モビリティ革命のその先へ

第四次産業革命により、私たちの生活空間は激変していくと言われている。それはまさに、私たちが映画やアニメ、小説の世界で想像していたことが現実世界へやってくるのである。そして、現実は想像さらに超越していく。

自動車産業は今後大きな転換を迎えることになるだろう。このことについては、自動車産業の構造転換についてのメモを参考にして欲しい。今回は簡潔に、自動車産業がサービス業化していくと表現する。

自動車産業がサービス業化し、カーシェアリング等のサブスクリプションを提供することで新たな市場を創生していく。それは、自動車販売を超える市場規模になるという予測が出されている。この予測通りになり自動運転技術が確立されれば、私たちは真の意味でのモビリティ革命を享受することになるだろう。

それは単に私たちの移動手段が増え、その移動にかかるコストが大幅に減少するということではない。また、たんに私たちの生活がより便利なものへと昇華することを意味するわけでない。それは、つまり私たちの生活空間そのものが一変していくことを意味する。

まず、自動運転が実用化されれば、タクシー業界のみならずバスや鉄道等の公共交通機関を含めてダイナミックな変革が起こることになる。それは移動サービスを提供する全ての業界を巻き込んだ価格競争を引き起こす。

同時にそれは人の移動だけでなく、モノの移動にまで領域を広げながら私たちの生活空間に入り込んでくる。モノ移動では、より自動化が進み配達から受け取りまで一貫して自動化されるだろう。現在、日本で問題となっている再配達問題も解決されるかもしれない。

また、人は移動したその先に目的があり、移動はあくまでもプロセスでしかない。自動運転はこのプロセスと目的の部分を大きく変えてしまう。例えば、現在、人は目的地に行くために移動しているが、自動運転技術とそれがもたらす新たなサービスによって、目的が私たちのところへ移動してくる。

例えば、クリーニングは消費者がお店まで自身の物を持ち込む必要があるが、これが消費者の好ましい時間帯にクリーニング店がやってくることになる。他にも、スーツの裾合わせ等もゾゾスーツの技術と自動運転の技術を組み合わせれば、最適なサイズと商品をお店に行かなくて提案してくれるだろう。お店へ行くという概念がお店が私たちのところへやってきて、そこで私たちにサービスを提供するという概念が生れるだろう。それはビジネスにおいても在宅ワークのような意味合いとは異なる意味合いを生み出し、レンタルオフィスの概念が大きく変化するだろう。その帰結として、駐車場ビジネスが既存のビジネスとは比較できない程巨大化するかもしれない。

このようにして目的<地>へと移動する意義が希薄化していく中で、最も大きな衝撃を受けるのが実在店舗に依存している小売りやサービス業であるだろう。なぜなら、消費者に対して来店させる動機を常に与えなければならないからだ。おそらく、商店街は今後ますます厳しい状況に置かれるだろう。もし、地方自治体や地域コミュニティが商店街の存続を望むならば、人の流れや見え方をデザインした商店街へと作り変える必要があるだろう。また、大型の小売店や百貨店等も今以上に苦しい状況に晒される。

このような世界では私たちは何を消費しているのだろうか。おそらく、私たちは体験や空間を消費しているのだろう。体験や空間を消費するということは、テーマパークや観光地へ行くということに似ている。それを30年後は都市という広大でかつ凝縮された場所で、ある文脈においては普遍的な形で、また別の文脈ではローカルな意味合いで受け取ることになる。それは、私たちが劇場化された空間でいくつものシナリオを体験し消費することになる。

モビリティ革命は第四次産業革命による技術進歩と織りあいながら、新たな消費の形を提供する。それは従来私たちが経験してきた移動の概念を変質させ、新たな概念を生み出していく。モビリティ革命のその先には、私たちの生活空間が変貌していく空白がある。西暦2050年という未来において、私は移動という概念が解放され、新たな移動という概念に束縛される。それは新たな社会の幕明けを意味するのかもしれない。


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