見出し画像

”地域 × eスポーツを科学する” file1:大分県eスポーツ連合 西村滉兼さん

第1回は、別府温泉や湯布院温泉をはじめとした「おんせん県」でもある大分県より、大分県eスポーツ連合会長の西村 滉兼さん(にしむらこうけん)にお話をお聞きしました。

西村さんは、日本有数の温泉地・別府温泉を会場とし、観光誘致を目的とした地域密着型LANパーティ「別府おんせんLAN」の運営や大分県のプロeスポーツチーム「花天月花」の代表を務め、最近では老人ホームへのeスポーツ無償体験会を開催したりなど、eスポーツの普及や福祉活動など、その実績は多岐にわたります。

今回は、そんな西村さんのこれまでの活動や今後の目標などをお聞きし、「地域 × eスポーツ」のヒントを考えていきます。

西村 滉兼さんのプロフィール

西村さん1

昭和52年生まれ、42歳。滋賀県出身。普段は防災器具などを販売する会社に勤めながら、eスポーツの普及活動を行っている。最近は息子2人と3人でApex Legendsをプレイして楽しんでいるそう。


eスポーツのエンタメ性を大分の人に届けたい

---大分県eスポーツ連合では、これまでどんな活動をしてきましたか?

そもそものきっかけからお話ししますと、僕自身ゲームが好きで、オーバーウォッチにハマっていた時に、ネットで海外のリーグが開催されることを知り、そこで「eスポーツ」と出会いました。

観客が盛り上がっている様子を観て、eスポーツのエンターテインメント性に驚き、「日本のeスポーツはどうなっているのか」と思い調べたんですよね。そしたら日本eスポーツ協会(JeSPA)があったので問い合わせて、そこで当時の事務局長でもあった筧さんに全国支部を作らないかとお話をいただき、大分県で協会を立ち上げたのが活動のきっかけです。

活動としては、まずはゲームの楽しさを知ってもらいたいと思っていたので、小さな体験会からスタートしました。公共施設を使って月2回くらいのペースで開催し、多い時には50人ほどご参加いただきましたね。やっぱりどうしても世間的にはまだゲームに対する見方が良くない部分もあったので、そのイメージを払拭できたらと。

画像2

その他には地域観光を目的とした「別府おんせんLAN」ですね。温泉に浸かりながらゲームをするってのは最高ですよ。

今でも忘れることのないC4LAN

---これまでの活動で印象に残っている出来事はありますか?

C4LANの会場を初めて見て、一堂に数百人のゲーマーが集まるあの空間に「なんじゃこりゃ!?」と衝撃を受けたことは、今でも忘れられないですね。初めて行ったのは2018年の冬。初めての参加で初出展したんですよ(笑)。

画像6

その時すでに「別府おんせんLAN」の構想もあって、同じLANパーティ形式というのもあって、ターゲットとしている層がその場にいるから、出展するしかないと、思い切って行きました。

もともと「別府おんせんLAN」を企画した経緯としては、ゲームで地域のために役に立てることってなんだろうと考えていた時に、「地元に泊まりに来てくれる仕組み」を作りたいと思ったんです。

そこで、C4LANの小林さんに「LANパーティがあるよ」とアドバイスをいただいて、たしかに別府温泉でみんなで浸かりながらゲームができたら最高だろうなっていう単純な発想から生まれました。

画像7

小林さんとの出会いはとても唐突で、堺谷君(ZORGE)も同じパターンだったと思うけど、「会いたいんですけど」と突然連絡をいただいて、大分に来られたのがきっかけです。小林さんは僕の中でキーマン。小林さんと出会わなかったらLANパーティをやるという概念は生まれなかったと思っています。


“勝ち負け”ではなく”地元”にこだわるチーム運営

---連合の会長以外にもプロチーム「花天月地」の代表も務めていらっしゃいますよね

大分にはゲーマーがeスポーツに取り組める環境がなかったので、活動や経験ができる場を作りたいと思い「花天月地」を立ち上げました。今でこそeスポーツ業界には、小学生・中学生で、既にプロとして活躍している選手がいるじゃないですか。だから、大分の子どもたちにもeスポーツにチャレンジできる環境を作ってあげたいと思ったんです。早い段階でいろんな経験を積ませてあげられるのはいいことかなと。

それに、「地元の人たちに表に出てもらいたい」という想いでチームを運営をしているので、メンバーのほとんどが大分県在住の選手で構成されています。

特に上手い下手にはこだわってないんです。スポンサードを受けている以上、プロとして「試合に絶対勝たなければいけない」という本来のスタンスとは矛盾しているんですけど、「地元の人のためのチームである」というコンセプトを事前にスポンサー様に理解してもらいご支援いただいています。

チーム活動


eスポーツが持つ”公平性”を実現していきたい

---今、力を入れて取り組んでいることはありますか?

