社公認で行われているということで、自分は女として振る舞わなくても会社に守ってもらえているという安心感も大きくあります。ただただ純粋に仕事を頑張れるようになりました。

【女性の立場の視点で感じること】
対等に扱ってもらえている感覚がとにかく強いです。同じ営業所の皆さんは相変わらずのフラットさで接してくださっていますが、外に出た時には、以前なら感じていた「女を見る目」みたいなのを感じなくなりました。新制服になってから制服の男女差が格段に大きくなっているので、女扱いされずに仕事したい女性はおそらく、今まで以上に“見せ物化される苦行”を強いられていると思います。
舐めた態度で降りていくお客さんも心做しか少なくなったように思います。男性陣には一定数、相手が女だとわかると変に威張る人達がいるものです。ただでさえ運転士ってのは威張られがちなのに。
それから、変にジロジロ見られることも無くなったかもしれません。もしかしたら自分のメンタル的に、多数の運転士(=男性運転士)と同じ服装で働けているという事実が、周囲からの視線を気にならなくさせたのかもしれません。

こうして分けて考えて思うのは、自分はたまたまセクマイだから制服変更をしてもらえたけれど、女性を自認して生きている人で仕事上女性として視線を向けられることが苦痛な人は制服変更ができないということへのモヤモヤ感です。
制服は好みでは選べない。現行制度ではそれが当たり前だから、このモヤモヤ感も当たり前のものと切り捨ててしまうこともできます。でも……新しくなった女性用制服で“魅せられる”ようになった女性は御の字でも、逆に“見られる”ようになった女性は仕事しにくくて仕方ないのではないか。

同じ「仕事がしにくい」という課題を持っていても、たまたまセクマイであった自分は制服変更が効いて、女性である人には変更が効かない。
どうなんでしょう?制服が好みで選べたっていいんじゃないですか?

女性用新制服を羨ましがる男性陣

制服を好みで選べたっていいんじゃないか。そんなモヤモヤ感を抱えていたら、営業所内で興味深い現象を目にしました。
男性陣が、女性用の制服を見て羨ましがっているのです。

それもそのはず。女性用の帽子は軽くて被り心地も良さそうで、ネクタイから変更になったスカーフは格好良さも感じられるお洒落なデザイン。しかもワンタッチで着けられる。
“俺もそっちを着たい”という目で女性陣が着ている制服を眺めている男性陣が少なくありませんでした。周囲が「羨ましいんでしょ〜」と言うと「いやぁ〜」なんて言葉を濁してはいるんですけどね(笑)

しかも本気で女性用帽子を被りたい男性の先輩もいて。聞くとやはり「軽くて被り心地がいい方を被りたいんだ」という主張。変更前からずっと休憩室でも言っていて、所長にも直接頼みに行って所望するもあっさり断られたそう。
私を含む女性陣全員に「帽子交換してくれんか?」と聞いていたみたいで、私は「もっと早く言ってくれたら女性用頼んどいて交換したのに〜」なんて言っていました。(現実問題そんなの無理ですが。)
私が制服変更できた経緯も話したら、やっぱり俺は男性用を被るしかないかといった諦めモードの反応で。

私は正直、驚きました。
女性が男性用制服を羨ましがるのは容易に想像がつくんです。男性運転士の姿に憧れて運転士を志した人なら尚更羨ましいだろうと。
でも、逆があるとは思いませんでした。男性中心で、いわゆるガチガチではないけれど一応男社会。女性用の制服はどちらかといえば女性らしいと言われる方向にシフトしていて、ある意味“女装したい”発言になるようなことを男性陣は言わないだろうと思っていました。
でも男性陣、私が思っていた以上に柔軟でした。仕事しやすそうな服装を選びたいと思う人、それを発言できる人が普通にそこにいたんです。

制服を好みで選べてもいいんじゃないの?

