「ハチのように刺す」
<舞台裏>シリーズ No.3
かいのどうぶつえん 園長です。
貝の動物の制作現場では、毎日さまざまなエピソードが生まれています。
このシリーズでは、舞台裏の失敗談や内緒話、奇想天外な空想や細部への“こだわり”などをチョイスしてみました。
第3回目は「ハチのように刺す」。
園長ならではの心理作戦を、こっそりご披露します。
うまれついての安請け合いで、どんなことでも頼まれると断われず、ずいぶん冷や汗をかいてきました。
中華料理店を経営している小学校の同級生が
「歯医者をつくれるかい?」
「うん」。
同級生の愛娘の嫁ぎ先と聞いては否応ありません。
「いそがないよ」。
ひきうけたものの、あっという間に3日たち、1週間たっても袋小路。
トンネルの出口は見えません。そんな袋のネズミ状態から脱出する手は、
素直に無知を認め、とことん調べることにつきます。
歯医者さんが歯を削るドリルの形状は?ライトの位置は?など、
脇目もふらずに歯科情報をかき集めました。
資料だけでなく、かかりつけの歯科医院も、じっくり観察しました。
やがて、細かな知識のカケラが積もってきます。
その小山を踏台にして、袋から首を出せば「貝の歯科医」の姿が
おぼろげに見えてきます。
この最初の一手に、あえて名前をつければ「神は細部に宿る」でしょう。
貝の動物制作は立体です。
たとえば、チョウチョをつくるのに、触角や複眼の形状を知っていて省略するのと、知らんぷりとでは、
仕上がりに少し違いがでると、園長は頑固に確信しています。
次の手は「天使の決断」です。写実が目的ではありませんから、
ざっとイメージが固まったら迷わずつくり始めること。
怖いもの知らずの天使みたいに大胆に、思いのままに創造するのがコツといえばコツですね。
100%子供の目と遊び心に徹すればいいのです。
ただ、貝は整形も化粧もしないスッピンが信条で、材料まかせのおんぶにだっこ。完成してもお手柄はほとんど貝のもので、園長は、ただの接着係でしかありません。
それではあまりに寂しいので、最後の一手「ハチのひと刺し」を準備します。
用心深い悪魔の気分で、細心に研ぎ澄ました針を、そっと仕込むのです。
観客のハートをグサリと刺す決め手になれるか?
この段階ともなると、作品というわが子を、世間に送り出す親の目線になっているようです。
針を、どこに仕掛けるかは、作品それぞれに異なります。
「はいしゃさん」の場合は配役に工夫しました。
患者(ワニ)は抜歯の恐怖におののき、
医者(サル)はガブリと噛まれる不安にふるえ、
互いに怖がるという、ありえない構図です。
「しおさい眼科」では、よく見えるようにと、
親切な看護師(ウサギ)が視力検査表に照明をいれてくれます。
とたん患者は、「環(わ)の切れ目が見えない)」と文句たらたら!
患者に夜行性のミミズクを抜擢したのがミソです。※ランドルト環
「森戸海岸接骨院」では、肩こりに苦しむ患者にリクガメを配役しました。
甲羅が硬すぎて鍼が折れ、
ベテラン鍼灸師のプライドもポキリ。
隣のベッドの患者は慢性腰痛のイカです。
若先生が全力で揉んでもグニャグニャでお手上げ状態。
というわけで、作品展で「はいしゃさん」をはじめ、
病院シリーズをご覧になった方の片頬がピクリとしたら大成功。
次はどんな隠し針で驚かそうかと、園長は今からニヤニヤしています。つづく
貝は「割らない。塗らない。削らない」のスッピン勝負
「はいしゃさん」 ~貝の配役~
★歯科医(サル):アマオブネ/スズメガイ/カニモリガイ他
★看護師(ウサギ):サクラガイ/カイコガイ/マツムシガイ他
★患 者(ワニ):イワガキ/ナガニシ/ツメタガイ他
★治療器具 :ヤカドツノガイ/ベンケイガイ/ナミマガシワ他
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