スズメの巣 第20話
第20話 二刀流って超人だけなのでしょうか?
開幕から2週間。
多くのチームでいろんなことが起きた。
1部リーグでは、麻雀組焔が第2節から無傷の3連勝6連対。
230ポイント弱を重ね一気に首位浮上。
一方シティドラゴは、トライアングルルールに苦しみ最下位に陥落。
順位はこうなっている。
1部リーグ第4節終了時順位。
1位 麻雀組焔
2位 ホビーウォーリアーズ
3位 麻雀カルテット
4位 ゴールドバンディッツ
5位 桜花隊
6位 パールズ
7位 横浜シティドラゴ
2部リーグについては、幕張の殻田が2節4連闘というハードスケジュールの中4連対+3連勝をあげ、チームも上昇気流になり首位独走。
一方、eレインボーズは早口以外は未だトップがなく、最下位。
一時マイナス600ポイントに迫る勢いだった。
順位がこうだ。
2部リーグ第4節終了時
1位 麻雀闘宴団
2位 ブラックタートルズ
3位 キャピタル麻雀部
4位 アイロンマレッツ
5位 V-deers
6位 ラフミカエルス
7位 夕暮れポセイドンズ
8位 eレインボーズ
そんなシーズンのさなか。橋口は会社のオフィスにいた。
「えっと・・・。」
橋口がオフィスのパソコンを覗き込む。
「ゴールドシリーズか・・・。」
とある大会を調べていた。
「おはよーございまーす~。」
「あぁ。おはよう。さくちゃん。」
「あれ。うーみんだけ?珍しいねぇ。」
「愛田さんは少し都合があって遅くなるみたい。」
「そっかぁ。で何してんの?」
「鳳さんが言ってたあの大会について調べてたの。」
「あれは結構有名だもんね~。」
前節のロッカールーム。
「そういえば、選手の皆さんはゴールドシリーズ出るんですか?」
鳳が尋ねる。
「私は、出ますよ!」
「俺も出るつもりです。」
「私は・・・色々あるので・・・。」
「そっか!みくちゃんあのチャンピオンだもんね!」
「ええ。まぁ・・・。」
「鳳さん。ゴールドシリーズって何ですか?」
「簡単に言えばテニスのグランドスラムみたいな感じだな。まぁ詳しくは調べろ。」
「あっはい。でもいいじゃないですか!それくらい教えてくれても。」
「説明がしづらいの。」
詳しくは教えてくれなかった。
ゴールドシリーズとは、麻雀界ではかなり権威のあるタイトル戦3つの総称である。個人戦と団体戦がある。
団体を超えたオープン戦だ。前身となる初開催の大会は、60年前という。
各大会に超大企業がスポンサーしているとあって賞金もすごい。
ゴールドシリーズでも唯一の個人タイトル戦は麻雀天下統一戦である。
参加資格は、大会が指定する現タイトルホルダーだけ。
年度初めの4月に開催される。
ちなみに、準決勝以上は和服で参加するドレスコードがある。
現団体総合王者や2冠保持者は2回戦。現ゴールドシリーズ覇者と3冠以上は3回戦シードと大会のランクや実績でシードを獲得できる。
なお、現天下人はシードとして準決勝から参加となる。
優勝賞金は1000万円。副賞に軍配や車などが贈られる。
チーム戦といえば誓桃戦である。
9月末に開催される大会である。
豹田がチェアマンを務める大会であり、男女混合で1チーム2から4名。
メンバーは異なる団体2つ以上に在籍かつ男女混合という交流とチーム戦を目的にした大会だ。参加チームには、リーグ・ザ・スクエアのチームで出場も認められる。
決勝は対局メンバー以外も対局会場で応援できる。
優勝賞金は2000万円だが、個人戦優勝MVPも賞金100万円である。
もう1つの団体戦は、都道府県対抗団体麻雀選手権。
団体を超えて47都道府県+海外・東京選抜の48チーム。
1チーム最大10名(各団体男女1名ずつ)。出身地の誇りを戦う。
優勝賞金5000万円とゴールドシリーズ最高額である。MVPには、麻雀天下統一戦シード権を与えられる。
この3つがゴールドシリーズと言われる。
一気にスターとなることも多いことで知られる。
橋口がページを閉じようとした時。
金洗のどよめきが聞こえた。
「何これ!?」
「どうしたの?」
「ゴールドシリーズに新たな大会だって!」
「え?いきなり?」
パソコンのニュースを見るなり叫んだ。
2人して金洗のパソコンにのぞき込む。
「この大会だね。」
「ロイヤルティアーズか。」
そのサイトには、このように書かれていた。
若手プロたちよ。シンデレラになる覚悟はあるか?