ここまで来たら、考えることはひとつです。「制服を好みで選べてもいいんじゃないの?」

現場で様子を見ていると、現状、男性用制服と大きく異なる女性用制服で働く人の中には、喜ぶ人もいれば、多数いる男性陣と同じ仕事をしているのに違う服を着なければならないことに苦痛を覚える人もいます。逆に女性用制服の高いデザイン性、優れた機能性に惹かれる男性陣もいます。そして私のような人間も、おそらく私だけでなく潜在的にどこかにいると思います。

制服が選択制になることで、会社に利益こそあっても不利益になることは何一つないはずなんです。

仕事になぜ制服が必要か。制服によって身分を明らかにするためです。
これは本社の方もはっきりと仰っていた、間違いのない解です。

身分を明らかにするためとすると、男女で大きく差があったら同じ身分だと示せないような気もするのですが、それでも2パターンあるならある方がいいと思います。
でもせっかく2パターンつくるなら、人によって着たい方を選択してもらえば良いではないですか。誰が何を選択したかという管理は、男女分けて管理するくらいならそう難しくないと思うし、難しければ両方支給してしまえばいい。

そして、本社の人は仰っていました。男性用と女性用、それぞれ髪型の違いや体型の差に合わせて、合うように作られたこだわりのデザインだと。
だったら私は、そのこだわりのデザインをもっと生かしてほしいです。
髪型については、髪の長い男性も、髪の短い女性もいるのだから、髪の長さに合わせて創られた帽子なら髪の長さに合わせて支給としてもいいわけです。体型も……実際に私なんぞは、女性用のジャケットや夏シャツが合ってないんですよ。胸がほぼ無いから胸付近の布が余って着られている見た目になり、逆にウエストが縛られて少しキツい。スラックスのお尻周りも少し余裕ありすぎな感が。
そしてデザインを含めて、気に入った方を身につけてもらった方が、デザインに携わった人達の意にも添えるのではないですか?

こういった形にしても、身分を明らかにするという制服の機能はきちんと働きますよね?
その上、制服によるストレスを抱えて働く人の数が格段に減ります。
私のような人間も、わざわざ会社にセクシュアリティを明かさずとも、普通に着たい服を着て仕事が出来る。セクシュアリティを隠したいがために声をあげられない人がいるとしたら、大変な救いになります。
特別な人間としてではなく、ただの一人の人間として仕事が出来る。実はとっても大切なことです。

女性の運転士を増やしたいというのはこの業界おそらくどこでも思っていることでしょうが、運転士になりたいと思う女性の一定数は、男性運転士のあの制服を着て運転することへの憧れがあるんです。でも女性用の全く違う形の制服を着るくらいなら憧れは憧れのままにして別の仕事を……という人は潜在的にある程度いるはずです。
その憧れを叶えられる場を他に先がけてつくってしまえる会社は、きっと入社希望者が増えるでしょう。
(ちびっこ達が運転士の制服を着て運転席に座れる地元市営バスのイベントを目の前で見て、子どもサイズの服すらあるのに自分はもし運転士になってどれだけ頑張って働いたとしても男性用制服が着れないのかと、呆然と小一時間くらい立ち尽くしていた大学生の自分のような人間が成仏してくれる世界があったらいいな。
今の会社のおかげで個人レベルでは成仏していますが、業界レベルではまだまだです。)

そりゃもちろん、人手不足解消には賃金体系とか労働環境とかって話が真っ先に来て当然ですが、制服ってのも意外と馬鹿にならんのです。

自分だけが特例で認めてもらうんじゃなくて、営業所唯一の女性運転士として1人だけ別の制服で働くことになって憤っている別営業所の先輩運転士や、女性用制帽を被りたくても所長にあっさり断られてしまった男性の先輩運転士も、救われてほしいです。

さいごに

ここまで散々いろいろ書いてきましたが、それでもやはり業界としてかなり先駆けた判断を下し、私に身体的性別と逆の制服の着用を認めてくれた本社の方々、それに協力していただいた関係者の方々には大変感謝しております。
それは前の記事にも書いた通りです。

この先も良い変革を起こしてもらえることを願って、私は私の姿で走り続けます。
制服変更を許可して良かったなと思っていただけるように。先例をつくったのですから、良い先例であらねばなりません。


現状、自分の生き様や思考を晒しているだけなので全記事無料です。生き様や思考に自ら価値はつけないという意志の表れ。 でも、もし記事に価値を感じていただけたなら、スキかサポートをいただけるとモチベーションがめちゃくちゃアップします。体か心か頭の栄養にしますヾ(*´∀`*)ノ