ソロモンの犬/道尾秀介-読書感想文-
天気予報にもなかった突然の土砂降り。
雨宿りのために、秋内はカフェに立ち寄る。
マスターにコーヒーを注文し、旧型のテレビを眺めた。
ニュースが流れている。
ちらつく画面でも、口の動きだけで何を言っているのかわかる。
秋内には、わかる。
するとそこに、大学の同級生である京也、ひろ子、智佳が偶然にも来店した。
4人でテーブルを囲むと、京也が囁く。
なにも言葉を返さないひろ子、智佳に代わって、秋内は答えるのだった。
小さな友達
秋内、京也、ひろ子、智佳の四人は、同じ大学の同級生。
大学の助教授である椎崎の息子・陽介と、その飼い犬のオービーとは、よく近所で顔を合わせる仲だった。
少し大人びて生意気な小学生の陽介と、陽介によく懐いているオービーは、四人にとっての「小さな友達」だ。
しかし、陽介は交通事故で命を落としてしまう。
オービーの散歩中、突然オービーが道路に向かって駆け出したのだ。
リードごとオービーに引っ張られ、強制的に車道に飛び出してしまった陽介は、ちょうどそのタイミングで走ってきた大型トラックにーーー
現場を走り去ってしまうオービー。
通行人たちの叫び声。
顔色を失ったトラックドライバー。
一部始終を見ていた秋内は、陽介のもとへ走り寄ることしかできなかった。
事故か、殺人か。
『飼い犬の暴走』
そんな見出しのとても短い記事で、椎崎陽介の死亡事故は片付けられていた。
しかしこのとき、秋内の頭の底には、こびりついて離れないある疑念があった。
オービーが突然走り出したあの瞬間。
そのとき、陽介が立っていた道路の反対側には、偶然にも京也とひろ子と智佳がいた。
そのときに京也がとったある行動が、どうしても頭を離れない。
その行動をとることで、京也が意図的にオービーを走らせたのではないか。
つまり、陽介を死なせたのは。
いや、"殺した"のはーーー
その疑念をだれかに打ち明けたい。
そこで秋内は、大学で動物生態学の講義を担当する助教授、間宮のもとを訪ねる。
秋内くんさ、ソロモンの指輪って知ってる?-間宮未知夫-
汚いジーンズ、よれよれのTシャツ、真っ黒なぼさぼさ髪…
ひと目見たら「うわ…」とだれもが呟いてしまうような見た目の彼が、動物生態学に精通する間宮未知夫だ。
事故の数日後に見つかったオービーを動物保護団体から引き取り、保護している。
彼は秋内の疑念や予測、自身の知識をもとに持論を展開していく。
動物生態学の助教授であることからもわかるように、彼の観察眼は一般人と比較して非常に卓越している。
一見頼りなさそうに見えるがその人なつこい性格もあり、実は他者からの信頼も厚く鋭い閃きも持っている。
彼とともに事件を追うことで、予測不能の結末へとつながることとなる。
青春とミステリー
大学生、しかも男女2:2ということもあり、どこか青春小説のような雰囲気のただよう本作。
キャラのポップさや個性の際立ちもあり、ワクワクするような早く続きを知りたくなるような、そんな作品だ。
とにかく文章にいっさいの無駄がない。
散らばっていたピースが一気に一つにまとまるような爽快感をおぼえるほどに、すべての文章がしっかりと意味を持っている。
四人の若者たちそれぞれの苦悩や、間宮ののんびりとしつつも核心をつく意外な一面など、常に盛り上がりのある展開になっており、最後まで一息に読んでしまえる。
番外編-ダントツのおすすめ作品-
道尾秀介さんの名前を知っている方の中には、
「ああ、ひまわりの咲かない夏の作者さんね」
と思う方もいるのではないだろうか。
間違いなく道尾秀介さんの代表作であり、道尾秀介さんといえば、ともいえる作品だと思う。
しかし個人的にはひまわりの咲かない夏は、何冊か別の道尾作品を読んでから読むことをおすすめしたい。
なぜなら、ひまわりの咲かない夏は
めっちゃ怖いから。
最初にあの本を読んだときの恐怖感、背中を這うぞわぞわする感覚はほんとうに忘れられない。
文章でここまで恐怖心を抱けるのかと驚くほどだ。
当時まだ若かった私は「道尾秀介さん=怖い本の人」というイメージができてしまい、その後しばらく道尾作品に触れることができなかった。
もったいない、、、
道尾秀介さんの作品における、ポップさや読みやすさ、鮮やかさを1番体験できるとあう意味でも、ソロモンの犬を強くおすすめしたい、という持論である。