「なんかすごそうな大会だね。」
金洗が驚く。
「何々・・・。優勝賞金は1000万円か。」
大会システムはこうだ。
参加資格は、5団体に所属かつプロ歴10年以内。
予選と準々決勝までは全試合、全都市の総合ランキングで実施される。
予選は、全国9都市で実施。
上位100名が本戦出場権を得る。
すべて、リーグ・ザ・スクエアルールで行う。
それ以降の大会概要は、まだ未定だった。
「これは、なんかお笑いの賞レースみたいね。」
「たしかに、なんでだろ?」
2人で考えていた。
そんな中で、鳳が来た。
「ういー。」
「おはようございます。」
「そうだ、前言ってたこと調べたんですよ。」
「何よ?」
「ゴールドシリーズですよ。説明できそうな感じしましたけど。」
「あそこで、詳しく説明するのも時間があれだろ。」
「うっ確かに。」
橋口が意表を突かれたようにリアクションした。
「そういや愛田は?」
「用事を済ませてからくるって。」
「おっそうか。」
鳳は、スーツを脱ぐ。
同時刻。
愛田は、同じオフィスだが違うフロアの前の部署の会議室にいた。
「なんで私なんですか?前にも言いましたが、社長には専任ということで仕事を任せられてますし。」
「実はな、大変急だったんだ。いろいろなことが重なってな。」
「でも、いきなりの異動は社長も困るんでは?」
「その件だが、問題ない。社長に相談した。それなら仕方ないと。」
「ということは、容認されているってことですか。」
「ああ。あとはお前の返答次第だ。」
「私のですか。返答は決まっています。」
「そうか。聞かせてくれ。」
愛田は、深呼吸して答えた。
「今回のお話ですが・・・。お断りさせて頂きます。」
「言うと思った。他に当たって見るよ。」
「申し訳ございません。」
会議室を出た。
これでよかったんだ。
これで専念できる。
笑顔でスタッフルームに向かった。
9月末。
1部リーグは、横浜シティドラゴがトライアングルルールを攻略し始め、2節連続4連勝を決め徐々に順位がアップ。
現在4位まで上がってきた。
首位争いは激戦ひしめき。ホビーウォーリアーズと焔の点差は、10ポイントで縮み、いつ逆転するか分からない。
2部リーグは、1チーム週2試合しかなくあまり変動はない。
V-deersは、布崎・太平がチーム初トップで2連勝。
これにより、3位まで浮上。
反対に、eレインボーズは早口のトップはあるものの未だ勝てない。
借金は、マイナス600。いやもっとある。
橋口は喫茶店でそんなことを考えていると、電話が鳴った。
橋口の同期の西野である。
今は本社勤務で、名前上は同じ部署だが、eスポーツの担当をしている。
橋口は、喫茶店を一時的に外に出て電話に出る。
「はい。橋口です。」
「あっ。海ちゃん?久しぶり。」
「どうしたの?急に。」
「1つ聞きたいんだけど・・・。今いい?」
「いいけど。どうした?」
「愛田さんって海ちゃんと同じ部署だよね?」
「うん。そうだけど。」
「今日、辞令が掲示されてさ。」
「今日だったっけ。」
9月末だ。そりゃそうだ。
「ふと見たら愛田さんに辞令が出てるんだけど、心当たりある?」
「ええ?!」
驚くのも無理はない。
何も聞かされてないからだ。
「知らない!どういうこと?」
「やっぱりね。春の異動で今の職場に行ってこの異動で前の部署に逆戻りってあり得ないもん。」
「ありがとう!愛田さんに連絡してみる。」
「お礼は、焼き肉ね~。」
「オッケー。じゃあね。」
電話を切った。
愛田に連絡する。
出ない。
もう知っているんじゃ。
まだ、あの時間まではギリギリだ。
金洗に電話をかけた。
「もしもし。」
「あっさくちゃん?」
「どしたの?誓桃戦の観戦じゃないの?」
「それどころじゃないかも。聞きたいんだけど、今愛田さんいる?」
「愛田さん?いるよ。ちょっと待ってて。愛田さーん。」
しばらく経って野太い声が聞こえた。
「はい。愛田。」
「愛田さん。なんで電話にでなかったんですか!」
「え?あ、悪いな。デスクに置いたままだった。」
「そうでしたか。まぁいいです。結論から言います。愛田さん。辞令に心当たりありませんか?」
「辞令?嘘だろ!」
声色が変わった。
「心当たりあるんですね?」
「ああ。だが、あの話は流れたはずだ。」
「あの話?なんかあるんですね。私会社に戻ります。動かないでくださいね。」
「じゃまたあとでな。いや、21階のエレベーターホールでいいか?」
「分かりました。21階で落ち合いましょう。」
急いで、会社に戻る。
鳳へメッセージアプリにメッセージを送信する。
「かなりの急用ができました。誓桃戦はかなり遅れます。というか行けないかもです。鳳さんだけ観戦しておいてください。」
すぐに、既読が付いた。
「分かった。観戦してくるよ。」
本社に戻った。
前の部署のフロアで、愛田と落ち合った。
「愛田さん。」
「おお。橋口。」
「確認ですが心当たりは、あるんですね。」
「ああ、行くぞ。」
「どういうことですか?いきなり逆戻りって?」
橋口が、愛田にとって前の上司に聞く。
「人手不足なんだよ。分かってくれ。」
笑顔で言う。
「話が違う!俺は、断ったはずです。」
愛田がすごい剣幕で怒る。
「いやぁ。人事の辞令ってことはぁ従うしかないじゃん?」
「でも・・・。」
「まぁ10月からよろしくね!愛田君!」
「なぜ私に、連絡がなかったんですか?」
橋口が問いかける。
「いやぁ。タイミングが合わなかったんだよぉ。ごめんね!」
嫌な顔でつぎ足す。
「あとぉ会社に逆らったらぁどうなるか分かるよね?」
「うっ。」
何も言い返せない。
そのまま、撤退した。
「くそ!!納得いかない!」
愛田が腹を立てる。
「落ち着いてください。恐らくあの人がハメたんでしょう。」
橋口が制止する。
大荒れだった。
第21話に続く。
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