業界内で流行っている「バリアフリーeスポーツ」について考えています。取り組みとしてとても良いことだと思うんですけど、ちょっと違和感を感じているのが正直なところです。

言葉や文字で表現することで、健常者と障がい者との壁を作っている気がしてしまって、eスポーツの良さでもある”フェア”な部分が本当の意味で実現されていないと個人的に思うんですよね。

だから大分では健常者と障がい者の垣根のない場をこれから作っていきたく、障がい者施設の方たちにプログラムの提案などを進めています。

もう一つは、eスポーツないしはゲームが家族団らんのきっかけになればと思い、シニア層にゲームの楽しさを体験してもらう福祉活動を行っています。高齢者の方に聞くと、やっぱりお孫さんや家族と一緒に話したいし遊びたいと思っているんですよね。その気持ちは僕が老いた時でも同じ気持ちになるなと共感できるんです。

おじいちゃんおばあちゃんがゲーム大会に参加して、その姿をお孫さんが応援する。

そんな景色を観られたらと思っています。

高齢者施設


若い人たちに地元でチャレンジできることを証明する

---今後の活動や方針周りについてお聞きしたいです。

3月末に新しい会社を起業したのでその事業の一環として、若い人たちが新しい産業にチャレンジできる環境を残してあげたいです。「地元でやれないから」と簡単に県外へ出てしまう若い人たちがいるけど、やり方さえ工夫すればできるってことがたくさんあるんですよね。

行政には県外の企業にポンッとお金を出すんじゃなくて、地元でやりたいと思っている人たちを応援してあげてほしいんです。そういった意味で「eスポーツ」という産業で本当にやれるのかということを自分で証明して確立化していきたいという気持ちがあります。

実はまだまだ大分では「eスポーツ」をよこしまな目で見ている人たちがいっぱいいるのが現状なんですよね。というのも、他の産業で地域活性のためにあった予算を上場企業が収益だけをあげるためだけに引っ張って、実際大分県には何も残らなかったという事例が過去にたくさんあったから。

ですので、本当に地元で頑張っている人を支援したり、地元でチャレンジできるということを自ら証明することが今後の目標です。


file1 : 大分県eスポーツ連合会長 西村滉兼さん

大分県での活動は2016年からスタートされており、地域の観光資源でもある「温泉」に着目して大分県らしいeスポーツの取り組みをこれまで試行錯誤を重ねて実施されてきました。

2016年頃を振り返ると、eスポーツという言葉に対して「ただのゲームのどこがスポーツなんだ」との壁は常に存在しておりましたが、その中でも地域の資源を活用して、地域の目的や目標にも沿う形でeスポーツを取り入れるという行動は、地域にとっても受け入れられやすい環境作りに繋がったのだと思います。
現在は、当時と比較してeスポーツに対しての認識もSNSやメディアを通して随分と広がりました。まだ言葉しか知らないといった方たちもゲーマー以外では多いのも現状ではありますが、こういった地域でのアプローチの方法は、コロナなどで状況が変わった今でも重要であると考えています。

画像7

最後に、西村さんから「持続可能な形で、小さくともいつでもやってるようなものとしていきたい。コロナ禍でもあるけど "どうやったらできるのか" と向き合っていきたい。」と、お聞きしました。

これまで、発展途上な雰囲気が強いeスポーツに対して取り組むにあたり、どうしても規模感だったりインパクト、派手さに注力するがあまり、無理をして無くなってしまったり、潰れてしまったり、業界から離れた人や企業も多くあると思います。その背景には、海外で拡がりをみせている一部のシーンを理想とするがあまり、地域に対してのコミットや定着が出来ないケースも多々あると考えております。

コロナ禍において、実施出来ることの限りもあるなかで "どうやったらできるのか" と考えることもこれまで以上に増えることもありますが、西村さんの言われるように、今後継続的に実施していくにあたり "あえて規模を縮小する" という選択も考えていくに良い機会でもあり、そういった選択こそが、結果的に思い描いているような状況に向かっての近道なのかもしれません。

地域のリソースは限られているなかで、どうすれば最大限プレイヤーたちだけではなく、自分たちが成長していけるのかも大事にする、そうすることで地域の取り巻く環境や課題がeスポーツによって変化していくのでは、と改めて考えさせられました。

西村さん、ありがとうございました。

//関連リンク
・Twitter - 大分県eスポーツ連合
・Twitter - 西村さん

(ZORGE note 編集部 http://zorge.jp/

この記事が参加している募集

#最近の学び

181,541件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?