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DV相談のお仕事

わたしが相談員を続けられる理由。パワーの源について今日はお話ししますね。

前回はやってらんないなぁと思う時についてお話しましたが、それでもわたしはこの仕事を続けている。しんどいなぁ、やめようかなぁと思う気持ちをふきはらってくれるような出会いがある。

特別な相談者との出会い。

わたしは今はDVセンターで働いている。その前は福祉事務所で働く婦人相談員だった。何が一番違うかと言うと、直接支援をするかどうか。

DVセンターは主に電話相談が中心で悩みを聴く、整理する、制度や支援を説明する、支援機関を案内する、場合によってはつなげるのが仕事。

福祉事務所は面接、一時保護、同行支援など相談者に寄り添い、一緒に動くことが多い。アポなしのいわゆる「飛び込み相談」も実際多い。月曜日の朝一番、福祉事務所の電話回線がすべて埋まるくらい相談や連絡が入っている時とか、金曜日の夕方このまま静かに週末休みが迎えられますようにとお祈りタイムに入る頃とか、やはり相談は入る!

誰が考えてもそう、役所が開庁したタイミングや役所が土日休みに入る前に相談しようと思うのが必然。

その相談者もそうだった。金曜日の夕方、警察からの電話。「夫からのDV被害者。今警察署で話を聞き終わりました。一時保護希望です。まだ役所がやっている時間なのでこれからお連れします。」

そう役所が開庁している時間は役所が保護する。土日や夜間の時間帯、役所が閉庁している時は取り急ぎ警察が保護の窓口になり、婦人保護所に移送する。そして役所が開庁したタイミングで連絡が入る。どちらもその後の支援は婦人相談員がやるのでそこは一緒。

60代 単身女性 

夫から身体暴力を受けて警察に飛び込んだ。夫とは再婚同士 こんなはずじゃなかった ばつ2になりたくないから我慢してきた。でも限界、夫は暴力を振るうだけじゃない、金を渡さない、借金をつくる。これ以上一緒にいたら借金が増えるばかり。一大決心した。身の回りの荷物をキャリーバッグに入れて出てきた。もう夫とは離婚する。帰れる実家はもうない。保護してほしい。

彼女はもう覚悟が決まっていた。それなら話は早い。一時保護しましょう。

話が早くない場合もある。どんな時か参考まで

その1                「まだ覚悟が決まらない。明日にはかえりたくなるかも。やっぱり夫と一緒にいたい。」こんな時は慌てて保護しないで取り敢えず友人宅やビジネスホテルに泊まりじっくり考えてもらう。

その2                「夫に反省してほしい。ほとぼりが冷めたら帰ります。2、3日保護してほしい。」残念ながら保護はできない。帰ってから夫にどこに行ってたのか、誰が支援していたのか彼女の口から話されたら次に本気で逃げる時に支援ができなくなるから。

その3                「警察に一時保護を勧められたから来た。相談はしたけど保護までは希望してない。でも警察の手前、断れなくて来た。」警察は何かあってからでは遅いからと、説得して連れてきてくれるけど本人が望んでないと厳しい。保護した後にこんなはずじゃなかったと帰ってしまうことが多い。

さて、彼女の場合に戻ると。

一時保護すると決めてからが大変。県の婦人相談所が最終的な受け入れ判断をする。なぜ保護が必要なのか説得力がいる。相談員の熱意と覚悟のほどが試される瞬間。保護OKになると次は一時保護所(いわゆるシェルター)との調整が始まる。

危険な地域はどこ?急ぎ受診しなければいけない怪我はない?必ず飲まないといけない薬は持ってきた?アレルギーはない?携帯電話やスマホにGPSはついてない?シェルターに入ってから親戚や職場に連絡できないけど了解された?

などなど、やはりひとりの人間を保護するということは彼女のこれまでの人生を丸抱えするということ。何十年か生きてきた彼女がこれまで築いてきた財産や人間関係やらをある日突然分断させて、見知らね場所に連れて行くのだから。

そもそも何で被害者である女性がすべてを投げ捨てて逃げなきゃいけないんだ?おかしいだろ?と思う。書いているそばから、怒りが沸々わいてくる。(これだけで一回投稿できそうなので、今は我慢。後日改めて)

受け入れ先が決まって、やれやれ福祉事務所を出発しましょうという頃にはすっかり暗くなっている。子どもがいて荷物が多い時は車が使えるけど今日は単身者だから電車で行けって上司に言われる。わかってはいるけど厳しい現実。

「急に出かけることになったから、おかぴさん上着ないでしょ?寒くないですか?」

泣けてくる。今一番大変なのはあなたなのに、どうしてわたしを心配してくれるの?あなただって急に出てきたから夏用のサンダルだよ?秋の夜に冷えるでしょ?

彼女たちは優しいのだ。DV被害者がみんなとは言わないけど優しいのだ。暴力をふるった男は絶対許さないとさっさと別れる女性がいる。一方でバシッと切り捨てられない優しさを持つ人もいる。加害者の男性は嗅覚が働くのか耐えて尽くすタイプの女性を見つけるのが上手なのかもしれない。自尊心が低いとか、共依存とか心理学的には言われることもあるけど、とにかく優しいのだ。

彼女はシェルターに入ってからも耐えていた。わたしだったら今までの生活から切り離されて不満をぶちまけているだろう。もっともっと気持ちを出していいんだよ。コーヒー飲めないのは我慢できないとか、新聞読みたいとか。いつも周りに人がいて疲れるとか。シェルター入所した人の声が現場を変えていくのだから。

「暖かい布団で安心してぐっすり眠れました」

よかった、よかった。当たり前のことができて。

人間の尊厳って、なんだろう?大変な時に相手を気遣える勇気?余裕?今は被害者の立ち場だけど周りの人を助けたり明るくする同僚だったりママ友だったりしたんだろうな。

相談員をしているといつも励まされるのはわたし。気遣われ、励まされる。寄り添っているつもりが寄り添われている。

初対面で涙をこぼしていたあなたが、少しずつ前を向いて進んでいく。たまにみせる笑顔に励まされるのはわたし。元はこうやって笑う女性なんだなって。

自立の道を歩んでいった彼女を思い出す。あなたと一緒に過ごした時間とあなたからもらった勇気と優しさがわたしを励ます。ありがとう。

*個人情報保護のため相談内容は加工しています。プライバシーに配慮して載せています。


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