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【小説】父が幼稚園児になった件について

今日、父と喧嘩をした。

歳のせいか最近父の発言が子供っぽくなってきたのだ。

父は帰宅する度「今日は誰々が、何々って言ってきてどうたらこうたら」だとか会社の愚痴を私に聞かせてくる。

まるで幼稚園児が「今日、たかしくんがオモチャとっちゃったんだよ!」と母親に言いつけるように。

幼稚園児なら可愛いが、還暦超えの大の男が……勘弁してくれよ。

そんなわけで、今日は私の優しさ袋の底がついてしまったのである。

いつもなら「大変だったね。」とか共感するような言葉をかける私だが

「で?私はそれ聞いて何て言えばいいわけ?」

思わず本音が出てしまった。父は一瞬固まってから、私への当て付けのように、こう言った。

「あーあ!会社でも家でも居場所がないよ!」

なんだか無性に腹が立って、少し大きな声で「居場所欲しければ、それなりの態度取りなよ!」と言ってしまった。すると父は

「居場所って……!ここは俺が金を貯めて買った家だ!」

この発言には本当に本当に呆れた。
いやいや、まず「居場所」って言葉を出したのは貴方だし、「誰のおかげでここに住めてると思うんだ」とでも言いたいわけ?
私は何だか冷めてしまい「もういい」と呟き家を後にしたのだった。

私はハンバーガーショップで110円のコーヒーを飲みながら感傷に浸っていた。父の態度に腹を立てたり「私ってただの愚痴聞きマシーンなのかな」なんてナーバスな気分に浸っていた。
隣の席では、二人の男子高校生がポテトを貪りながらハイテンションで喋っていた。

「でさぁ!腹立つから、母さん幼稚園児にしてもらったんよ!」
「マジ!?じゃぁ弁当とかどうするんだよ」
「自分で作ってるよ!てか母さんが幼稚園に持ってく弁当も俺作ってるから!」

え?なんちゅう会話?
下らない冗談だと思うのが普通かもしれないが、彼らがあまりに自然なトーンで話していたので、私は当然のように実話と捉え、聞き入っていた。
気がつくと私は勢い良く立ち上がり、こう言っていた。

「その話詳しく教えて!」

さっきまでハイテンションだった二人がポカーンと口を開いていた。

男子高校生から全てを聞いた私はハンバーガーショップを後にして、私の母校の向かいにある神社の鳥居をくぐった。
拝殿の前に立ち。二拝二拍手、そして三土下座し、ガシャポンのカプセルを熊の耳の如く頭に二つ乗せ「父は幼稚園児になりたい」と祈った。私は何をしているんだ。
すると、白煙と共に居酒屋で注文をするタブレットが現れ、見慣れた質問が表示された。

「お車でお越しですか?」

車で来たから何なんだよ…そう思いながらも「いいえ」を選択。

「本当にお父様を幼稚園児にしますか?」

キタキタ!コレコレ!「はい」を選択。

「時々、すね毛が生えている、頭髪が寂しいままだ、等の不具合がありますが、別にかまいませんよね?」

はい

あ、よく読まないで「はい」選択しちゃった。読者のみんな、今何て書いてあった!?まぁいっか!

そんなわけで私は、ワクワクするような不安なような複雑な気持ちで帰宅した。

すると巨人がドカドカと床を破壊しながら玄関に駆けつけてきた。
思わず腰を抜かしてしまった!

「化け物!」

私が、そう叫ぶや否や巨人がデカい図体で泣き出した!

「おかあさぁあん!なんでそんなこと言うのぉおお!」

あれ、よく見ると可愛い。あ、なんか見覚えある顔……父だ!昔、写真で見た子供の頃の父だ!
いや!デッか!3mはあるぞ!
とりあえず泣き止ませなきゃ!

「漬物!」

父はキョトンとしている。

「私、漬物って言ったんだよ?何泣いてるの?漬物食べる人ー!」

「はーい!」

良かった。馬鹿だ。

「何の漬物がいいかなあ?」

「ハンバーガー!」

やっぱり馬鹿だ。

そんなこんなで私は親になった。

まさか結婚もすっとばして、こんな形で自分が親になるだなんて思いもしなかった。

もう父は会社の愚痴を言う事は無いし「誰のおかげで」みたいな恩着せがましいことも言わない。

何だか色んなハードルが待ち受けている気がするが、これから私の幸せな新生活がスタートする

はずだった……

次回「父、入園する」
  「待機児童はしんどいよ」

でお送りします!

じゃんけんぽん!

んがぐぐ!

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