【怖い話】侵入者
内田さん(仮名)は都内で働くごく普通のOLである。
今日も帰宅は日付が変わった頃の時間となった。仕事が忙しいわけではない。内田さんは仕事帰りに近所のBARでお酒を飲んで帰るのが日課となっており、仲の良い常連客と他愛もない話で盛り上がると、ついつい帰りが遅くなってしまうのだ。
帰ってすぐにシャワーを浴び、その日はそそくさとベッドに潜りこんだ。
どれくらい眠っただろうか。ふと目が覚めた。外は少し明るくなっているようで、部屋の中がうっすらと照らされ始めている。
「もう少し眠れるかな」そんなことを考えていた時、人の気配があることに気づいた。
内田さんの部屋は1DKでベッドからキッチンと玄関が見渡せる作りになっている。ふだんからキッチンと寝室を仕切るドアは開け放しているのだが、玄関の前に誰かが立っている。男性のシルエットのようだが、暗くてよくわからない。
「泥棒?鍵をかけ忘れた?」一瞬のうちに恐怖に包みこまれた内田さんは、あることを思い出した。昨日BARで飲んでいた時、常連客の一人が金縛りにあって怖い体験をしたという話を聞いていたのだ。と、同時に自分も金縛りに遭っていることに気づいた。
「鍵をかけ忘れたはずはないし泥棒じゃない、きっと幽霊だ。どうしよう・・・」初めての金縛りだった。どうしていいかわからないが、とにかく目を閉じてお経を唱える。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」
しかし、念仏もむなしく人の気配はスッ、スッ、と小さな衣擦れの音を立て、自分に近づいてくる。恐怖で目を開けることができない内田さんの耳元で男の声がした。
「鍵はかけなきゃだめだよ」
その瞬間金縛りが解けた。
「やっぱり泥棒だった?」思い切って目を開き、あたりを見回す。男の姿はない。ベッドから飛び起きて玄関を確認する。やはり鍵はかかっている。一体あの男は何だったのか。
幽霊が注意しに訪れたのだろうか。しかし、鍵はかかっていたのだから、はた迷惑な幽霊である。
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