なんでもない夜を超えるためには努力が必要だった
名前がほしい。とっておきの、綺麗な名前がほしい。簡単に私のこと、孤独だとか、一人ぼっちだとか言わないでほしい。
「わがまま」
君はプカプカと、私の脳みその中を浮き輪で浮いている。
「君は、孤独で一人ぼっち。さみしいさみしい一人ぼっち。きっと、一生、抜け出せないよ。取り巻くさまざまなものたちが逃がさないよ。」
まるで海だね。たどり着ける大陸の見当たらない大海原。私の船は路頭に迷って、床は浸水し始めている。「今日で終わりにしよう。もう随分耐えたよ。」
船はいつまでも沈まない。沈みそうで沈まない。沈ませてくれない。いっそのこと沈めてくれたほうが楽になれるのに。私の息の根はとまり、胸の鼓動がやみ、身は溶けて骨だけになってひとりきり、海底に堕ちる。素敵じゃない?もう孤独に苦しまなくて済むし。
「望んで孤独になったくせにね」
そうだよ。私が望んだんだ。私はいま、手に入れたかった暮らしや未来のなかにいる。
ただ期待しすぎていたのだ。少なからず、私はその暮らしや未来で、無条件に幸せになれると思っていた。さまざまなしがらみから解放され、のびのびと根を生やして太陽の方向に伸びていけるのだと、眩しさを鬱陶しむくらいに世界に愛されることができるのだと、そう思っていた。(だから、なんとか自分のかたちを忘れずにいることができた。)
でも、神さまは冷たい。苦しいひとはずっと苦しいまま。幸せなひとはずっと幸せなまま。神さまは見て見ぬ振りをする。人間とおんなじ。
ごめんね、神さまを悪くいってるわけじゃないよ。当たり前の話なの。社会とうまくやっていくためには、心得なければいけないことなの。
きっと、未来のいつか、私は振り返ってしまうだろう。自分の生きてきた航路を省みて、その青さや塩辛さをなんどでも思い出すんだ。そのとき、未来に希望はもてるだろうか。自分に期待できるだろうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?